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花食症  作者: 柏井彫刻
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 暗闇の中で浮遊する意識の中で、薔薇の香りが鼻を掠めた。

 次々と意識と体のケーブルが繋がっていく。そして、覚醒した意識が朝だと告げていた。

 眠い。瞼は未だに重く閉ざされている。だが、猛烈な喉の渇きに耐え切れず、私は瞼を持ち上げる。

 まだ完全に起きていないのか、視界がぼやける。音が遠くに聞こえる。

 五月の中旬、気温は上がりつつあるものの、朝はまだ部屋に冷気が漂っていた。軽く身震いしつつも、そばに置いておいたスリッパに履き替え、部屋を出る。

 洗面台に向かい、顔に冷水を浴びる。

 一気に眠気が去るのがわかる。意識が完全に覚醒する。

 かけてあるタオルで顔を拭えば、ふわっと薔薇の香りが薫る。

 いつもあまり意識したことがなかった香り。なのに何故だろう。今日に限って香りが鼻に残る。

「薔薇ってこんなにいい匂いなんだ」

 薔薇への印象を改めながら、私は一階に続く階段を下りていく。

 次第に漂う香ばしいバターの香り。母親が朝食を用意してくれているのだろう。

「おはよう」

 リビングに入れば、そこにはテーブルに料理を並べる母親の姿があった。

 今日はトーストらしい。スクランブルエッグやら、トマトやチーズやらが並んでいる。

「早く食べちゃいなさい」

 母親は言う。

 が、食欲がない。

 いつもは三食きっちり食べるのだが、こんな日もあるのか。

 母親に謝りつつ、朝食には手を付けずに二階に戻る。

 自室にある鏡の前に立ち、学校指定の制服を身に纏い、髪を結わく。

 「あれ、こんなところに……」

 よく見れば、鎖骨のあたりに赤い痣のようなものができていた。どこかにぶつけた覚えもないし、痛みも痒みも感じない。ただ本当に、そこだけが赤く染まってしまったかのようだった。

 でもまぁ、二、三日もすれば自然と治るだろうとあまり気に留めずに、鞄を持ち自室を出る。

 今日は確か嫌いな体育がある。少し憂鬱な気分になりながら、私は学校へ向かった。


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