風の唄声
「何が動いた後の水だよ……酒が飲みたいだけだろ」
まだ動けるのに、稽古が終わってしまった。
しかも、水と言いながら昼間から酒を飲み始めた老人の顔を見れば苛立ちもする。
一気に飲んだのか老人の顔は既に赤く、木陰で横になると眠ってしまった。
ここは、エステリアより北東へ早馬で1日走った位置にある自然に囲まれた小さな村。
その村の中心部には、子供達が勉学に励む施設がある。
剣の稽古を終えたルイは、その施設に設けられた水浴び場へ足を運ぶと、ぶつぶつ言いながら汗を流し始めた。
火照った体に冷たい水が心地よく、苛立った心も洗い流されるようだった。
「まったく……ルイってば、また剣の稽古だったのね。いい加減、勉強しないと先生に怒られるわよ」
一息ついたルイの背中から、呆れた少女の声。
「何だミリアか。お前には関係ないだろ」
ルイは振り向く事もなく、何処かへ行けと右手を振る。
「はぁー。ルイってば、いっつもそうなんだから」
そう言われたルイは、ため息交じりで振り向いた。
そこには、両腕を腰に当てながら、ぷくっと頬を膨らませたミリアが立っていた。
茶色がかった肩までの髪は、赤いリボンで横を結んでいる。
クリッとした茶色の瞳は大きく、まるでリスが口の中に餌を含んでいるように見えた。