第14話:神々の試練 虚無編
ゾーディアスの魂を受け入れてしばらく、俺は嗚咽を抑えるように泣いていた。未だ虚無神の僕、ラグナレティオの試練は開始されておらず、あの温もりを感じたとたんに涙があふれた。いや、初めて理解したのかもしれない。己の未熟さ、それが招いた結果。もしも、あの時レナの話を聞けば。あの時もっと信じることができてれば。そんな「タラレバ」が延々と内側で廻る。
(主よ、そう思い悩むことはありません)
刀身に宿るバハムーティアが心に声をかける。その声色は俺を心配するのがよくわかるほど沈んだ声だった。自分の中にある傷はここまで酷いものだったのだ。しかし、それだけ俺がレナのことを愛していたことに改めて痛感した。
「あのさ……そろそろ始めてもいい?」
「あ、悪い。もう大丈夫だ。バハムーティアも心配してくれてありがとうな」
(主の心を支えるのも私の使命故、お気になさらず)
ラグナレティオは多くの剣を規則正しく廻しながら前に出た。先の二人? とは違い、割と放置されていたせいで若干涙目で聞いてきた。翼も気持ち低めになっているように見える。
「さて、最後の試練の『心』に入るわけだけど最初にも言った通りに努力とか力で何とかなるものじゃないよ」
「それは具体的にどうやるっていうのは教えてもらえるのか?」
「もちろんさ。簡単に言えば僕の剣が君を囲む。その剣を通して僕は君の心をあらゆる方向から覗く。最後にそれを見て僕が合格と判断できれば合格だよ」
「……案外君の裁量次第だな」
「まあ、今の君を見る限り大丈夫だと思うよ。それじゃ、始めていこう!」
ラグナレティオの剣が俺を囲むように刺さる。よく見ると、その剣はまるで鏡のように磨かれているようで、俺の姿を映した。今回のが『心』を見られる試練というのは心にやましい気持ちがあるか無いかを見る為のものだろう。神の力を与えた人間がそれこそ極悪人であればそれを止めなければならない。
ふと、あることを思い出した。あの刀『蛇毒ノ流水』のことだ。あれも神の作った刀であれば、バハムーティアと同じように他の僕が憑いた刀であるのは間違いないはず。けど、蛇毒は言っていた。お前の心は俺に投影される。つまり、他の神、それも復讐の神か何かがいるのだろうか? しかし、未だ腑に落ちない点がある。それは、何故父さん、キョウヤの刀には心に左右される刀がついてた? それに初代とも言っていた。つまりはあれは昔に作られたものであること。
自分の中で改めて出てきた疑問について自問自答していると周りに刺さっていた剣が抜かれてラグナレティオの下に戻った。ラグナレティオの顔には安堵が見える。
「お疲れさま。試練は合格だよ」
「ふぅ、運命に任せるのも肝が冷えるな」
「まあ、運命なんて偶然が重なった結果だよ。さて、僕自身も君に力を与えないといけないんだけど、君はすでに人間やめてるようなものだから……」
「それなんだけどさ、仲間に渡すことはできないのか?」
「君の力としてまず授けてからそれを譲渡することはできるよ? そうする?」
「そうするよ。ちなみに能力は?」
「集団戦で最も有利になれる『マルチロックオン』だよ」
「マルチ……ロックオン?」
「そう、沢山の敵に対して同時に攻撃ができる能力だよ。魔法とは違って、常時発動する効果? っていうのかな?」
なるほど、その能力はあっちにうまく作用しそうだ。
「あり難く頂戴するよ。ありがとう、ラグナレティオ」
「うまく使ってね~」
ラグナレティオの翼からはらりと羽が落ちてきて俺の頭に乗った瞬間、それは吸い込まれた。そして、俺の中で能力の詳しい情報が頭の中に入ってくる。予想以上に汎用性があるようだった。
ラグナレティオが一歩下がるとそこからセクターとサクラ、そしてきがついたアルが下から生えてきた。訂正しよう、出てきたが正解だ。しかし、違和感がある。サクラもアルも表情が暗いことだ。聞いてみれば俺のことを殆どセクターさんから聞いたらしい。俺は少し息を吐いてサクラとアルに話しかけた。
「あれは俺がもう少し考えれば回避できたことだし、サクラのせいでなければさっき会ったアルのせいでもない。だからそこまで気に病まなくてもいいよ」
「ハイル……私は必ずそばに居続けるよ。人を裏切るような家族の一人に――かった」
「サクラさんなにを言ってるんですかね? あ、ハイルの兄貴! 俺も兄貴に付いて行きますよ!!」
サクラの最後の言葉はきこえなかったが二人とも俺の為に励ましてくれる。ってか、アルに関しては付いてくるという始末。いい意味で賑やかになりそうだった。
セクターさん曰く、迷宮に戻すと襲われる可能性があるようなので入口に送ってもらうことになった。何から何までやってもらい申し訳なく感じる。最後に、と前置きしてセクターは語り始めた。
「向こうに戻ったらギルドの資料室に向かいなさい。この世界の真実について知ることができる」
「わかりました。何から何までありがとうございます」
「……儂らはあまり世界には干渉できん。これから先自分との葛藤や苦痛があるかもしれん。しかし、決して自ら命を絶たないでおくれ」
「わかりました。創造神の仰せのままに」
俺たちの下に魔法陣が浮かび上がる。次に会う時は天寿を全うした時にでも会えるのだろうかと遠い未来のことを予想しつつ、俺たちの視界は真っ白に染められた。
――――
目を開ければ多少見慣れた極東の街、それも迷宮の入口にいる。どうやら転移は無事に行われたのでほっと胸をなでおろす。
――ィㇽ!
遠くで俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。それも懐かしいあの声で。
――イル!
まただ。ありえないことに驚く。だって。
「ハイルーっ!」
君はここにはいないはずなのに!!
そこには少しやつれた顔の『剣星』、レナがこちらに向かって走ってきた。しかし、レナは俺に触れることはできなかった。
パァァァァァァァァン!!
弓を射た独特の音、それが俺の背後から鳴り、レナの足元に矢が射られた。振り向くと、サクラが弓をもって殺気を放っている。そして、サクラは腰の矢筒から矢を取り出し構える。
「ハイルに近づくな。裏切者」
「……貴女には関係ない話よ。部外者の女のくせに生意気ね」
「お前にだけは言われたくないわ。それに、私はハイルのパーティーメンバーよ。部外者じゃない」
「あらそう。なら、後悔することね。私とハイルの間に入ってきたことを」
その緊迫した空気の中後ろからおいて行かれたであろう勇者のティールが走ってきた。その瞳が俺を捉えると俺に訴えるように叫んだ。
「ハイル君! 君が僕を恨んでいる理由は分かる! それでも今は、今だけは彼女を止めてくれぇ!」
あまりの唐突さに驚いている俺とアルは勇者の叫びを聞いた瞬間に目を合わせそれぞれ間に入った。帰ってきて早々にややこしいことになりそうで少し泣きそうになる。でも、今の俺に復讐はなかった。
だからこそ、俺はふと言葉をこぼす。
「これは、また修羅場になりそうだ」
続
上の画像は主人公のハイル君です。作者の私も惚れ惚れするほどイケメンです!
次回は3/15までに更新を行います。
ここまでの読了ありがとうございました!
次回は閑話の予定です。




