第13話:神々の試練 剣術編
今回はある意味好みが分かれる回かもしれませんね。
運命神の僕であるバハムーティアとの試練が終わった後、後ろで待機していた剣術神の僕のゾーディアスが出てきた。その姿を改めてみるとそれが荘厳であることが分かる。玉蟲色の鱗に黒い鬣、顔の皺には長い年月を生きてきたことを知らしめるかの如く深く刻まれている。
「これより、剣術神の僕ゾーディアスの『知恵』の試練を始める。先に言ったと思うが我の試練は過去の偉人の追体験であることを忘れぬように」
「誰のというのは教えてくれないのか」
「……教えることができればここまで心を痛めん」
心痛めてたんだ……。確かに、どこか寂しげというか、申し訳なさが分かる。
「それでは、これより微睡に意識を飛ばす。これは本来言うべきではないが試練を合格できることを心から願っている」
「それだけでもうれしいさ。神の僕が期待しているってことだろ?」
徐々に霞んでいく世界。そんな中ゾーディアスの表情が見える。
……あれ? あの表情、俺は何処かで――。
それを思い出す前に俺の意識は暗転した。
――――
――
目を開ければそこは玉座の間だった。煌びやかな部屋に頭には冠、至る所でメイドが働いていることからの総合的な判断だがほぼ確実だろう。俺から見て奥の扉が唐突に開いた。入ってくるなり鎧の音を激しく鳴らしながら跪く女性。傍から見れば美女と称されてもおかしくないがその女性は顔を青くしているのは分かる。
「王よ! 許可を取らずに玉座の前に出ることをお許しください!」
「面をあげよ。余と貴殿の仲だ」
(声が勝手に!?)
体も声も自分で動かせない。まるで自分の思考が残されたまま操られているようだ。
「して、何か揉め事か?」
「はい、なんでも子供を取られたと主張する母親と元々自分の子だと主張する母親がいまして……。裁判をこの場で行うことを許可して頂きたいのですが」
「構わん。民が揉めているとなれば余が出なければならぬ。騎士長、その母親たちをここへ」
「王の仰せのままに」
瞬く間に裁判の準備が整っていく。この様子は本で読んだことがある。三百年前の魔王が出る直前まで行われてた様式だ。つまり、この王は少なくとも三百年前の王なのは確かである。
「それではこれより裁判を始める。証人は前へ、それぞれ弁護をするものは証人の横へ」
裁判を取り締まる神官らしき人が指示を出すとそれぞれが指定された所に立つ。
「この裁判は王が見届け人及び裁判の長として同席する。また、これより先の虚偽の発言は王に対する反逆として罪に問う事とする。各々内に留めるように」
ここまで俺自身が何もできてないことを考えると、試練の意味は何だろうか? 現在もどんどん裁判の準備が進んでいるが俺の意思で体を動かすことができない。
「それではこれより裁判を始める」
裁判開始っ!!
母親A「この子は私の子です。証拠は……残念ながらありません。でも、私の弁護人含め多くの人が出産に立ち会ってもらっています」
母親B「この子は私の子よ! 見ればわかるでしょ!?」
……これ、母親Aが本当じゃね? どう見ても証拠とか言ってるじゃん。
「これは……分からんな……」
いやいや、おかしいだろ!? どう見ても母親Aじゃん! なんでわかんないんだよ!
はぁ……はぁ……つ、疲れた。試練の意味は分からないし、この王様アホだし。
そうこうしているうちも裁判は進んでいき、ついに判決の時がきた。王様は理解していないが、明らかに母親Aの勝利は見えている。しかし、王様は予想外の判決を言い渡した。
「この赤子を半分に割き、それぞれの母親に渡す」
「お、王よ! ご乱心なされたのですか!?」
ほんとにご乱心だよこの王様。
「騎士長よ。これより先の母親の反応に留意するように」
「……王の仰せのままに」
納得しちゃったよこの部下!?
母親A「……王よ、その子を彼女に渡してください。どうか命を大切にしてほしいのです」
母親B「そんな必要ないわ! 王よ、さっさとその子を半分にして頂戴!」
この反応を見た騎士長ならびに王様はこの時確信した。いや、実のところ、この王様はすでに最初から気づいていたのだ。母親Bが嘘をついていることに。わざと泳がせる事で多くの虚偽を吐かせ、罰するつもりだったのだ。
「判決、母親Bには三日間の生き埋めの後に磔する事を申し伝える」
この瞬間に俺の意識は再び暗転し、目が覚めた時は神界に戻っていた。その様子を見てゾーディアスは少し不安げになりながらこちらに問いを出してきた。
「あまり良さそうな顔をしとらんな……。しかし、試練は試練、質問をさせて頂く。貴殿にとって知識とはなんだ?」
「あの夢を見て答えろと言うのなら、知識はもつだけじゃない。それをどう使うのかまで考えられてこそのものだってことかな」
「なぜ貴殿はそう感じる?」
俺は息を少し吐いて考えてた事を整理する。
「最初に感じた違和感は体の自由が無いことだ。思考できるのに体が動かないなんて、そうそうあることじゃないしな。でも、ゾーディアスは言っただろ? これは追体験だと。つまり、俺の意思や思考に関わらずその体験自体は進行する。考えることだけで物事が判断できない知識など、あって無いようなものだ」
「しかし、それだけでは先の質問の答えになってないが……」
「まあ聞けって。次に感じた違和感は王の最後だよ。明らかに何か気づいてた。それに気づけたのは騎士長との会話だな。何かに気づいてたからこそ騎士長に留意するよう伝えていた。そもそも気づいてなければあの発言自体狂気じみている。つまり、あの王様には知識がある。人を見極めるほどにな。だからこそあの状況下であの発言をすれば本当の母親を見極められると踏んだんだな」
「なるほど、では貴殿は追体験で何を得た?」
「簡単な事だ。知識だけじゃなく目を使う、それを実践することこそこの試練の答えだ。これ自体は剣術にも精通する。剣術は知識だけでも、力任せでもいけない。知識を得てそれを実践してこそ技を磨ける。だからこそ、剣術神のする試練が『知恵』だった。違うか?」
「……お見事。よくぞ試練をクリアしたな。我をその身に融合として宿す事ができるが、どうする?」
「魂か……それを宿すとどうなる?」
「皆まで言うことはできないが、剣術としての才は世界で五本の指に入ることになる」
「そうだな、俺は強くならなくちゃいけない。これから守る為にも。だから頼んだ」
「あいわかった」
ゾーディアスはその身を光に包み、その体を球体にして俺の中に入って行く。入ってきたそれを俺は拒まず、その暖かさに懐かしさを感じる。あぁ、この暖かさは母性に似たものだ。
そして俺は思い出す。あの時のゾーディアスの表情。まるで我が子が死地に赴く事を不安に思うあの表情。それは過去に母であるセレーナとショーギ町に連れてきてくれたヨミコさんがしていた表情だった。
あぁ、今だけはこの暖かさに甘えたい。もう味わうことの出来ないぬくもりだから。
続
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