神様の第2の日常
「......ス、..ピ..ス、ルピナス君」
「う...」
ルピナスは自分の名を呼ぶ声に目をさます。
「あぁ、やっと起きた。何度呼んでも起きないから心配したよ」
ルピナスが目をさまし最初に視界に入ったのは心配した神梛の顔だ。
「あっ、神梛さん...」
(寝ちゃったんだ)
「あの、今何時ですか?」
「今は...」
神梛は袖口に隠れていた腕時計を出し、確認する。このちょっとした動きも何故か、神梛の細部まで整った顔の影響で色気が出てくる。
「7時前後かな」
「7時前後か、だいぶ寝ちゃったな」
「疲れていたんだろ。夕飯が出来たよ」
「はい」
ルピナスはベッドから降りて先に部屋を出た神梛のあとを追いかける。
神梛の用意した夕飯は栄養を均一にとれるように考えられた物だった。が、質素だ。彩りがない。まるでこれは人工的に作り出された森のようだ。人工的に作られ、キレイな清みきった空気も、どんなに深くとも底が見えてしまうような美しい水も、あらゆる生き物に踏みしめられしっかりとまとまり、多くの養分を含んだ土もある。だが、本来の森にある、木々たちが無造作に生え、日があたり大きな木もあれば、日があたらず小さい木もあるような一見普通の森だが、一度枠のなかに納めてしまえば、翡翠の幻想的な景色になる森にある力強さ、気高さ、美しさ、これらは、人が手をつけたが故に、木々は一定の間隔と大きくなるように計算しつくされた位置におさめられた木々が生きる森には無いのだ。簡単に言えば、神梛の用意した夕飯がのる皿はどこで見つけたのかどれも模様がなく中さえ入れば構わないと言わんばかりの、全て一面真っ白だ。実用的に考えたのか、主菜、副菜を分けることなく同じ皿に詰め込んである。その皿の見た目に"余裕"は無い。
「...シンプル、ですね......」
「ん?あぁ、食事にはバランスのとれた栄養さえあればいいと言う考え方だからな」
「...そうですか」
「「......」」
二人の間に重い沈黙が居座る。暫くの重い沈黙を最初に破ったのはルピナスだった。
「えっと、そろそろ頂いてもいいですか?」
「そうだな、そろそろ食べよう。」
神梛とルピナスは静寂な空気のまま、椅子へ座る。
「今日は...」
「?」
首をかしげる、ルピナスの目を見ながら神梛はゆっくりと口をひらいた。
「今日は予定などを合わせる事が出来たけど明日からは一緒に食事をする事が出来なくなるかもしれない。でも、出来るだけ早く帰るようにする。」
神梛は申し訳なさそうな顔をしている。
「はい」
ルピナスは気まずくなり、うつむいた。
その日は食事をして、お風呂に入って終わった。
その次の日から神梛と一緒に食事をする事は少なく...いや、ほぼゼロと言っていいほどになった。ルピナスは毎日、起きたら用意されている朝食を食べ、周りと違う雰囲気を放ちながら学校に通っている。テストや学校から配られるチラシや手紙などは机の上に置いて寝ると朝には決まって無くなっている。両親と暮らしていた頃と違う事と言えば、食事が作ってあることと、神梛が休みを取れたり仕事が早く終わった日に水族館や動物園、公園等に連れていってくれることだ。
少しずつながらもルピナスは神梛に心を開いていった。
ルピナスが神梛に心を開く一方、神梛はルピナスの採点されたテストや成績表を凝視するばかりだった。神梛が凝視するルピナスのテストや成績表はどれも満点だった。授業態度や生活態度、運動能力やそれぞれの科目への理解力、どれも文句のつけようも無いほどに完璧だった。気づけばルピナスは小学2年生を無遅刻無欠席、成績はSSSがついても可笑しく無く、優秀に終えていた。神梛はSSS級の成績を叩き出したルピナスにある事をすすめようか迷っていた。すすめる内容は"飛び級"だった。ルピナスの今の成績だと飛び級の試験を受ける事は容易い。だが、神梛は気付いていた。ルピナスに"友人"と呼べる存在がいないことを。ルピナスの口から友人の話は出てきたことはない。それどころか学校の事すら出てこないのだ。飛び級などしたらますます、友人が出来なくなるだろう。
「はぁ、明日にでも本人に聞いてみるか...」
静かな書斎に神梛のこえがひびいた。