帰り道の公園
帰り道の公園
サーっと電車の扉が開き、閉じる。扉の向こうの景色が十回ほど変わり、凛が降りる駅がたどり着いた。集団に流されながら電車をおり、階段をくだり、改札を通る。すると様々な色をした物体が四方八方へと拡散していき、息苦しかった空間が急に開けてきた。凛はゆらゆらと体を揺らしながら歩き、駅構内にあるコンビニへと入った。無数にある商品の中からカフェラテを選び出し、レジへと持っていく。手早く会計をすませた後、コンビニの外へと出る。
相変わらず外では、雨が降り注いでいた。
普段自転車に乗って大学に行く凛にとって、雨は憂鬱なものでしかない。凛は少しばかりのため息をつき、音もなく降り注ぐ雨の中、傘をさし、ゆっくりと歩いた。
基本的にこの地域は外を出歩いている人が少ない。元々高齢者が多いこともあり、さらには観光地や名所のような場所が一つもないせいか、外からくる人がほとんどいない。そして地域住民は自宅に引きこもっているため、人通りが極端に少ないのだ。
この地域にあるものといえば、馬鹿でかくいくつも立ち並んだ団地に、少しだけ上手いと感じることのできるラーメン屋くらいだった。
帰り道の公園、ふと目をやると小さな少年がいた。十八時を回っていたため、余計に珍しく思えた。少年は一人だった。一人でただ、立方体のジャングルジムの前に立ち尽くしていた。
ひどく錆びついたジャングルジム、今にも風化してなくなってしまいそうな鉄の棒を見ていると、なんだか少しさびしくなった。現代では子供の怪我が多く、徐々になくなりつつあるらしい。昔、外で遊んでいた自分のことをどうしてか思い出した。
凛は、雨に降られている少年に歩み寄り、そっと傘を被せてやった。どうしたの? お母さんは? おうちはどこにあるの? 聞かなければならないことは山のようにあったような気がする。でもどうしてか、凛の口からは言葉が出てこなかった。
凛に気が付いた少年は、凛の方へと顔を向け、にっこりと笑顔を浮かべた。そして少年はジャングルジムにトコトコ歩み寄り、じりじりと上へと登っていった。頑張って一番上にたどり着くと、少年は座り込み、凛の方へと両手を振ってきた。凛が手を振り返すと、少年は満足したようで、ジャングルジムから飛び降り、走ってその場を立ち去った。送っていこうか、と言葉を発する暇もなく、少年は雨の中へと消えていった。
翌日、大学へ行く前にその公園に立ち寄ると、昨日見たはずのジャングルジムは、どこにも存在しなかった。
〈了〉