表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

閉館を忘れた日 エピローグ

 まだ時間に余裕があったので、俺はまた遠回りをすることにした。

 出湯温泉入口の交差点から、やまびこ通り入口に向かう。

 五十ccの軽快なエンジン音が冬の空に吸い込まれてゆく。

 それほどの勾配ではないのだが、このオンボロバイクは苦しそうに唸る。

 このオンボロは旧友の家の納屋に埃をかぶっていた物を、タダ同然で譲ってもらった。なんとなく、バイクに乗ってみたいなあ。と思ったからだ。

 黄色い、ホンダのカブというやつで、なかなかに可愛げのある相棒だ。それでも、

 やはり、いつか大きなバイクに乗ってみたいなあ。とも思った。

 峠道をひたすらにくねくねと登ってゆく。

 草木が湿気った匂いが、なんだか懐かしい。

 やまびこ通りの頂上に着くと、俺は誰もいない展望台に寄りかかり、ふもとの自販機で買ってきた缶コーヒーをダウンジャケットのポケットから取り出した。

 ずいぶんぬるくなっていた。

 本当は熱いコーヒーが飲みたかった。……恐ろしく熱いやつが。

 あの夜の不思議な来訪者は何者だったのか、それはわからない。

 もしかしたら夢だったのではないか?

 そうも思ったが。あの日以来、カウンターの隅にある、”貸出中”のレターケースの中には高橋 歩の『人生の地図』の貸出票が入ったままだ。

 そして、俺の手元には古びた懐中時計がある。

 それは、今もしっかりと時を刻んでいる。

俺は、展望台から遠くを見た。

 山間に点在する小さな家々の向こうに広大な田園風景。巨大な鉄塔に架かる高架線。冬の空気はとても澄んでいて、新潟市内のビルまではっきりと見えた。

 ここからは見える景色は、いったいこの世界の何分の一なのだろうか?

 急にそんな思いが頭をよぎった。

 俺は、これから、いつもの店に行く。俺が店長を務める、図書カフェ”寄道堂”。

 そこで俺は開店準備をし、店を開け、今日も多くのお客を招き入れる。

 時々、長針も短針も秒針もない文字盤と、その小窓から覗く憂鬱そうなカッコーを見上げる度に、あの不思議な夜の出来事と、去っていった旅人の事を思い出すのだろう。

 何もない日もあれば、少し嬉しいこともある。失敗して落ち込むこともあれば、また不思議な経験をすることもあるのかもしれない。

 そういう日々が続いてゆくこと。それが、きっと俺の旅なのだ。

 彼が俺に言ってくれた、あのかっこいい言葉は、そういう意味なのではないかと解釈することにした。

 心の中で、俺は俺の人生の地図を広げ、いったい自分はどれくらい進んだのかと考えた。

 そして、その旅路のどこかで、バッタリと彼と再会できる気がしてならない。

 その時、彼は、彼の探しているというその答えを、ちゃんと見つけられているだろうか?

 俺は、カブのエンジンをかけ、下りの道へ向かった。

 

 今日もエンジンは絶好調。

 どこへでもゆける。

 そんな気がした、

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ