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3話 異世界との遭遇Ⅰ

説明会なので頑張って呼んでください。お願いします。なんでもしますから。

目に見えるのは、青い天井。

というか白い天井が青い光で映し出されている。

横には倒れている人がもう一人いて、俺は同じく倒れている。


そして意識は覚醒する。

本当に何所だここ!?

ガバっと起き上がると、違和感に気付く。


圧倒的に小さく感じる体。俺の体から伸びる計四本の手足は全てが短く、銀色の体毛が生えている。

更に尻尾まで生えており、どう見たって獣の体つきだ。

というかもしかして、いやもしかしなくても。


俺の体は"白銀の聖獣"になってしまったのではないか?

驚いて部屋にある一つの姿見を覗き込む。

そこにはPCで見ていたあのアバターが映っていた。


だが何故か、驚きもしなければ拒絶感もしない。

何故かそれが当然のように感じられる。昔からそうだったように。

昔の体への未練など・・・。昔の体・・・


昔の体って何だ。

いや俺は誰だ(・・・・・・)

思い出せない。どうやっても思い出せない。

働いていた場所。親の顔。ここに来た経緯。RSOのデータ。

これらを順番に思い浮かべる。

全て分かるし、何一つかけてなどいない。

ただ、自分についての情報が抜け落ちていることに気付く。

俺は・・・・。いや俺なのか?

私、我、わし、自分、僕。


一人称さえ、性別さえも抜け落ち。

名前なぞもってのほか、自分のやっていたことすら分からない。

自分に穴が開いているような感覚。

きっと思い出せないのではない。覚えていないのだ。

その情報はきっと俺らの中から消え去った。

そういう確信が俺の中でちゃんとあった。


「ん・・・。先輩?」


どうやら後輩も起きてきたようだ。

・・・後輩?俺の中から後輩の性別と名前の情報が削られている。

性格は思い出せる。きっと俺も性格は残されているからこのように思えるのだろう。


「先輩・・・。あれ?」

「夢見てんじゃねーよ。さっさと起きろ馬鹿後輩。・・・いやこっちが夢なのかもしれないが。」

「何が馬鹿ですか・・・。って、せんぱ・・い?」


後輩も記憶の穴に気付いたようだ。

これでこの状況が俺だけじゃないと分かった。

これはありがたいことだ。


後輩はゲームと同じ格好をしていた。きっと俺もゲームと同じ格好をしているのだろう。

ま、俺の装備は認識不能防具とアクセサリーで固められているから一見分からんだろうが。

後輩は黒髪に近い茶髪を後ろで纏めていて、意外と薄い綺麗な服を着ていた。腕にはアクセサリーがジャラジャラ付いている。

手には大きな弓。名を"レイ・ブラウ"。俺も以前別の人が持っているのを見たことがあった。

光のように放つ矢は神々しさの象徴であり、ダメージの値も信頼できるので、持ったものは愛用することが多い。いい弓だ。

そんなことはひとまず置いといて。

ゆっくりと立ち上がった後輩を見上げる。


「よう、後輩。いい睡眠できた?」

「どうやらまだ夢の中みたいっすよ?」


後輩の元の性別は忘れてしまったが、キャラは女のキャラだ。

男が女のキャラを作るのは珍しくないらしいから、性別の断定は出来ない。

俺なんか特に。


「じゃあここは夢の世界かな?・・・どうやらそうではなさそうだよな。」

「まぁ有る意味夢の世界っすけどね?」


二人で軽く冗談をしあう。

この位してないと不安になってしまいそうなのだ。

不安は駄目だ、思考力、計算力、冷静さ、信頼。

全てを台無しにしてしまう。

こういう危機的状況だからこそ持っていないと駄目な物がある。


そんな部屋の中、何かが俺達の目の前で、ゆっくりと見え出す。

それは中性的な怪しい格好をした二人組みだった。

青く妖艶な服としなやかな肢体があいまって最強に見え・・・。

いかんこれ以上は危ない。


俺は兎の体でキョロキョロと部屋を見渡す。

壁に施された装飾品、置物、シャンデリラ。

どれもどれもが怪しげな雰囲気を醸し出す中で、特異なものが数点。

きっとそれらは魔法道具マジックアイテムなのだろう。

そして何よりも青い炎の灯る燭台が俺の目を引いた。


「えっと、・・あんたらは"白銀の聖獣"のお供の双子さん。・・・だよな?」

「ぴんぽんぴんぽーん!だいせいかーい!!」

「・・その回答は解答に限りなく近いと思われます。」


俺の回答に対してその二人は答えてくれた。

片方は朗らか、もう片方は利己的に。やはり伝承の通りだ。


「ここの場所の名前は、確か"未知の裁断"だったか?

未知を裁く。未知という不定形に法という定形の物で裁くっていうのが不可思議だった。

特にその燭台。それは実際にゲームにも同じものがあったな?」

「え、マジっすか先輩。」

「お前・・・。全ステージ一回ぐらい回っとけよ・・・。

ちなみにお前を置いていったレイドボスのときの奴な。」

「先輩のせいじゃないっすか!」

「あー、聞こえない聞こえなーい。特に後輩の抗議の声なんて得に聞こえなーい。」


俺は軽く耳を塞ぐジェスチャーをすると。後輩が


「えと、続きの説明・・・宜しいですか?」

「ああ、すまん。続けてくれ。」

「それは僕が説明するよ!ニア、君は準備を頼むよ?」

「・・・別に私が説明しても不都合は・・。」

「君って口下手だし、何か話し言葉が出来ないじゃない?」

「うっ。」

「表情も無愛想だし失礼だと思わない?」

「ううっ。」

「ストップ!ストーップ!」


もうちょっとでニアという者が泣き出してしまいそうだったので、緊急的に止める。

俺が止めるのは場違いかもしれないが、流石に見ているだけというのは耐えられん。


「?じゃあ、君はニアの方がいいって言うの?

僕はもう要らないって訳?」

「待て待て。俺はお前を持ち物にしたつもりはないし、ニアのほうがいいとか言うわけじゃない。」


あからさまに落ち込むニア。

ひょっとするとガーンとかの効果音まで突きそうな表情だ。


「それで言わせて貰うが、別にお前ら二人がかり説明しても構わないんじゃないのか?」

「・・・!」

「・・今気付いたみたいなリアクションだな。」

「よしニア。さっさと説明しちゃうよ?」


ニアがとぼとぼとこちらに来ると、スイッチを取り出して押すと。イメージスクリーンみたいなのが空中に出てくる。

それは現在の日本科学では到底不可能なことであり、

暗にここは日本でないことを証明していた。


言い出す前にコホンと小さく咳払いしたネアは一瞬でおどけた雰囲気を表情から消して、俺は少し威圧感に押されてしまう。


「改めまして、初めまして。僕が"白銀の番人"ことネア。

君がここにいらっしゃった理由は只一つ。君が"白銀の聖獣"だから。

ここはご理解されていると思うけど。いいよね?」

「改めまして、ニアです。

貴方は今から貴方が遊んでいた世界へと旅立つことになります。

是非はないので諦めてください。」

「え。つまりどういうことっすかああああぁっぁああ!?」


横で後輩が問いかけようとすると突然穴に落ちていった。

何だ?ここはギャグ空間なのか?

後輩が喋った瞬間に落とされたので、悪意しか感じない。


「・・今のは私ではないです。」

「いや僕だけどもちゃんと理由があってやったんだからね?

と、理由ってのは君の能力。

君の受け継ぐその三つの技はまだ君に使いこなせない。だから制限しちゃうんだけど・・・。

でも、そのまま行ったら危険そうだから。少しばかり干渉しちゃうことにしたって訳!

まぁ、やばくならない程度には調節するよ。


それで、君たちがゲームに飛ばされる理由は簡単。

今世界がちょっとした問題なんだよね。ということで時期としてはちょっと早いけど、急いで君たちが呼ばれたって事なの。

・・・説明も何か面倒くさい!

とりあえず、その問題の場所に君たちが転送されるから。がんばってね?」

「ちょっと待て!話が急すぎて何がなんだか。」


何かゲーム世界に飛ばされるらしいけどってことは分かった。

逆に言えばそれ以外が良く分からない。

聖獣の生まれ変わり?なんのことだ。

あとスクリーン出したなら使えよ。何か関係ない映像映ってんぞ。

自慢なの?ねぇ自慢なの?わざわざ今スクリーンについての仕事をやっている俺に対してのあてつけなの?


「待たなーい!じゃーね!」

「また会うことになるでしょうが・・。それじゃあ、さようなら。」

「へ?だから説明がぁああああぁぁあああ!?」


浮遊感と不安感。

足元に地面がないとき本当に怖くなるんだなと心のそこから思った。


―――


「うわらばッ!!」


ドスッという重々しい音を立てて兎の俺が地面に落ちる。

自由落下で速度が大きくなっていって木っ端微塵☆とかも考えたのだが、どうやら慈悲によって助かったようだ。

それでも痛い。どうせなら優しく降ろしてくれてもいいだろう!?


「先輩も来たっすか。自分も痛かったのでおあいこっすよ。」

「グフッ・・・。お前と、おあいことか、嬉しくない・・・。」

「相変わらず失礼っすね・・・。ところで先輩一つ問題が有るっす。」

「ハァ・・・何だ?ゲームの世界にいきなり来たんだから、そりゃ問題の一つや二つ。」

「アイテムが・・・ありません。」


思考が止まった。

それってつまり、それってつまり・・・!


「俺の五百時間の結晶のグングニルが・・・。交渉に交渉を重ねてやっと手に入れたイグニ・ドライブアクセサリが・・・。」

「自分だって・・・。アバター用のキャラ素材が・・・。課金のおふだがぁ・・・!」


許さん。絶対に許さん。俺が許してもアイテム達が許さん。

呼んだのは問題のせいって言ってたな。その危機許さん。マジ撲滅。


「そういえば問題の場所に直で送られるって言ってたような・・・。」

「え?まじすか?」

「うん、マジマジ。」


軽く言ってHAHAHAと笑ってみせる。

自分のいる場所は気にしないことにして。

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