後日談
ブクマありがとうございます!
「うふふ、やりました! 大儲けですよ、ユージさん!」
ミステリア姉はご機嫌だった。
どのくらい有頂天かというと、先ほどから俺の首にひしとしがみついたきり離してくれないのだ。良い匂いで窒息しそう。
ちなみにミステリア姉はお胸が大変慎ましやかなので、こんな密着した体勢だろうと胸が当たってドキドキ、なんてシチュエーションは起こりえなかった。いやもしかしたらちゃんと当たっているのかもしれない。諸説ある。
[宵闇の狼]アジトでの大立ち回りのあと、俺は魔弓士のお姉さんと回復術師の女の子を口説く――わけにもいかず、素早くマッチポンプの証拠品だけ回収してアジトを後にしたのだが。
その後、ミステリア商会に冒険者の男がやってきた。報酬の分け前として、金品の入った袋を携えて。
「今回の件で『裏』の助力がどれほど重要か、身に染みて理解した。もしよろしければ、今後とも良い関係を築きたい」
ミステリア姉が破顔したのは言うまでもない。
冒険者から情報料をせしめる。
その冒険者パーティの情報を、今度は[宵闇の狼]に売り渡し、さらに情報料をせしめる。
そして危地に陥った冒険者パーティを救い、恩を売る。あわよくば[宵闇の狼]殲滅の分け前を受け取る。
……ミステリア姉の悪だくみは、おおよそこんな構造だった。よくもまあ、あの短時間でそこまで思い至るもんだと呆れる。悪辣さって天性のものなのかね。
ちなみにあのマジック・ジャマー、本来なら好き勝手に魔力妨害波をオンオフできる代物らしい。だがミステリア姉は一計を案じ、一度発動したら止まらないよう魔導器に手を加えた。
俺が立ち回りやすいように。
[宵闇の狼]に魔導器を貸すとき、あのミステリア姉がかなりの安値で妥協したのはそういった事情もあってのことだった。
もし魔導器をケチられると、俺が侵入するとき魔法を使える相手に囲まれるので、ミステリア姉としては何としても借りていってほしかった。最初からそこまで考えての商談だったのだ。
逆に言えば、魔導器をケチられた場合俺が冒険者たちを助けにいったかは怪しい。リスクとリターンが釣り合わなくなる。
彼らが今無事でいるのは、ある意味では[宵闇の狼]のおかげなのだ。
「私は幸せです。たった二日で金貨五十五枚に銀貨二枚、嗚呼、今いただいた分け前を合わせるともっと……」
恍惚とした表情で一人つぶやくミステリア姉。だが今はもっと大切なことがある。
「そろそろ解放してほしい。首絞まってる首絞まってる」
「あら、すみません。私としたことが、浮かれてしまって」
こうですよね、とミステリア姉は真正面から俺を抱きしめてきた。
「……あの?」
「どうか、しばしこのままで。お金もそうですけれど、ユージさんが無事に帰ってきてくれたことを改めて実感しているんです」
……軽口を言える雰囲気じゃなくなってしまった。
仕方ないので軽く抱き返すと、ミステリア姉は安堵の息をついた。
「そういえば、前から気になってたんだけど。人の命と金貨、ミステリア姉はどっちを取る?」
「金貨ですね。私は我欲に忠実ですので」
「それは、俺でもか?」
「…………」
「ミステリア姉がなにかと俺に良くしてくれるのはわかる。でも例えば、もし[宵闇の狼]アジトへの潜入を、あのとき俺が諦めていたら。俺の身の安全と得られたはずの報酬、ミステリア姉にとってはどっちの方が重いのかなって」
「怒りますよ?」
耳元でささやかれて、背筋がぞっとする。
「もし本気でそれを言っているのなら、私は怒ります。当たり前じゃないですか」
「……悪かった」
「ユージさんの方が、ずっとずっと大切です。金貨十万枚でも足りません。――私は我欲に忠実ですので」
卒論やばいので一度更新止めます
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