風の唄声
「わかったよ……」
ミリアの見つめる視線を受け流しながら、ルイは肩をすくめる。授業といっても歴史を聞く程度で、生活に直結するような事は教えてくれない。エステリアで暮らしていれば、そんな事もないのだろうが、子供達も働かなければならない小さな村では、授業に参加出来る子供が少なかった。
「今から三百五十年前にグリム王国が始まりましたが、その最初の国王様の名前が分かる人?」
ミリアに促され、授業を受ける部屋へ向かうと、やはりと言うべきか歴史の話が聞こえて来た。誰もが必ず教えられる初代国王の名前。今から三百五十年前の事を知っても仕方ないとルイは思う。それでも、このグリム王国にとっては歴史的瞬間だった事は間違いない。
「初代国王か……」
ルイは呟く。貧しい村の子供として生まれながら、激動の時代を生き抜いたファーレルの英雄。今は存在しない天使と魔族の争いに終止符を打ったとされている。当時の事は知らない。ルイは今を生きているのだ。
「あれは?」
「なに?」
そんな事を考えていると、外から数人の武装した男達がこちらへ向かって来ていた。
「義勇兵かしら」
ミリアは不安げに言った。
「この村に義勇兵が来るとなると……ラスベル様の所ね」
「あの爺さんに今更何の用事があるんだよ」
既に八十歳を過ぎ、左腕を失った老人。若かった頃は冒険者として名を残したが、今はこの村の師範として子供達に剣を教えているに過ぎない。
「だって、この村に義勇兵が来る理由がないじゃない」
ミリアに言われなくても、そんな事は分かっている。この村で冒険者は存在しないのだ。だからこそ、義勇兵が来る事に胸の高鳴りを感じた。