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ようこそこの悪辣非道な異世界へ  作者: 上原シオン
[0.スタートアップ]
4/16

大脱走スナッフブラザーズ

 数日後。

 あれから俺は縄でぐるぐる巻きのまま、さるぐつわを噛まされて倉庫に閉じ込められていた。最低限の食事しか運ばれなかったり喉が渇きすぎて死にそうだったり見張りの男が夜這いにきて後ろの貞操がピンチだったりしたけど本筋に関係ないのでカットです。


 さっき微かに聞こえた話し声から、ついに俺に買い手がついたことを知った。

 ああ哀れ織田雄二、このままどことも知れぬ異世界で変態どもの餌食になってしまうのか?


「……なーんて、ね」


 手首のロープを解いた俺は、もう足首のロープに移っていた。

 策はすでに打ってあった。錆びたカミソリを手に入れていたのだ。監禁一日目に倉庫の隅から隅まで探索した甲斐があった。幸運という他ない。

 それにただ数日間捕らわれていたわけじゃない。拘束されている間は、監視の間隔を覚えることに全神経を集中させていた。ロープの解除に思いのほか手間がかかったものの、次の巡回まで少なくとも一時間はあることがわかっている。


 全てのロープを外し終えたが、自由の身というにはまだ早い。倉庫から出なきゃいけないからな。


「どうしたもんかね」


 やっぱり倉庫の天窓から逃げるのが筋かな。武器持った怖いお兄ちゃんたちから正面切って逃げる自信はさすがにないです。

 だが天窓まで足がかりになるものが全くない。梁がかかっているが、はしごなどがないと届かない。

 普通なら絶体絶命だ。

 だがそこで、先ほどまで俺を苦しめていたものが、今度は救いの手になってくれる。


「縛ってるのがロープで助かったよ……。感謝感謝」


 俺はさっき切り裂いた縄を、今度は結び合わせて一本のロープにしていた。ご丁寧にも全身ぐるぐる巻きにしてくれたからな、長さも全然余裕だ。

 ロープの先端には重りの代わりに、これまた拾った木片を結わえてあった。重さが足りない感は否めないが、贅沢は言えない。一度でも成功してくれれば、それでいい。


 俺はぶんぶん振り回してロープに勢いをつけ(無駄にカウボーイ気分を味わってしまった。たのしー!)、梁に向かって投げた。先に結わえた木片のおかげで、ロープは梁にぐるぐると巻きつく。

 引っ張って強度を確認したが、問題はなさそうだ。一回で成功してよかった……。正直一番時間をとられるのがロープだと思っていたので、タイムロスを防げたのは非常にありがたい。


 だが、いいことばかりは続かないものだ。

 がんばって慣れないロープ登りを敢行していると(これ案外難しいよね)急に大声が倉庫を震わせた。


「……おい待て、お前なにをしている!」


 ――やばい! 見つかった!

 明らかにまだ見回りの時間じゃない。イレギュラーだ。ちくしょう、うまくいってたのに!

 もうここからは時間との戦いになる。見回りが扉の鍵をガチャガチャしているが、慌てているのかなかなか外れない。これが最後の猶予だ。

 向こうは魔法が使える。遠距離攻撃手段はいくらでもあるはずだ。


 素早くロープを登り切り、梁を足場にして天窓へ。大丈夫、手が届く高さだ。窓ガラスを開けて、ってこの窓はめ込み式じゃねーか!

 もたついているうちに、ついに扉が開けられてしまった。憤怒に顔を真っ赤にした奴隷商のおっちゃんも一緒だ!

「てめえ、覚悟しろよ! 食らえ、――」


「[風精の鞭]、だろ?」


 衝撃波はしゃがみこんだ俺の頭の上を虚しく通過して、背後の天窓を粉々に粉砕する。

 ――行動パターンは読めてんだ! ワンパターンすぎんだよノータリン!

 自信はあった。おっちゃんの顔を見た時点で、発生速度、飛距離、詠唱の短さ、またおっちゃんの使い慣れた様子から、絶対にこれが来ると確信していたのだ。


「魔法? そんなもので俺を捉えられると思うな! じゃあな、おっちゃん!」


 呆然とするおっちゃんたちを尻目に、俺は悠々と天窓へと身を翻した。

 追跡防止にロープをほどいておくのも忘れなかった。なんせそのために梁の近くに結び目が来るよう調整したからな。


 外の空気と数日ぶりに再会した喜びを噛み締めながら、俺は民家の屋根から屋根に飛び移って逃走する。

 まだ安心はできない。おっちゃんたちが外に出るには時間がかかるはずだ。

 それまでに姿をくらませなければならない。

 街の地形なんざわからないが、なるようになれだ。倉庫でうずくまっているよりは数億倍いい。


 必死に逃げながら。


 ――初めてだったのに。俺、こんなに動けるのか。

 もしかして『こういうの』、向いているんじゃないか?


 そんな考えが、ちらりと脳裏をよぎった。

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