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ようこそこの悪辣非道な異世界へ  作者: 上原シオン
[1.狐目美人は腹黒い]
11/16

暗死闇葬霧隠れユージ

 地響きと共に、地下通路が崩落する。

 駆け寄る足音。三人分のそれを背後から狩ってゆく。

 叫び声。ざわつき始める邸内。

 冒険者の男が逃げ出した、という情報が回る。それは俺の存在を隠す心理的な煙幕になる。

 かくして隠形は露見しない。陰から陰へと、一人、また一人と姿を消してゆく。

 何かがおかしいと[宵闇の狼]が気づいた頃には、残党は七人まで減っていた。


「くそっ!」

「わけがわからねえ。どうなってやがる……?」


 大広間の扉。閉め切られたその向こうからかすかに話し声が聞こえる。


「……冒険者の男が千切っては投げ、千切っては投げしている。そういう風に見える」


 粗野な盗賊たちに混ざって、唯一冷静さを感じさせる声。

 いつかの[宵闇の狼]渉外の声だ。


「だが、明らかに騒ぎの大きさと死人の多さが釣り合っていない。これはやられたね――」


 声の向きからして、呼ばれている気がする。

 頃合いかな。


「鼠がいるよ。しかも化け物じみたヤツさ」


 俺は派手に扉を蹴り開けた。

 瞬時に内部を見渡し、配置を確認。

 まず目に入ったのが中心の魔弓士のエルフと回復術師の女の子。装備ごと服を剥ぎとられ、下着姿で縛られてはいるが、乱暴された形跡はない。割とギリギリだったかもしれない。

 その捕虜のそばに二人。左三、右二。合計七。

 ――いける!


 中心の一人が慌ててクロスボウを構える。

 次の瞬間にはそいつの眉間に小さな短剣が突き刺さっていた。


「がっ……」


 短剣の出所は俺の右腕だった。

 ミステリア姉からもらった、仕掛け付きのガントレットだ。手首近くの部品を中指で引っ張ると、バネ仕掛けのストッパーが外れて短剣が飛び出す仕組みになっている。スペツナヅナイフと似たような構造だ。

 消音性が高く、不意打ちには持ってこい。

 このガントレットは俺が最も信頼している暗器の一つだった。


 残り六。


「この野郎!」


 左から殺気。やはりクロスボウ。顔は恐怖に彩られている。

 魔法が使えないから当然か。

 盗賊もアサシン同様、足がつくことを恐れてあまり魔法を使わない職業ではある。だが正面切っての戦いになればその限りではないし、やはり全く魔法を使わない戦いに慣れている様子はない。

 魔法を一切使えない前提で、ずっと対人戦に特化して戦ってきた俺とは違うのだ。


 クロスボウの射線を読み、左腕のガントレットで弾く。盗賊の顔が引きつる。


「く、来るな!」


 クォレルを避けるように右へ。斬撃をかいくぐりながらナイフを抜き放ち、一人仕留める。同時に先ほど殺した男からクロスボウを奪った。クロスボウの装填には時間がかかる。鹵獲できると強い。


「うっ撃て! 撃て撃て撃て!」


 恐慌状態に陥った盗賊たちが一斉に俺に狙いをつける。

 咄嗟にスライディングして矢を躱す。今度は俺の番だった。


「ひぃ!」

「動くなよ」


 攻守交替。狙いをつけて放った矢は一人の盗賊の心臓を貫く。

 残り四。


「怯むな! やっちまえ!」


 カットラスを構えた盗賊三人が突進してくる。

 マトモにやり合うつもりはない。

 俺は流星錘を取り出した。先端におもりを結わえたロープ。簡単に作れる割に破壊力が高く、応用も効く、これまた便利な暗器だ。

 流星錘で先頭の盗賊の足を絡め取る。派手にこけたあと、後続の二人が巻き込まれてしっちゃかめっちゃかになった。

 そこに小爆弾を放り込む。導火線に火のついた、とびきりホットなやつだ。


 残り一。


「鼠、そこを動くな!」


 鋭い声が飛んだ。[宵闇の狼]渉外だ。

 見ると回復術師の女の子の首に短剣が突き付けられている。震えて涙を流す下着姿の女の子ってエロいなと、場違いな感想が脳裏をよぎった。


「これ以上動けばこの子の首を刎ねる。武器を捨てろ」

「へえ。そうかい」


 面白いので足を止め、ナイフを捨ててやる。


「そうだ、それでいい。次は両腕を上げて――」


 ほんの僅かな気の緩み。女の子の首から、ナイフが離れた瞬間だった。


「まあ、ガントレットは左腕にもあるからねえ」


 盗賊の額は即席のダーツボードになった。どちらかと言うとダーツではなくナイフ投げだが。

 ずるり、と彼の身体が崩れ落ちる。辺りはひどく静かになった。


 周囲を探り、残党がゼロになったことを確認してから俺は二人を拘束するロープを切り裂いた。

そうだ、あれも回収しなきゃな。マジック・ジャマー。あれ回収しないと面倒なことになるぞ。



「あっ、あの!」


 盗品を物色していた俺は、その声に振り向く。回復術師の少女だった。

 手で胸元を隠し、ほんのりと頬を染めながら彼女は呟く。

「あなたの……お名前は」

「私も聞きたかった。あなた、素晴らしいわ。冒険者? ぜひ私たちとパーティを組むべきよ」

 魔弓士のお姉さんもノッてきた。しかも下着の紐を指でひっかけ、胸元を強調して誘惑してくる。


「あー……大変ありがたい話なんだが……」


 俺は頭を掻いた。


 名前は言えない。申し出に乗ることもできない。

 今の俺は後ろ暗い裏の人間、アサシンだから。……そしてなぜか、笑顔でエグいオーラを放つミステリア姉が脳裏に浮かんだから……。


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