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4話 異世界との遭遇Ⅱ

うん、現実を見よう。


ここはゲームオンラインサービス開始時当初からあったダンジョン。

ダンジョン名、"理の聖典ことわりのせいてん"。

このダンジョンは意味不明な力と物量のモンスターで有名なダンジョンで、当初に作られたはずなのに未だ最高難易度に君臨し続けるありえない難易度のダンジョンだ。

俺のゲームプレイ時には一度も破られることの無かった場所。

明らかにAIじゃ出来ないような高等テクを連発し、その無尽蔵の魔力から放たれる魔法は強力無比。

HPも馬鹿高く、そのHPを全て削るまでの間一撃必殺レベルの攻撃を避けきることは不可能に近い。

この世界のラスボスとも呼ばれている最強のボス。

名を"クリア・フロート"。

そのクリアという名の意味、消失から"消滅の魔神アポカリプス"とか痛い名前をつけられている。


実際に戦うとその呼び名も伊達じゃないということが良く分かる。

逆に相応しいと言ってもいいくらいだ。


で、その最悪の代名詞が目の前にいるわけだ。

俺達を召喚した者として。


「後輩。どうやら俺は疲れているようだ。」

「駄目っす先輩。現実逃避は逆に心を傷つけます。」


くしくもこれは現実だと言うことが体に受ける威圧感で分かってしまう。


「・・・なぁ、俺が来る前にお前が魔王をどうにかすれば、俺は呼び出されずに済んだんじゃねぇのか?」

「死ぬ時は一緒っすよ☆」

「一人で死ね。」

「あのー。そろそろ話させて貰ってもいいかな?」


あ、そろそろ殺されるんですか?

威圧感が大きく増しているような錯覚を覚える。

蛇ににらまれたように体が動かず、声も出ない。

俺達が無言だった事を了承と取ったのか。


「じゃあ話させてもらうことにするけど、その前に調べることがあるんだ。だから失礼ながら読み取らせてもらうよ。」


俺達が固まっているのをいいことに、クリアは淡々と行動を続ける。


「"然るべく行われる理解"」


彼女がそう言うと俺たちの周りをおぼろげな光が立ち込める。

おぼろげな光は俺達を囲むように存在していて、まるで檻の様だと俺は思った。


「怖がらなくていい。これは君たちについての情報を得ているだけだから。

特別な殺傷性や、無闇に傷つけるような効果はないよ。」

「・・・消す気は無いのか?」

「そんなのだったら召喚すらしていないよ。」


クリアは含み笑いをしながら魔術と思われるものを続ける。

彼女が嘘をつく意味はないはずだから、本当に能力把握をしたのだろう。

それより情報開示だ。それなら失われた俺達の情報も分かるのではないか?

そんな希望を抱いたのだが。


「あれ?何で君たちには名前が無いんだ?」


駄目でした。


「・・・。気にするほどのことでもないけど、・・名前が無いと呼びずらい。

君たち、失礼な他の見事かもしれないが、自分で名前を決めてくれないかな?」

「・・名前がないと確かに不便だな。」

「えっと・・・。じゃあ自分はニックネームでもいいっすか?」


マジ馬鹿。


「そういうことも自分で決めればいいと思うよ。どうしてもなら私が決めてもいいけど・・・。」

「すいません自分で決めさせてもらいます。」

「俺も自分で決めさせてもらう。」


他人に名前決めさせたら大抵碌な事ないしね。


名前。元の世界でもかなり重要な役割をしていた機能だったが、どうにも俺達はそれを失くしてしまった。

前の名前を思い出したらそれを使いたいので、ここでの名前は愛称のような感じでつければいいだろう。白銀でシルバー。頭2文字を取った形で。


「俺の名前は――シル。そう呼んでくれ。」

「先輩がシルっすか・・・。じゃ、自分は語呂的にラトって名乗るっすよ。よろしくです、クリアさん。」

「?そういえば自分の名前って名乗ったっけ?」


マジ馬鹿。

こういうところでミスするからいつまで経っても俺に後輩って呼ばれるんだ。

頭はいいのに何でこういうところは抜けてるのかな?


「いや、きっと、たぶん・・・どこかで言ってたっすよ?」

「そうかい?そうだったけ・・・?」

「まぁ、それは置いといてだな・・。クリア、俺達を呼んだのは何用なんだ?」


「そういえば説明してなかったね。簡単に言うと。私はこの城に束縛されてきたんだ。」

「束縛?」

「長く永く。もう呪いなんじゃないかと思うくらいに。実際呪いなんだけど。

呪いってのは、何かこの城から出られなくなってるだけなんだ。そのせいでたまに来る冒険者とやらと戦うことだけが楽しみになってて。来る日も来る日も、人が来ては倒れて消えていく。」


ゲームの中の"ボスは一定範囲から出られない"という仕様はここだとこのような呪いっていう扱いになるのか。

確かにゲームの中だったら当たり前だったと思うけど、普通に考えるとこうなるのか。


「まぁ、冒険者の軍勢はまぁまぁ手ごわかったし、たまに強い奴も来るから暇という暇はなかったんだけど。でも、それだけが楽しみってのも嫌になって。そこでだよ!召喚した者を外の世界に出して、外の様子を伝えてもらおうと思ったんだ!」

「伝えるっていっても具体的にどうやって・・・?」

「方法はあるよ。君たちは異世界から来たようだから知らないと思うけど。この世界には"幽界の手引き"という連絡用魔道具があるんだよ。」

「あの課金あい――ムグッ。」

「後輩、ちょっと黙れ。」

「見た目はただの指輪なんだけど。これがあれば同じ指輪を持つ人と一定の条件化でメッセージを伝えることが出来るんだよ。異世界の人達には珍しいかな?」


クリアが意地の悪そうな笑顔を見せながら指輪を見せ付けてくる。

確かにそんなマジックアイテムがあるのは珍しいが、どう見たってRSOのアイテムと同じ品だ。

しかも効果としては日本で普及している携帯に大きく劣る。

勝っていると言えば小型と言うところぐらいであろうか。


「珍しいかどうかに対しての返答は一応珍しいと言うことになる。俺達の世界には魔道具は無いからな。その道具で連絡すればいいのか?それだけでは外の様子は理解しにくいと思うが。」

「私は欲望を満たしたいだけだからね。退屈じゃなくなればいいんだよ。」


単純な行動理念だ。そういうのは嫌いじゃない。

信用という点では時間がかかるが、性格としては面白いと思う。



クリアが黒曜石のような黒い指輪を放り投げると、それは寸分たがわず後輩の下に届く。

パシッと軽やかな音を立てて後輩が受け取る。

後輩は数秒じっくり眺めてみてから。


「自分はいらないっすねー。先輩つけます?」

「え!?」


と後輩が俺に声かけると、クリアが情けない声を出した。

お前が相手に対して失礼なのは知っているが、渡してくれた人が目の前にいるときに言うなよ。

でも俺にとっての問題はそこではなく。


「それはこんな手になっている俺に言う言葉か?」


そう、俺の腕ははウサギの腕になっているため指輪は着けることができない。

後輩は目の前にいる俺の姿すら見えないのか?後輩の頭が心配になってきたな。


「あはは、君たちは面白いね。最初に君たちを呼べたのは幸運だったのかな。」

「待て。後輩が面白キャラなのは認めるが、俺は断じて違うぞ!!」

「冗談を言うのは顔だけにしてくださいよ、先輩。」


クリアの言葉に俺たちは笑顔で答える。

例えクリアの見えないところでちょくちょく攻撃しあっていたとしても俺たちは笑顔だ。


「ははははは――はぁ・・・。いいね、君たちに決めたよ。」


クリアが綻ばせた顔でそう言うと、俺たちの体に鋭い痛みが走る。


「「!?!?」」


日本では受けたこともない力が俺たちの体の中で暴れまわる。

だがその恐るべき痛みもだんだんと弱くなり、やがて完全に治まる。

痛みが治まった数秒後、俺と後輩の右手の甲に紋章のようなものが浮かび始める。



紋章が完全に浮かび上がると、先ほどまでの身体能力がまるで嘘のように力が漲る。

枷が外れたように能力が格段に上がっている。元の俺の身体の性能を鼻で笑えるくらいの性能を持っている事を実感する。



その変化に俺が驚いていると、いきなり俺の頭の中で声が響く。


"スキル『特化』を獲得しました。"

"スキル『変化』を獲得しました。"

"スキル『抗体』を獲得しました。"


何か色々獲得した。

ゲーム時代だと聴いたことのないスキルだし、ゲームとは別のこの世界特有のスキルなのかもしれない。

この世界はは良くも悪くも現実なのだから、ゲームにはないことがあっても仕方は無いと思う。むしろ全部ゲームと同じだと気持ち悪い。

だって全てがゲームと一緒だとNPCは永遠に同じ事しか喋らないってことだし、町でも何処でもずっと変化が無いということだ。

しかし、何だろう。『変化』は分かるけど。『特化』と『抗体』。

この説明が欲しいような名称のスキル。

正直効果が分かりにくい。


「先輩!スキルっすよ!これホントに異世界っすよ!」

「ああ、確かにそのようだな。」


機嫌が良くなっている後輩から手に入れたスキルについて聞いてみると、後輩は俺と同じく三つのスキルを手に入れていた。

スキルの名前は『効率化』『鑑定』『三叉の雷矢トライデント・ボルト』らしい。

前の二つを置いておくとしても、最後の『三叉の雷矢トライデント・ボルト』は多分技系のスキルなので少しうらやましい。


「へぇ、君たちは異世界人なのにスキルを持っているのか。」

「異世界人はスキルを持っていないものなのか?」

「いや、私は君たち以外に異世界からの来訪者を見たことはないからね。こんな城の中だと当たり前だと思うよ?」

「あー、まぁそうか。ところで質問いいか?」

「なんだい?スリーサイズと知らないこと以外なら教えられるよ。」


スリーサイズという言葉が出た瞬間に、話に参加していなかった後輩が目を光らせた。

本当に後輩大丈夫か?


「それは残念だ。だが俺の聞きたいものはスキルだ。」

「特別な能力のことだよ。その言葉の原点はとある物語の一節で、冒険者達が剛鬼を屠った時の話で――。」

「あ、そういう歴史はいいんで。説明をお願いします。」

「えー。・・・むぅ、君たちは異世界人だし仕方ないかー。」


仕方ないと言った形でクリアはなにやら準備を始める。

準備が終わったのか、空中に映像が映し出される。

映し出されたのは全てのスキルが表示されているのではないかと思うほどの巨大なスキルツリー。

枝分かれの本数は数えることすら諦めるほどの数。その枝分かれによって形を成すスキルツリーはタイトルにも記される"雨"と言っても過言ではないほどの細かさ。


「私達の世界ではスキルと呼ばれる能力を最低一つは持ってるんだ。スキルの強弱は激しいけども、スキルの種類で職業を決めるってのもここでは珍しくないね。」

「つまり戦闘系のスキルや生産系のスキルを持っている人が別れているってことか?」

「大体OKだよ。例を挙げるなら、"パワースマッシュ"や"植生促進"などのスキルを何か一つは必ず持っているって事だね。」


先天性で手に入れるって事か。じゃあ俺達はこれ以上スキルを手に出来ないという事か?

いや違うだろう。

召喚(うまれた)時にスキルを手に入れたのではなく、俺達はクリアとの契約完了時にスキルを手に入れた。


俺達のスキルが先天性ではなく後天性という事実。

それはこの世界の人々(NPC)俺達(PC)は違うという事実を暗に示していた。

兎になっても結局は異世界人ということなのだろうか。


「スリーサイズが駄目ならば、自分はクリアさんの年齢が知りたいっす!!」

「よっこらせっと。」


体を乗り出した後輩に向けてジャンプ。そのままの勢いでボディーブローをかます。

特に避けようともしていなかった後輩の腹にこれでもかと力を込めた俺の拳は深々と突き刺さる。


「グフッ!?」


後輩が奇妙な声を上げて倒れる。これ以上コイツに失礼なことをさせるわけにはいかない。

召喚主が俺達を見縊(みくび)ったらどうなるか分からないし。


「とりあえず君たちは君たちはもっと仲良くすればいいんじゃないかな?」

「いやいやこれが異世界の友情というやつなんだ。」


チラッと後輩のほうを見ながら答える。

後輩は

二人の名前の改変、覚えやすさの改善です。

先輩がシル、後輩がラトになりました。

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