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邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
最終章 新大陸デロール編
70/83

故郷への帰還

―――――



 俺はいま潮風の薫る港町に立っている……って何だか激しく既視感のある展開なのだが、左右確認異常なし。

念の為に蒸気船の乗降口に立ち背後を振り返る、よし居ないな。


 翻って蒸気船へ橋脚を走りながら駆け込んでいき、船内を見て回りながら暫く探索して回る。

 なるほど探検船の割には船内の居住性は高いようだ。

 蒸気船の船速はそれほど高くないからな。


「よォ! タウ久しぶりだなァ!」


「おっと船長、お久しぶりです。 もしやこの船の操舵も?」


「オゥ、ルースにもそこんとこ頼まれてなァ! まァ今回もよろしく頼まァ!」


 俺は船長に軽く会釈して別れると宛がわれた船室へと向かう、404号室か……幾らなんでも不吉すぎるだろう。

 ドアノブに力を入れて船室の扉を開放すると、割とこざっぱりとした部屋に5つのベッドが並んでいる。

 例の如く置いて来た筈のギルドメンバー達が、各々の荷物を許容量のオーバーした棚へと詰め込んでいた。


(最早何も語るまい)


「タウ遅かったわね。もうあなたの荷物入れる場所ないわよ?」


「ん? メアまで連れて来たんですか?」


「たうーおしゃかま」


 釣りに行くんじゃないんだけどなぁ。

 メアがベッドの上で跳ね回っているとリマが抱っこしながら、こちらへと言葉を投げかけた。


「タウ様1人でどうされるつもりだったんですか?」


「そうよタウ、例のナントカスケルトンも無制限に使える訳ではないんでしょう?」


「その辺は現地調達で済まそうと考えていました。まぁ、詳しくは新大陸への到着後にお話しましょう」


 俺がミュレーの疑問に返答すると寝台の上に腰を下ろし、防具袋を寝台の下へと放り込む。

 パティはその様子を呆れながら見ていたが、こちらへと歩み寄ってくると1枚の書面をこちらへと手渡してきた。

 どうやらギルドの討伐依頼のようだ。


「日付が随分と古いようですね?」


「リヴァイアサンの事も知らずに外洋に出ようとしてたの? 呆れた」


「ヤミンの口伝にも伝わる。すごく大きい魚です」


 あぁ、軍事施設の情報にそんな魔物の情報が合ったな。

 体長30mのシロナガスクジラをベースにメガロドンの復元遺伝子から合成、最終的に50m近い魔物だとデータベースには記されていた。

 外洋にはそんな魔物がゴロゴロしているという事か?


(まぁ今となっては問題にもならん)


「それでは前以て航路の清掃でもしておきましょうか?」


「掃除って……何する気なの?」


 ……蒸気船が外洋に差しかかろうとする頃、海面からは黒い影が海底から覗いているのが船上からでも見ることが出来た。

 衛星へのアップリンク開始。 光学探査開始。 ターゲットA-0からA-6。 経緯度入力。 射角誤差修正。

 おっと、撃つ前に避難指示をしておかねば。


「船長、お手数ですが甲板にいる船員を退避させて下さい」


「あァ、構わねぇが、一体何する気なんだ。おめェ?」


「見学しても構いませんが、耳を塞いで口を開けておいて下さいね」


 パティ達は俺の指示通りに従うと俺と顔を見合わせる。

 海からせり上がるリヴァイアサンの姿が鮮明になった。

 次の瞬間空から一筋の光条が降り注ぐと、リヴァイアサンの頭部を粘土細工のように撥ね飛ばしながら、甲板のそこら中にリヴァイアサンの肉片を撒き散らした。


 秒速30/kmのスピードで宇宙から降り注ぐタングステン弾芯が海洋にいた、リヴァイアサンの魚影に命中。

 数10mはあろう水柱を立て次々と落着すると爆撃が終わる頃には、海洋に浮かぶ肉片を啄ばむ水鳥と静寂だけが訪れた。


「……はァ? な、なんだ今のはッ!」


「まぁ、こんなものですかね?」


「タウ……何故こんな力を隠していたの?」


「これはN-133の軍事施設で得た物です。地上の魔物相手には使い辛いのと再装填に掛かる時間ですね」


 ミュレーが恐る恐る問いかけると正直に返答しておく。

 残弾も少ないのでこいつは取って置きの秘密兵器だ。

 今回発射したので、電力を太陽光パネルで供給するまでに数日の時間は要するだろう。


「これでタウ様が天使じゃないなんて絶対に詐欺です」


「他にも何か隠してるんじゃないでしょうね?」


「とんでもない、“使える”のはこれぐらいですよ」


 大気圏の摩擦熱と加速圧で核融合爆発を引き起こすハイドロゲンブレットはあるが、あくまで使えない兵器だ。

 嘘は言っていない。

 使う際には距離を取っていないと落着の衝撃波だけで死人が出る上、キング戦の際には地下トンネルだったので撃つ事もままならなかった。


「では、早速釣りでもしましょうか」


「何処をどーするとそういう結論になるのよ?」


「リヴァイアサンを食べに魚が大量に集まってきてます!」


「おしゃかま!」


 船に積み込まれていた釣竿を手に取ると思い思いに釣り針を垂らす。

 短時間でかなりの釣果が合ったようで、入れ食い状態のようだ。

 一面に撒き餌を撒いたような物だしな、意外にもリマの釣果が一番多いようだ。川釣りで慣れているのかな?

 次にダリア・ミュレーと続いた。


「流石はパティ、私の期待を裏切りませんね」


「一匹釣れたからいいの!」


 そういうパティのバケツには赤色のタコが蠢いている。

 どうやって釣り針でタコが釣れるんだ?


 釣れた魚を船内の厨房へと運び込むと、早速調理を始める。

 切り身魚の骨を取り除くと香辛料で味付け小麦粉を塗し、バターで両面を焼いていく。

 レモン汁を掛けて白身魚のムニエルの完成だ。

 シェフの調理していたカルボナーラのベシャメルソースが余っていたのでこれもかけておこう。


 続いて魚に香辛料で味付け、フライパンにオリーブオイルを敷き肴に焼き目を入れて大蒜・乾燥トマト・パセリを投入。

 パティの釣ったタコもブツ切りにして入れておくか……貝類を足したら白ワイン、アルコール分を飛ばす。

 タイムを加え煮込んだらアクアパッツァの完成だ。


「わぁ、調理時間は短かったのにちゃんとした料理になってる」


「すごくおいしそう」


「はぷー」


 パティが俺の仕上げた料理をテーブルへと運ぶと、ダリアが両手にナイフとフォークで待ち構えている。

 メアに到っては目の星を爛々と輝かせてテーブルにつきそうなほど涎を垂らし、臨戦態勢を整え。

 リマが慌ててよだれかけをかけている。

 さて、久しぶりにゆっくりと食事が取れそうだな。


(まずはカルボナーラから行くか)


 フォークでパスタを巻き取ると徐に口内へと投入する。

 湯で時間が長めだったせいか、かなり柔らかいな。

 そのお陰で卵とホワイトソースのまろやかな味が良く染み込んでいる。

 ブラックペッパーの味もいいアクセントになっている。


(船員のほとんどが男という事もあって。お洒落な感じがしないな、チーズが大量だ)


「私、カルボナーラ大好きなのよね、はぁ~幸せ」


 ミュレーがパスタを食べながら頬に手を当てしなを作って体全体で美味しさを表現している。

 次は白身魚のムニエルに手を出そうかな、材料にはスズキを使用した。

 一口噛む度にさくさくとした衣の食感が返ってくる。


(ホワイトソースは正解だったな)


 ナイフで切り取りフォークでホワイトソースをしっかりと塗すと、さくさくとした触感のままソースの味をのせる。

 スズキは旬の時期だけあって脂が良くのっている。

 レモン果汁はもう少し増やしても良かったかもしれない。


「もっもっ」


「メアちゃん一口で全部入れちゃ、めっですよ! ちゃんと切り分けてあげますから」


(もう少し味わって食べて欲しい、今日この頃)


 最後はアクアパッツァだが貝類はあまり好きではないんだよなぁ、口内炎が出来るし。

 具材ごとスプーンで掬い啜ってみる。

 加えたのは白ワインだけなのに以外に旨いな。

 魚から出汁が出ているのか、貝類は出航前に砂抜きされていた物か。


(カルボナーラがこってりしているので口休めにはぴったりだ)


「あっ、これ私の釣ったタコじゃない?」


「おォ! 俺はタコが好物なんだ。ありがてェ!」


 船長はラム酒を片手にアクアパッツァを肴にしながら杯を空けていく。

 今は誰が操舵してるんだこの船? 何だか不安になってきた。

 野菜スティックはないのか……仕方がないレモネードで我慢するか。

 俺はレモネードを注いだジョッキを黙々と傾けた。


 船室に戻りハンモックに揺られながら、ダリアの持ち込んだ数理の教本を読み耽る。

 うむ、さっぱり分からん。

 本をテーブルに戻し外套をシーツ代わりに被る。

 目を瞑り昼寝に入ると、眼前に表示される衛星情報から北米大陸の映像を受信した。


(この空の下にいる以上……)


 俺はゆっくりと目を瞑り意識を閉ざす。

 遠巻きから聞こえてくる波音をBGMに故郷の地を眺めながら。



―――――

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