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ようこそこの悪辣非道な異世界へ  作者: 上原シオン
[1.狐目美人は腹黒い]
5/16

前略。アサシン生活、慣れてきました。

 王都は今日も曇り空。

 ……いい天気だ。少なくとも、俺みたいな商売にとっては。


 奴隷商のおっちゃんのもとを逃げ出した日から一年。

 俺はあのときと同じように民家の屋根から屋根へと歩を進めていた。だがシチュエーションが似ているだけで、その他は天と地ほども違う。


 動きやすく、目立たないくすんだ白装束。

 外套の袖に隠した、機巧ギミック入りのガントレット。

 革のブーツの側面にはナイフの鞘。しゃがんでいるとき、腰に吊るすよりも引き抜きやすいからだ。


 どうやら自分で思っていたより、織田雄二はこの世界に適応できているようだった。

 一流の隠密業――暗殺者アサシンユージとして。


 俺はある男を追跡していた。

 足音だけじゃなく、日差しや風向きに気を配ることも忘れない。

 標的の方へ自分の影が落ちないようにすること。音や匂いがいかないように、風下に位置取ること。

 身に付いている。大丈夫。


 標的の男が急に足を止めた。かと思うと、辺りをキョロキョロ見渡し――裏通りの細い細い小道に、すっと入っていった。

 ビンゴ。

 俺は息を殺しゆっくりと距離を詰める。薄暗い小道には標的の男の他にもう一人いて、小さな袋と金貨を交換している。かなり警戒した様子で辺りを窺っているが、さすがに屋根の上には気づかない。

 ――いや、俺が魔力ゼロだからか? なんせ俺の体は、簡単な魔力感知結界くらいならすり抜けてしまうから。


 魔力適正ゼロ。これが唯一無二の俺の強みだった。

 当初こそ魔法が全く使えないことを恨んだものの、実はこの特性はアサシン業にとって天恵ともいえるシロモノだったのだ。

 噛み砕いて言うと、この世界の住人は漏れなく魔力を感知できる。

 微弱な魔力を拾うことで、人の気配を感じ取ることも、魔法の使われた痕跡を辿ることもできる。

 要は、この世界の魔法とは、致命的に足のつきやすい道具なのだ。

 しかし魔力適正ゼロともなれば――?


 俺は音もなく屋根から身を乗り出し、抱えていた大型のクロスボウを撃った。

 強靭な板ばねが跳ね返り、微かな音と共に弦が連動し、クォレルが標的の後頭部に突き刺さる。


 標的の男には声を発する暇すら与えなかった。文句なしの即死だ。

 ヤツにできるのは、前のめりに斃れ、血と脳漿を噴き出しながらガクガクと痙攣することだけ。

 もう一人が慌てて屋根の上を見るが、遅い。もう俺はその場を後にしている。


 俺は、魔力的に感知されることがない。

 足がつくことも、一切ない。

 これは俺だけの強み。異世界生活わずか一年目の俺を、一流のアサシン足らしめている秘密の一端だ。

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