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6話 異世界との遭遇Ⅳ

「いやまて、後輩よ。そんなに青ざめるな。まだ不味いって決まったわけじゃない。」


俺は引き止めるように、後輩のほうに手をやる。

魔物は不味いってのは意外とよくあるファンタジーの設定だ。

だからといっては何だが、魔物ってだけで敬遠される風潮にある。

魔物ということが分かったのは魔力操作だ。

これはビーストの種族下か魔物などにしかないスキル。

一応、伝説上にはこのスキルを持っていた奴もいたらしいが。


まぁそれは置いといてだな。実際この熊は魔物だ。

日本の熊との違いは毛の色が少し違うぐらいしかないが、正真正銘の魔物だ。

正式名称、グリズリーベア。肉食系であるけどもそんなものMMORPGでは関係ない。

序盤と中盤の間ぐらいに出てきた雑魚モンスター。

大した特徴もなく、初心者達の経験地になっていったようなモンスターだ。

つまりはそんなに強くない。


「でもそれ以前に魔物を食うって事に抵抗がないってどういうことなんすかね。」

「モン○ンやってたし、むしろ魔物だからって理由に躊躇があるほうが不思議だわ。」

「それは先輩が変人なだと思うっす。」


その回答にが聞こえた瞬間に速さ特化により後輩が対応できない速さで飛び掛り、後輩の額に軽いキックをお見舞いする。

そんなに強い威力ではないものの、後輩は少し後ろによろける。

しかし、職場ならばデコピンやはたくぐらいなら日常茶飯事だったので、後輩は気にすることなく会話を続ける。


「魔物というか、衛生面大丈夫なんすか?その熊。」

「大抵焼けば問題はないだろう。ついでに言えば内臓や脂肪でなく、筋肉などなら肉食特有の肉の臭みは草食動物と大して変わらないぞ。」

「物知り何すね、先輩。ところでやっぱり解体するんすか?」

「当たり前だろ。多分この先必須だぞ。」


うわー、と苦虫を噛み潰したような顔をする後輩をよそに俺は実際に解体しようとする。

手を『抗体』コーティングしてナイフ状にして肉を切るが、兎の手では流石に不自由があった。

捌きにくいとかそんなんじゃない、ちっさいから超不便。


それを見かねて、後輩が手伝う。

ああ、気のきく奴だな。と長年思っているが、貰い手は無い。

そんな失礼なことを考えながら、解体を進める。


「先輩は解体の経験があるっすか?」

「しばしばな。」


別に猟師ではないのだが、よく母が猪や熊を貰ってきた。

何所から貰ってきたんだといいたくなるような、特別なものを捌くのが家での俺の役割だった。

今思えば母は色々おかしい。

職業も教えてもらえないとか、大金を持って帰ってくるとか、本当に何者だったんだろうね。


『抗体』の便利能力で解体用ナイフを作り出すと、後輩に渡す。

そんなこんなで3時間ほど、俺達はずっと解体にいそしみ。

やっと、熊を解体しきることに成功した。


"条件を満たしました。スキル『解体』を獲得しました。"


なんだなんだ!

解体をし終わるといきなり手に入れることが出来た。

これはもしかしなくても、この熊のせいだろう。

きっと同じく後輩も手に入れているだろう。ちょっとドヤ顔なのがその証拠だ。

『解体』ね、ゲームではなまじモン○ンのように剥ぎ取るだけだったから、こんなものがあるという事はありえない。

他のスキルは俺が知らない未知のスキルと決め付けることが出来たが、これは違う。

仕様が違う。

これはゲームが違うといってもいいほど大きな問題なのだ。


アップデート?いや、ゲームの中の設定か?

・・・いずれにしても、RSOとは多少違うところがあるということか。

これで生存のための俺達の札が一つ信用できなくなった。

一番大事なゲームの情報が。


これでここがどこか分かっても、記憶の中の地図が完璧には信じられないということだ。


「『電撃エネルギー・ボルト』」


後輩がそう呟くと、雷が手元に出現する。

技と言うのは便利なもので、その技の下位にに属する技を使用できるのだ。

更にスキルの変化もしやすいので、今後にも期待できる。

そんな良スキルなのだ。


後輩は薪にその魔法を放つと、簡単に発火させる。

パチパチと木のはじけ飛ぶ音を立てながら、燃え広がっていく。

すぐに巻き全体が炎で満たされ、洞穴の中に煌々と光を放つ。

解体に三時間もかけてしまったのでもう日も沈んで夜だ。

辺りは暗いのでこのような明かりはありがたいと思う。

俺は適当な大きさの肉を後輩の前に持っていくと、後輩が削った木の棒で串刺しにする。

その串を火の傍に置いて焼く。

『効率化』により、その串はとても綺麗に出来ていて、先がちょうど良く尖り刺しやすくなっている。

本人は無自覚で使用しているようだが。


アルミラージの小さな手で串を取り、焼けた熊肉にかぶりつく。

とにかく腹が空いていた。躊躇なんてない。

新鮮な肉だったからかは分からないけれども、肉から沢山の肉汁が出てくる。

日本食の細かい旨みとは違った充実感。

肉汁が肉が次々と口に入っていき、あっという間に間食してしまった。

隣を見れば後輩も同じように間食している。


"条件を満たしました。称号『魔喰デッドイーター』を獲得しました"

"条件を満たしました。称号『魔物殺しモンスターキラー』を獲得しました"

"条件を満たしました。『魔喰デッドイーター』と『魔物殺しモンスターキラー』を統合し、『侵食者デッドリー』を獲得しました。


ありがたみの無い称号がぁあああ!?

何だよデッドとかイーターとかキラーとか!凄い不名誉感がする!

解析!全力解析特化ァ!『解析』ィ!!


魔喰デッドイーター

魔の者を喰らう者に与えられる称号。

魔の者を喰らい、吸収、回復できる。


魔物殺しモンスターキラー

魔物を殺したものに与えられる称号

魔物に対してのDBダメージボーナスを得ることが出来る。


侵食者デッドリー

敵に侵食する者に与えられる称号。『魔物殺しモンスターキラー』と『魔喰デッドイーター』の称号を獲得したものに与えられる。相手の体に侵食、一時同化が出来る。


えげつねぇ!

確かにRSOでも称号での効能ってかなりあったけども、これはやりすぎだろ!

って『侵食者デッドリー』?

たしかRSOでの『魔物殺しモンスターキラー』と『魔喰デッドイーター』との統合は『貪る獣』だった気がする。


「この世界って本当にゲームなんだな。」

「そうっすね、でも『貪る獣』は嫌っす。」

「はは、・・・なぁ楽しいか?」

「楽しいっすよ、勿論!先輩もそうなんでしょ?」

「なにゆえ?」

「だってこのシチュエーションっすよ。先輩お得意の持論なら"楽しまなきゃ損"っすね。」


後輩は変わらぬ笑顔でこちらに向き直る。

俺は変わってしまった体を動かして、後輩のほうへ向く。


「ご明察どおり・・・。だが、問題点が有る。」

「先輩はハッピーエンド好きっすしね。」

「何だ分かってたのか。・・・この世界には不純が多すぎる、"問題"のクリア。"変わった"スキル、しかも戦い関係のな。"白銀の聖獣"の存在意義。

何から何まで、何所を考えても袋小路、問題点が多すぎる。」

「やっぱり先輩はハッピーエンドにしたいんすか?」

「やれるならやりたい。だけど、無茶なことばっかだ。それで」

「自分は付いていくっすよ。」


先に後輩に言われてしまう。

まるで、声に出す言葉が分かっていたように。


「自分は一人じゃ何も出来ない駄目っ子なんで、フォローよろしくっすよ、先輩!」

「・・・ああ。本当に後輩は後輩だな。」

「何すかその言い方!誉めてるのか貶してるのか分からないっすよ!」

「両方だよ馬鹿後輩。」

「馬鹿って言った!」


パチパチと薪は火花を立てながら、洞穴を照らす。

壁には一匹と一人の影が映り、照らし出される人は清々しく笑う。

静寂の夜には似合わない、そんな五月蝿い場所。

そんな言葉が似合う洞穴の中で、俺達は夜が明けるのを待った。



ちょうど火が燃え尽きていた頃、俺は起床した。

後輩は横でまだ寝ている。きっと夜勤が祟ったのだろう。

俺は自分の手をまじまじと見つめる。

やはり夢ではなく、現実のようだ。

今も夢の中という可能性もあるが。


元比較的ホワイト企業勤めだったがやはり朝は早い。

体が、いや心が起床時間を覚えているかのようだった。

それが確かなら、今は午前五時前。空から光で照らされるのを部屋から出て確認したが、日本の春ぐらいの午前五時の状態と一致する。

つまり日照状態は日本の春というわけだ。

他には特段代わりはなく、言うとしたら日本よりは寒いといったところだ。


すぐに部屋に戻り、後輩に近づく。

アバターなので、絶世の美女が眠っているように見えるが、幻覚だと言い聞かせて後輩の肩を揺さぶる。

ゆるく動かしてみたが、起きる気配がない。

ちょっと激しく動かしてみるも。


「すぅ、あと3マッハ・・・。」

「なんの夢見てんだ、よっ!」


勢いを乗せて、黄金の右手によるスマッシュ。

簡単に後輩にヒットして、心地よい音を鳴らせる。


「いたっ、・・・あ、おはようです。」

「おはよう。というかお前はそんなに熟睡できるんだ。」

「いつも通りっすよ?」

「違いないな。」


軽く冗談を交わしつつ、やはり現実的な部分に入っていく。


「さて後輩さんや、俺達の取れる行動は三つだ。

1つ、この世界の常識に合うように過ごす。

2つ、他の事例が無いかなどと転生シリーズありがちな行動を取る。

3つ、やりたい放題。」


ちょっと意地悪な問題だなと、自身で苦笑しつつも順番に三本の指を立てる。

確かにどれも現実的だ、実際にこうするという選択肢もあるだろう。

だが俺達にとっては選択肢は一つだった。


「この世界に来てから何回決まりきったこと言わせるんすか・・・。」

「意思確認は大事だろ?」


俺がそういうと後輩は俺と同じく三本の指を立てた。

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