神様の落下直後
「あっ!」
「あ!」
ルピナスの軽いからだは宙に放り出された。ルピナスは崖のはしを掴もうとしたがルピナスの手が崖に届くことはなくルピナスは崖のしたへと落ちていった。
そしてなにかが落ちたような音が聞こえたあとルピナスを突き飛ばした少年はゆっくりと崖のしたを覗いた。そこには真っ赤な血の中心に仰向けに倒れるルピナスがいた。
「ど、どうしよう。」
少年が人を突き落としたことに怯えながら、震えていると後ろからガサガサと草を掻き分ける音がした。音はだんだん少年がいる方に近づいてきた。そして、一瞬音がおまるとそこから50代の痩せた女性が出てきた。
「わっ!」
少年が驚いて声をあげると女性は怪訝な顔をした。
「あんた、いったいこんなところで何してるんだい。」
女性は怪しむように言うと少年へ近づいた。
「あんた、そこは危ないからこっちにおいで。」
そう女性は言って少年の腕をつかんで立ち上がらせようとしたが、女性は少年の腕を掴んだまま崖のしたをみながら固まってしまった。女性の目に映ったのは崖のしたで血まみれになっているルピナスの姿だった。
「これあんたがやったのかい?」
しばらくして女性が少年の方を見ながら言った。
「わ、わざとじゃないんだ。ただ、あいつが生意気だから、ちょっといらっとして·····ほんとにわざとじゃないんだ!信じてよ!」
少年が焦りながら女性に訴えると、女性は無言で立ち上がった。
「ほら、早くここから離れるんだよ。」
女性は少年を立たせ、茂みの方へと歩き始めた。
「ま、まってよ。あいつはどうするんだよ!」
少年は崖を指さしながら言った。
「あの高さから落ちたんだ。どうせ何をしても死ぬよ。誰にも見られなかったんだから早く森を抜けてアリバイをつくるんだよ。この森は人がよく入ってくる。あれもいつか見つかるよ。疑われたとき、アリバイさえあれば捕まることはない。あたしゃ、森に木の実を採りに来たんだ。今、森を降りて家にいればアリバイができるよ。ほら、早くいくよ。」
「あっ、待って。先にいかないでよおばちゃん。」
少年と女性は駆け足でその場を去っていった。
崖のしたにとりのこされたルピナスには意識がまだあった。会話は聞こえていた。
(あぁ、どうしておいていくの。まだ、生きてるよ。痛い、痛い。誰か助けて。)
ルピナスは残る力を手にあつめ、ゆっくり、空へと手を伸ばした。
「とお·····さん···かあ········さん。た··すけ·····て」
そこでルピナスの意識は途切れた。
「おい、子供が崖のしたにいるぞ。」
「ほんとだ、誰かよんでくる。」
「あぁ、あそこに子供がいるんです。」
「おい、こいつルピナスだ。」
「どうします?」
「どうせ、嫌われているんです。助けなくていいでしょう。それにこれじゃあもう、死にますよ。」
(あぁ、誰?)
(薬の臭いがする。ここどこ。)
ルピナスが目覚めると、見知らぬ天井と薬品の臭いがした。何とか体を起こすと、正面に一定の距離をあけて、ベッドが4台並んでいた。横を見ると同じように並んでいた。だが、ベッドにはルピナス以外誰も寝ていない。
「病···院?」
ルピナスがようやく今、自分のいる場所が把握出来たときに、病室の扉が開いた。
「あぁ、起きていたんですね。」
看護師がぎこちなく言う。無理やり笑っていることが分かる。恐らく、無理やり担当にされたんだろう。
「街の人達が運んできたんですよ。よかったですね。では、私はこれで。」
看護師はベッドの横にある点滴かなんかのパックを変えて出ていった。
医師の話によるとあの高さから落ちて、生きてるなんて奇跡的なことらしい。しかも、回復が早く2週間後には退院出来るらしい。
(8つの子供にこう言う話をするのはどうなんだろう。まぁ、あの人達がこなったんだろうけど。入院して2日なのにこんなに早く退院出来るんだ。ちょっと、意外だな。)
ルピナスは少し期待していた。子供が崖から落ちて入院したのだから、両親がお見舞いに来てくれるのではないかと、少し、とは言えないほど期待していた。
どんなに看護師に嫌そうな顔をされても我慢しながら、心のなかで期待を持ちながら。両親のお見舞いを待ち続けた。
(もしかしたら、果物を持ってきてくれたりするかな。)
「フフ。楽しみだな。」
日が過ぎるごとにルピナスの期待は大きくなっていった。
そして、退院当日これまでに両親がお見舞いに来ることはなかった。看護師が話している所を聞いて入手した情報によると目覚めるまでの2日間、両親は来なかった。
(もしかしたら、外に車で待って居てくれてるかも!)
ルピナスは松葉杖をつきながら、外に出た。そこへ1台の黒い車が来た。両親の車と瓜二つだ。
(やったあ!)
ルピナスが喜んでいると車は扉のすぐ前に止まった。車のドアが開いて降りてきたのはルピナスの知らない男性だった。ルピナスが困惑してると
「わぁーパパ!」
ルピナスの後ろから声がして、振り返ると6つくらいの少女が走ってきた。そして、"パパ"と呼ぶ男性の腕のなかに飛び込んだ。
「おっ、とと。危ないだろマリ」
「ごめんなさい。でも、マリは注射、頑張ったんだよ!ねぇ、ママ」
「そうね、マリは注射頑張ったね。」
「そうか。よく頑張ったなマリ。偉いぞ」
恐らくこの人たちは家族なのだろう。そしてこの子供を迎えに来たのだろう。車が同じなのは偶然だ。
幸せな家族は車に乗って帰っていった。
「迎えは無いんだ····よね。」
ルピナスは晴天の下、一人松葉杖をつきながら家路についた。
BL····絶対書きますからご勘弁くださいな。