神様と人助け
色々と遅れました…ご、ごめんなさいで済むなら警察はいりませんよね…ごめんなさい
スーツ集団が家の中にダンボールを運び込んで1週間。意外にもルピナスは約3日程でスーツ集団と山盛りのダンボールに馴染む事が出来た。
普段はそんなに早く馴染む事は出来ないが今回はある女性が原因で早く馴染む事が出来た。その女性は神梛の部下で、神梛が一番信頼している阿佐美 那奈という女性だ。阿佐美は前髪を真ん中で分けており、セミロングの後ろ髪を簪で横に結い上げている。
1週間前、阿佐美はルピナスに「こんにちは」と一声かけるとルピナスを頭のてっぺんから足の爪先までじっと見た。
「か…か…可愛い!!」
見終わったかと思うと阿佐美は大きな声でそう言ってルピナスを強く抱き締めた。
「なにこの子!すっごく可愛い過ぎるぅ~!神梛から大人びた子だって聞いてたけど全然可愛いじゃない!!」
この時から阿佐美はルピナスと会うたびに可愛いと言ってルピナスを強く抱き締める。1週間経った今はルピナスの為に、毎回ルピナスが好きなお菓子や本、ゲーム等持ってきている。そんな阿佐美にルピナスは苦笑いしながらかなり強めのハグを拒絶するうちにあっという間に阿佐美と仲良くなった。
ルピナスを毎回息が詰まる程強く抱き締める阿佐美に毎回、離れるように言う他部下達も、毎回お礼を言ううちに打ち解けてしまった。
そんなこんなで学校から帰れば神梛の部下達がまるで家族のように出迎えてくれる。
心地よかった。両親からまるで存在しない子のように扱われたルピナスにはずっとずっとここにいたい、この間まで良いと思うほど温かく心地よいものだ。自分が世間と違う事など忘れ去ってしまうほどに…。
ある日、ルピナスはいつも通り下校していた。独りなのも、友人が出来なかった事も変わらぬことで全ていつも通りの日常と言えるはずだった…少し先にいる女子高生が7~10人の20代なかばの男達に無理矢理、人気のない路地に連れ込まれること以外は。
男達には女子高生をいきなり囲ったと思うと、囲まれて困惑している女子高生を一度殴り、バランスを崩して倒れたところを腕を引いて路地に連れ込んでいた。明らかに同意があっての行動とは思えない。
ルピナスは女子高生が心配で連れ込まれた路地を覗くと、そこは人がいても気付かないほど大量に物が乱雑と置かれている路地だった。ルピナスが物影に隠れながら進むとさっきの男達と女子高生の姿が見えた。
その時は、4~5人の男達が女子高生の服を無理矢理引き剥がしているとこだった。女子高生は口を塞がれ、手足も押さえ付けられて抵抗出来ない状態だ。女子高生の目は恐怖でいっぱいだった。
おそらくこれは《集団強姦》又は《集団レイプ》と言われる行為だ。だが、まだ幼いルピナスには同意があっての行動ではないとは分かっても、これから行われるのは残虐卑劣で愚かな行為とは分からなかった。
だが、無駄だとしても必死で抵抗する女子高生をたまに殴る男達にルピナスはどうしようもない怒りを覚えた。
これほどまでに大きな怒りを覚えたのは初めてだった。生まれた町の人々に石を投げつけられても怒りという感情さえも出なかった。
気が付けばルピナスは幻術で漆黒の闇を作り出し、困惑した男達に向かって走り出していた。男達にはルピナスの姿や気配が見えていないようでパニックになり困惑している。大人と子供では体格の差があり、普通なら到底かなわなかったが、ルピナスは普通とは違う。
何もやる事が無いからと、両親の寝室にある本等を見て独学で習得した体術と神梛が気まぐれで教えてくれた実戦で使える体術が合わさり、ほぼ完璧といえる体術を使って、パニックになっている男達にルピナスは刃を見せる。
あっという間に男達は見えぬ敵に倒れる。男達が倒れると幻術は自然と解かれた。何が起こったのか理解できない女子高生の前には白銀に、黒と青が混ざった髪のルピナスがいた。建物の隙間から見える日光がルピナスの髪に反射してキラキラと輝いていた。
「…怖い…」
普通なら綺麗と言えるこの風景を女子高生はとても恐ろしいと感じていた。何故そう思ったのか本人にも分からない。ただ、直感としてその言葉が出ていた…とても恐ろしい、と。そこで女子高生の意識は揺らいだ。ルピナスが放った幻術が女子高生の意識を圧迫していたのだろう。
「…お姉さん、ここで寝ちゃったら男の人たちが起きたときにまた、酷い事をされるかもよ…?」
ルピナスが女子高生の顔を覗きこんで、静かに言うが彼女は意識を失っているのだ。聞こえはしない。
「…寝ちゃったか…どうしよう…あ、そうだ」
ルピナスはそう言うと鞄の中のノートから1ページ切り離し、その紙に何かの陣を書き、髪の毛を1本抜き紙に包むように折り紙をする要領で獣の形に折った。
「主の名はルピナス。式は狗。我に仕えるならばその凛々しき姿を現し、我、姫巫女の力となれ…参れ!」
折った紙を手に持ち念じた後に宙に投げると、その紙を中心に風が一瞬激しく吹いたかと思うと、紙は瞬く間に大きな獣の姿へと変わった。
「うわぁー…本当に出来た…」
感嘆の声を漏らすルピナスが使ったこれは母である紅葉の本棚にあった書物に書かれていた技だ。その書物は表紙から中身まで全てがかなりの達筆だったため、ルピナスには読むことは出来なかったが1部なんとなく理解できたものがあった。それがこの技だ。ルピナスはこの技をどういう仕組みなのかは分からないが、何でも言うことを聞いてくれる獣が現れる技だと解釈していた。
「あ、そうだそうだ。ねぇ、このお姉さんをお家まで送ってあげたいから、このお姉さんを乗せてくれないかな?あと、このお姉さんの匂いを辿ってお家を見つけて」
ルピナスがそう獣に言うと、獣は女子高生を背中に乗せるとルピナスにも乗るように促した。
「僕も乗せてくれるの?!フフ、君はとても優しいね…」
悲しげにそう言ってルピナスも獣の背に乗った。獣は建物の壁を交互に蹴って空へと飛んで行った。
ルピナスは気付かなかったが、男達の内の1人は意識がまだあった。そして、ルピナスが行ったことを全て見ていた。
「クソッあのクソガキ…俺達をバカにしやがって。ぜってぇに泣きながら土下座させてやる…」
そう男は言うと意識を失った。