初面接
窓から降り注ぐ朝日と電車の走行音で目覚まし時計よりも早く目が覚めた。
眠たい目を擦りながら携帯電話のディスプレイを確認すると、
4月1日の6:30を示している。アラームをリセットしながらテレビを付けると、
大きなため息をがでた。
好きな女子アナがいつもの様に満面の笑みで目を輝かせながら原稿を読んでいる。
「新社会人の方々は今日が初出勤ですね!いってらっしゃい!」
あれだけ好きだったはずだったのに、この言葉は嫌味にしか聞こえない。
テーブルに置かれたリモコンに手を伸ばすと同時に電源ボタンを押すと、彼女は姿を消した。
とりあえず、身支度をしようと考え、一通りを済ませた。
髪をとかした後、改めて鏡に映った自分を見てみると心なしか目が濁って見えた。
頬もこけた気がする。
こんな時に実家に住んでいたら両親や妹は慰めてくれるのだろうか。
進学の為に長野から神奈川まで出てきて4年間の家賃や授業料の一部を
出してくれただけに顔なんて合わせられないか。
両親には、やりたいことが見つからないから1年はフリーターとして働くと言い訳じみた事を
言ったがあっさりと認めてくれた。
「お前の思う通りにやってみなさい。」
両親の言葉を思い出すと自然と涙がこぼれた。
涙を拭った後、ソファに腰を掛けパソコンを起動させた。
使用したくはなかったが、在学中に登録しておいた既卒者向けの就活サイトで求人に目を向けた。
もう金融業界への未練なんて無いし、良さそうなのは手当たり次第だな。
「神奈川県 既卒」この条件で検索すると800件近くの求人が見つかった。
案外行けるんだな、そんな事を思いながら各求人を見ると飲食、介護、警備の数々。
サービス業は無理だな。土日は休みたいし。
直ぐに条件を絞り出した。
「神奈川 既卒 土日休み 各保険込み サービス業は除外」
この条件で検索すると先程とはうって変わって、100件にも満たない求人しか残っていなかった。
100年に一度の大不況とやらを僕は心底恨んだ。
ブラック企業と思しき会社を除外すると、受けようと思える会社は更に減っていったが、
僅かに残った会社の一つから面接試験の案内が届いたのは次の日であった。
面接日は今週の金曜日。ここに決まりさえすれば多少遅れを取った社会人としての生活も巻き返せる。
強い希望を胸に、面接当日を迎えた。
「朝日健と申します。本日はよろしくお願いします。」
この一声から僕の人生をかけた面接は火蓋をきった。と思われた。
学生時代の面接とは何かが違う。
面接官は二人いたが、二人とも名前を名乗らなかった。志望動機や自己PRを聞いてくるあたりは見慣れた
面接だったが、二人とも聞いているのかいないのか反応が鈍い。
15分程経過したころだろうか、小太りで眼鏡をかけた面接官が初めて口を開いた。
作業着の右胸には鳥島と書かれている。
「朝日君さぁ、何か元気ないよね。既卒で就活してて大変だって事は個人的には分かるけど、会社的に見たら知ったこっちゃないんだよね。何というか、内定が貰えない理由が何となくわかるわ。」
覚えているセリフはこれだけだが、他にも僕の人生を否定するようなことを言われ続けた。
考えろ、何か考えろと必死に思考を巡らすも出てくるのは反論ではなく汗のみであった。
頬を伝って膝に落ちるのが分かる。
黙っている僕に見かねたのか、今度は面接を進行していた痩せこけた面接官が話を切り出した。
「んー、朝日君は学校成績は優秀だし真面目そうなんですが、確かに少し元気がないかもしれませんね。」
「金子君もそう言ってる事だし、うちには合わないかもな。何か最後に言いたいことはある?」
まるで生ごみを見るような眼で僕を見ながら吐き捨てた。
「・・・ いえ、特にありません・・・・」
泣きだしそうなのを必死にこらえて振り絞った声は我ながら情けなかった。
「それでは、本日の面接は終了とさせていただきます。結果の方は就活サイトを通して連絡を差し上げます。」
どうせ落ちているに決まっているんだから、いっその事この場で不採用と伝えてほしいものだ。
二人に見送られながら帰路についた。