風の唄声
☆☆
「ーーーはぁっ!」
少年の掛け声と共に、金属と金属がぶつかり合いかん高い音が響く。
何回かの打ち合いで、少年は後ろに弾き飛ばされた。
額からはキラキラと汗が飛び散り、両肩は上下に揺れている。
正面には長い白髪を後ろに束ね、左頬に深い傷あとを残す老人が右腕だけで長剣を構えていた。
80歳を過ぎた老人とは思えない鋭い眼光。
左腕は失われているものの、鍛え抜かれた肉体は、未だ衰えを知らないように見える。
「強くなったなルイ」
ルイと呼んだ少年をどこか嬉しそうに目を細めた。
「……」
呼吸が整わないルイは、言葉を発する事ができず、ただ老人を睨みつけている。
そのまっすぐな瞳は、空と同じ澄んだ青色をしていた。
汗で濡れた髪も、瞳と同じ色をしている。
無造作に伸びきった髪を老人と同じように後ろで束ねたルイは、少年というより少女のような可愛らしい顔立ちをしていた。
「今日はここまでにしようかのぉ。ルイは加減を知らんからな……」
「待って……後ーーー」
「今日は終わりだ。体を休める事も大切だと教えた筈だ」
老人は剣を納めると、水の入った袋に口をつけた。
「動いた後の水は何度飲んでも美味い」
「水じゃなくて酒だろ」
腰を下ろした老人を見ながら、ルイは呆れながらも剣を収めた。