お話し好きなお客 プロローグ
本当に、お話が好きなお客さんだった。
こんなにも一人のお客さんと話したのは初めてだった。閉店時間を過ぎても、彼女は色々な話をしてくれた。
もちろん、俺も悪い気はしない。それは彼女が物凄い美人だからだ。正直、ちょっと少し浮かれていたかもしれない。
そのお客さんは、常連の学生たちが帰ったあとの、午後九時頃に来店した。
紅茶とクッキーのセットを注文すると、その後は物珍しそうに店内をきょろきょろしたり、本棚で次々に試し読みをしたりしていた。
はじめて見る顔なので、もしかしたら誰かにお勧めされて来たのか、もしくはネットのレビューでここを知ったのか、と思った。
彼女のお気に入りは、流行りのライト・ノベルのようだった。
何冊かをテーブルに積み上げ、甘いクッキーとともに堪能していた。
しかし、どうにも気になったのは、彼女の読み方は少し変わっていて、一冊を通して読みふけるのではなく、二、三ページを読むと、ほかの本に移る。
次の本も数ページを捲り終えると、もう次の本に移る。そうして、次から次へとラノベをとっかえひっかえしているのだ。
気まぐれといえばそうだが、飽きっぽいだけなのか、何にしても少し変わった読み方だと思った。
彼女は一杯目の紅茶を飲み干したようなので、俺は意を決して、そのテーブルへと近づいた。
「あ、あの……。こ、紅茶のおかわりはいかがでしょう?」
少々声が上ずってしまったのが恥ずかしい。