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ようこそこの悪辣非道な異世界へ  作者: 上原シオン
[1.狐目美人は腹黒い]
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天の愛を

「ようよう白くなりゆく山ぎは……と言いたいところだけど。何も見えねえ」


 あ、どうも俺です。ユージです。

 潜伏開始から約八時間。携帯食料も食べ切って暇で暇で仕方がない。


「しかしまあ、『警戒してません』を演出するためとはいえ……盗賊って楽しそうだなあ」


 あいつらアジトに帰ってから夜通しどんちゃん騒ぎだもんな。毎日こんな生活してんのかな。羨ましい。


 今俺はどこにいるでしょうかー!? なんて某珍獣ハンターな導入を使いたくなったけど、実際にテレビカメラに映したら恐らく画面が真っ暗すぎて一瞬でボツだろう。いやけっこう大変だったんだぞカットするなよ。せめてダイジェストくらいは流して。


 俺が潜伏しているのは[宵闇の狼]のアジト、その付近の岩山だった。

 そもそもこのアジト、街はずれの廃屋という非常にベタな建物でありながら、同時に元は名家のものだったらしくかなりの豪邸なのだ。

 もうオンボロではあるが、高い塀に門扉、広い庭。ついでにお約束の秘密の地下道まで付いて、盗賊の根城にするには最適。


 だが防衛に適した地形というのは、逆に外に逃げづらいということでもある。


 数時間前、冒険者の男と回復術師の少女が地下道の入り口からこっそり侵入しているのは確認した。

 残るは例のAランク魔弓士。

 そうなればもう大体予想はつく。


「冒険者って無茶苦茶やるなあ――」


 俺は岩陰でため息をつく。

 新月の夜を背景に、エルフの女性が塀の上に佇んでいた。

 金色の瞳だけが星のように輝いている。


 ふっと息を吐いて、そのエルフは弓を引いた。

 一度に複数の矢をつがえ、天に放つ。矢は一度空中で停止する。

 それを繰り返す。

 大量の矢が溜まったところで、彼女はそれを行使した。


「[天の愛を(Amor)]」


 高密度の雷属性が全ての矢に付与され、轟音と共に一斉射出された。

 音速を凌駕した神雷の嵐が廃墟の壁を穿ち、突き崩し、柱を貫き、抉り、尖塔の一つを丸々倒壊させる。


 いやいやいや、建物ごと盗賊を一掃する気かよ。中に蓄えられたお宝まで消し飛ぶぞ。

 しかもなんだ[天の愛を]って。あの暴力の渦に愛なんて名前をつけた奴のセンスが知れない。ドSかよ。


 魔弓士の女性を見るとうっすら笑っていらっしゃいました。

 ドSでした。

 しかもまた矢をつがえてるし。どんだけ攻めるの好きなんだよ。死んじゃうよ。


 まあ、なんだ。予想はついていた。

 炙り出しだ。

 冒険者の男たちが地下道から侵入していたのはこのため。高い塀に囲まれ、逃げ場のなくなった盗賊たちを内側から刈り取るつもりだ。

 ……詰めが甘いなあ。

 俺なら地下道の入り口で待つ。この場合わざわざ自分から出向くのは愚策だ。いくら[天の愛を]だろうと、屋内に援護射撃を届けられるわけじゃない。数的不利は緩和されていないのだ。


「きゃああああああああっ!!!」


 そんなことを思っていると、廃墟の中から女の子の悲鳴が上がった。

 十中八九、先の回復術師の女の子だ。

 まずいな。予想通りだ。

 眉をひそめたエルフの魔弓士が空中を浮遊して廃墟に近づく。ダメだ、近づくべきじゃない。


 ズン、と腹の底に響く震動が辺りに広がった。それと共に、得体のしれないイヤな悪寒がゾワゾワと背筋を満たす。

 魔力妨害波だ。

「あっ……」

 エルフの体を支えていた魔法が途切れた。何が起こったかわからない、という顔でエルフの魔弓士は塀の内側に墜落する。わあっと勝ち鬨が上がり、墜落地点に声が群がる。

 女性の悲鳴がこだまする。


 そして辺りは、恐ろしいほどの静寂に包まれた。


「……さて」


 俺は気配を殺しながらじりじりと移動する。俺の仕事はここからだ。

 しかし回復術師の女の子も、魔弓士のお姉さんも、大丈夫だろうか。二人とも見た目がかなりよかったから、最悪、着いたときには盗賊に囲まれて凄惨な現場になっているかもしれない。


 ミステリア姉としては、危険ならここで引き上げてもいいらしいけど。でもなあ。

 ここで見捨てると後味が悪すぎる。


 俺も行動開始だ。

 まだまだ追加報酬を食らいにいく。そのためには三人を生かして帰さなきゃならない。

 骨が折れるね。


 ロープを結わえたフックが外壁を捉えた。

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