神様から親という存在がいなくなった瞬間
(家の前に誰かいる。黒いスーツってことは父さんの友人かな?父さんの知り合いのほとんどがスーツを着てるから、その人達かな。でも、何で家に入らないんだろう。いつもなら父さんが居なくても家の中にいるのに)
ルピナスがそんなことを思いながらも家に近づいていくと、黒いスーツを着た人達がルピナスに気がついた。リーダーらしき男が回りに合図を送ると回りのものたちはルピナスに近づいてきた。近づいてきた者たちの中には知った顔もあった。
「ルピナス君、君に話したいことがあるからついて来てくれるかな。」
近づいてきた者たちの中の一人の男が腰を低くして、ルピナスに目線を合わせるように言った。
「えっと、誰ですか。」
ルピナスは自分の目の前にいるのは父の知り合いだと分かっていながら、わざと聞いた。
「あっ。ご、ごめんね。俺は君のお父さんのお友達だよ。」
男は子供であるルピナスが相手だからか、やんわりとした口調で言った。
「お友達····。あの、父さんや母さんは。今日、帰ってくるんです··け··ど。」
ルピナスが話していると、回りの者達の顔はどんどん険しくなっていき、ルピナスは話終える前に言葉がたどたどしくなってしまった。
「少し、待っててくれるかい?すぐ戻ってくるから。」
男はそう言うとリーダーらしき男の所へ戻っていき、リーダーらしき男と話し始めた。
少しして、話終えたらしく男はリーダーらしき男とこちらへ向かってきた。
「ごめんね。いきなりこんな人達に囲まれるとビックリしちゃうよね。今日は君のお父さんとお母さんのことでお話があるんだ。ついて来てくれるよね?」
リーダーらしき男が微笑みがら言ったが目は笑っていなかった。子供のルピナスでもそれが分かるほどだった。
「うん···」
ルピナスは無意識に頷いてしまった。ルピナスがその事に気づいた時、リーダーらしき男に抱き上げられていた。
「それじゃあ、行こうか。」
「あの、行くって何処に。それに鞄を家に置きたいです。」
「あぁ、鞄ね。いいよ、こっちで預かるから。何処にいくかって言うと話しやすいところかな。」
リーダーらしき男が合図をすると、隣にいた男がルピナスから鞄をはずした。
「話すなら家の中でいいと思います。」
ルピナスが下ろしてもらおうと体を動かしながら言うと、男はルピナスを持つ手に力を入れた。
「家の中ねぇー。家の中か····」
男は考えるふりをしながら家の裏へ回り込むとそこに止めてあった車にルピナスを押し込んだ。
「大人しくしててね。」
男は反対のドアからルピナスのとなりに来ると、笑いながら言った。
そのあとルピナスが何度もどこへいくのか聞いても男は
「う~ん、そうだねぇ~」
と答えるだけで何も言わなかった。
「ついたよ。」
ルピナスはその男の声で目が覚めた。
(あぁ、寝ちゃった。起きたくないな、まだ眠いし)
ルピナスがそう思っていると体が抱き上げられた。
「寝たままですね。どうするんですかそれ。」
「適当に話すときになったら起こせばいいだろ。」
「そうですね。」
ルピナスは遠い意識の中で会話を聞きながらまた、深い眠りについた。
「おぉい、起きろ。お話しするよぉ~」
(うぅ、五月蝿い)
ルピナスはそう思いながらもうっすらと目を開けた。
「おい、起きてるかい。」
声の主はルピナスの頭をつついたりした。
「起きてますよ。」
ルピナスが弱々しく言いながら顔をあげると、ルピナスはいつの間にか車の中から高級そうなソファーの上に移動していた。
「ここは···」
「君のお父さんが元々働いていた所だよ。」
ルピナスが呆然と部屋を見回しているとルピナスを車の中に押し込んだ男が言った。
「父さんが働いていた所·····。あ、父さんと母さんの話って。」
ルピナスは半分拉致されたと言っても不思議ではない事をされた原因を思い出した。
「あぁ、話ね。心を落ち着かせて聞いてほしいんだよね。まぁ、落ち着かなくなると思うけど·········」
男は煙草に火をつけながら、ルピナスの向かいのソファに座った。
「落ち着かせる?何故?」
「まぁ、いいから落ち着かせなさい」
「ふぅー。落ち着かせました。」
ルピナスは深呼吸をすると男をまっすぐ見て言った。
「よし、それじゃあいきなり言うからな。」
「はい。」
「死んだ。」
「は?」
部屋の中は沈黙にのみこまれた。
「えっ、死んだって誰が死んだんですか。」
ルピナスが沈黙を破った。
「はぁー。お前のお父さんとお母さんさんが死んだって事だ。」
男は天井を見上げながら言った。
ルピナスは男が言ったことがうまく整理出来ずにいた。
「まぁ、簡単に言えば天国に行ったんだよ」
「てん···ご····く。」
ルピナスの頭の中は混乱しきっていった。父の友人だと言う男の口から発せられた両親とは二度と会えないと言う事実。
「行ってみるか。」
男は立ち上がると頭の整理ができていないルピナスを抱き上げ、歩き始めた。
「おい、現場にいくぞ。」
男は車の近くにいた男に言うと、ルピナスを持ったまま車の中に乗り込んだ。その間もルピナスはされるがままだった。1時間ほどしたときに車はゆっくりと止まった。男はルピナスを車からおろした。そこは、右側が崖で左側は谷になっていた。谷のしたは川になっていた。川は流れが早く人が泳げる所では無かった。
「ここで君のお父さんとお母さんは死んだんだ。シチュエーションから見てわかると思うけど、事故だ。運転手が車の運転を誤ったんだろうね。車と運転手の遺体は引き上げられたけどお父さんとお母さんはまだ見つかっていないんだよ。運転手の遺体は傷だらけでね、右腕がねどこかに強く何度もぶつけたのか、右腕の骨は全部ぐちゃぐちゃでね。君のお父さんとお母さんは生きてないだろうね。こんな強い流れだったら泳ぐのは無理だからね。」
ルピナスはじっと谷のしたを見ていた。男の話はルピナスに聞こえているのか、聞こえていないのか分からなくなるほどルピナスは谷の下を見たままだった。