プロローグ
「ごめんなあ。君は死んでしまった」
真っ暗闇の中で声が聞こえる。
ここは、どこだ? さっきまで通学電車に揺られて、居眠りしていたはずなのだけれど。
「このまま君の魂を混沌の淵に還してもいいんだけど、さすがに不憫すぎるからね。新しい生活を用意してあげることもできる。どうする?」
生き返らせてはくれないのか。
それならもう、答えは決まってるじゃないか。
「本当? ――よかった! 君に目をつけて正解だった! 言っとくけど、いまさら転生したくないなんて言っても無駄だからね」
ふとその瞬間、ものすごく嫌な予感がした。
例えるなら、よくわからない書類にサインしてしまったとか、気づかぬうちに借金の連帯保証人にされていたとか、そういった類の悪寒。
言質を取られた。
あれ? なんかこれ、ヤバいのでは?
「これから君を送り込む世界は、滅茶苦茶シビアで悪ののさばる殺伐とした――じゃなかった、刺激的で素敵な毎日をいくらでも送れるんだ! 日常に退屈してた君にはぴったりでしょ」
おいなんかヤベーの聞こえたぞ。
「あと、これは餞別。向こうの言語のプリインストールと、多少のお金。それに君の適応力を高めておいた。これでも応援してるからさ、せいぜいボクを楽しませてよね」
それを最後に、声は遠ざかっていった。
いや楽しませてよねじゃねえよ……。
なんかくれたのはありがたいけど、聞いた感じどうせ大した能力じゃないんだろ。知ってる。
織田雄二。有名人と一文字違いということ以外、特に取り柄もないただの高校生。
異世界に、キター! ……いやアホ言ってる場合じゃない。