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邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
第九章 汚染大陸編
61/83

喰えない輩

―――――



 キングが倒れ込んだ俺の首を掴み吊り上げられる。


 吊り上げられながらも視界を動かして周囲の状況を確認する。


 メンバーは無事だが、ジャックの動きがない。

 だがターゲットが消えていないことからも幸い生きてはいるようだ。

 パティの奴何をやってるんだ!?


「パティ! 早く逃げろと言っている! 急げッ!」


「でも、タウ……タウが……」


(ダメだ! せめて有利な状況へ持ち込む)


 俺はリボルバーを引き抜くと奴の頭に向けて引き金を引く効くとは思えないが、試してみる価値はある。

 トリガーを引きシリンダーが空転すると、奴は糸が切れたように膝を着いた。

 効いたか? いや、これは……


「な~んちゃって……なァ!」


「……ガッ!」


 奴の膝蹴りが俺の腹部へと直撃、ノイズと警告ガイドが俺の視野を覆う。

 今ので強化骨格にヒビが入ってしまったようだ。

 何より拙いのはこいつがまだ本気を出していないことだ、この状況で遊ばれている。


「ゼロサムゲームって知らねぇのかぁ? テメーは20%俺は300%負ける道理がねーッ!」


「……300%だと?」


「あぁ~ALW-300のナノマシンはよォ! 相手に与えるのと同じように相手から奪えるんだァ!

 お前がこの俺様の記念すべき三人目の御馳走って訳だ」


 奴の背中に突き刺さったクロスボウのクォーレルが見える。

 ミュレーが攻撃しているのか? 何故逃げないんだ!?


「ミュレー皆に指示を出せ! 逃げるんだッ!」


「でもタウ……貴方は」


「大丈夫、私には秘策があります……まぁ、私如きの秘策では、何の役にも立たないかもしれませんが」


「……わかった。皆撤退するわよ! リマはジャックをダリアはパティを!」


「ダリア私は良いわ。リマを手伝ってあげて……タウ、約束破ったら承知しないんだから!」


 ダリアとリマが気を失ったジャックを抱え、パティを殿に後退していく。

 良しこれで何とか……だがこいつが彼女達を逃がす訳がない。

 奴が背後へ気を逸らした時がチャンスだ。

 奴が視線を逃げていく彼女達の方へと向けると奴が脚に受け貫通したクォーレルを掴み。その場で回転させながら傷口を広げる。


(後は自然な流れでアレを狙うだけだ)


「何度やっても再生して……んおっ!? ナンじゃこりゃ!」


 奴が膝下に受けた鉄のクォーレルを捻じ曲げて膝上に刺し込む。

 差し込まれたクォーレルは再生能力によって固定され膝が動かせない。


 そしてお前は刺さったクォーレルを引き抜こうと頭を下げる、そうだろ?


「セコイ真似しやがって! コノ野郎ッ!」


「まぁ落ち着けよ、少しばかり話をしよう」


 俺は奴が下げた頭に腕を回すと、腕を脚で挟み地面に押し倒す。

 クリップラー・クロス・フェイスと云う技だな。

 実戦にロープブレイクはない、このまま少し付き合って貰おうか。

 ナノマシンによる精製操作ON。


「ンガッ!? 溶ける? オレの目が溶ける!?」


「全く神は何を思って俺達のような化け物を作り出したんだか……どれ、このまま脳まで分解してやろう」


「神だァ! それなら今朝便所に流してやったぜェ!! イヒッ!」


 奴はそのまま倒立しブリッジ状態になると俺のフェイスロックからあっさりと抜け出す。

 ほぉ、抜け方を知ってるのか。

 俺が立ち上がろうとするキングにタックルを試みると背中から腕を当ててタックルを切られる。


 俺が地面に這い蹲ったままナイフを奴の足首に斜めに刺し込み再生させ固定すると、もう一方の足を全力で払い上げる。


「次から次へとシツケー野郎だ!!」


「そう遠慮するな」


 俺が体勢を立て直している間にも奴はヘッドスプリングで一瞬にして転倒状態から立ち上がり、腰を低く身構える。

 やり難い奴だ。 再生能力があるなら油断しそうなものだが……こいつにはその油断が全くない。


 とはいえ下準備は済んだ……少しばかり情報でも引き出すか。


「先程、喰えば強くなるとか言ってたが本当なのか?」


「ナノマシンの血中濃度は喰えば喰うほど濃くなるッ! もう俺様は誰にも殺せねぇ~ッ……無限の力! 不老不死! これが勝利の方程式よ!」


「へぇ、プラシーボ効果というモノかな? それで……無限の力と不老不死とやらで、お前は何をする気なんだキング?」


「俺はこの弱肉強食の世界に選ばれたエリート! 一つ残らず喰い殺してやる! 俺がこの星の全てを奪い尽くして、この地球の王になるんだッ!」


 頭大丈夫かこいつ……まぁ、強すぎる力を持ちすぎるとそうなっちゃうのかもな、全能感に飲まれてしまったのか。

 少しばかり勿体無い気もするが、制御不能なチェスピースを抱え込む気はない。


「それは残念だったなキング“チェックメイト”だ」


 俺は銃をリボルバーを取り出しキングに向かって銃の引き金を引いた。

 奴の体が突然膝を折り倒れ込む。

 自分の身に起こっている状況が理解できないのかキングはこちらを見て、野獣のような唸り声を上げている。


「D・E……? 効かねぇ筈なのに!」


「さっきお前に関節技を食らわせる隙に“インテンション”を使わせて貰った。ナノマシンがお前の眼球から脳の神経細胞に入り、俺の指令を待ってたって訳だ」


 俺が説明を加えると状況を完全に把握したのか地面を這った状態で辛うじて動く腕を使い、逃げ出そうと生き足掻く。


「エリートの語源を知っているか? ラテン語で“神に選ばれし者”という意味だ。お前は『ボクちゃんは神なんて信じてないよ、だってボクは神に選ばれし者だから』とご高説を垂れてた訳だ……」


「ハァッ!……ハァッ!……」


「ゼロサムだの勝利の方程式だの覚える暇があったら、頭の使い道の一つでも覚えておくべきだったな」


「……ファック!!」


 俺はキングの頭部にトリガーを向けると一度だけ引き金を引いた。

 無敵の再生能力でも脳のシナプスごと焼き切られると流石に再生は不可能のようだな。

 キングはその場に突っ伏したまま動かなくなった。 


 まぁ、その内復活しそうだから穴でも掘って埋めておいてやろう。

 地中で1億年ほど頑張れば地表に出られるかもな。


「あぁ、それともう一つ……」


「弱肉強食と言ったが、お前のような不味そうな輩――とてもじゃないが喰えそうにないね」


 ……俺は被害者を肩で抱えキングを引き摺りながら、チャネル・ダンジョンの屋外へ出る。

 かなり長い時間薄暗いのない場所にいたから眩しいなこれ。

 眼のモニターが焼きつきそうだ。

 俺がダンジョンから出るとそこには目を泣き腫らし、鼻水で顔がぐずぐずになったパティが待ち構えていた。


「随分とまた酷い顔になってますよ」


「だってタウが……タウが!」


(また怒られるパターンだよな、これ)


 しかし意外な事にパティパンチやパティキックは炸裂しなかった。

 彼女は俺の腰に腕を回すと頭を預け声を押し殺して泣くだけだった。

 他のメンバー達もその様子を見て気を使ってくれたのかただ遠巻きから心配そうに、俺達を見つめていた。


「まぁ、感動の再開は後回しにしましょう。ジャック君の容態は如何ですか?」


「どうやら肺がやられてますね。こりゃあ」


「そんな……」


「へへっ、すいません師匠。俺、足手纏いになったみたいで」


 被害者の方は骨に当て木を添えれば自然治癒するだろうが、ジャックは口から気泡の混じった血を吐いている。

 折れた肋骨が肺を傷付けたか、内出血か……容態は命に関わる重傷のようだ。


「どれ、私が診てみましょう。どうやら肺に刺さっている訳ではないようですね……これなら」


「“おまじない”するの? でもさっきアイツが……」


 奴は勘違いしていたが五等分した訳じゃない、大体全体の10%ずつといった所だ。

 つまりまだ50%残っている。

 ユーグ氏に彼の事を頼むと請われた以上、俺には彼を救う責任がある。

 まぁ、別に頼まれなくてもやってしまうだろうがな。


 俺はジャックの頚椎に“インテンション”を使用すると彼は即座に昏倒してしまった。

 危険な容態のようだから治療を優先させたか、何にせよ開胸手術が必要のない傷で助かった。

 真っ当な施術の出来る医師などこの世界には居ないだろうからな。


「まぁ、こんなもので大丈夫でしょう」


「え?……でも普通なら死んじまうような大怪我っすよ?」


「大丈夫です! タウ様なら治せます!」


「サイモンさん、このことは内密に……ね」


 ミュレー様の眼が笑っていない微笑みにサイモンがたじろぐと深く詮索するのを諦めたのか、自警団の警戒を解除した。

 表の方でも戦闘があったようだな、そこら中に魔物の死体が転がっている。

 サイモン君も中々やるじゃない。


 商業都市への岐路へ着く際にもパティは俺にべったりとくっ付いて離れようとしなかった。

 俺達の関係も周知されたようでほっと一安心といった所だな。

 馬車の後部から流れる雲を目で追いかけながら、キングの言葉を反芻する。


(兄弟……)


 俺がパティと出会わなければ何れ、あぁなってしまったのだろうか?

 いや、それはないか、例え俺が美食家になったとしても流石に人肉まで食おうとは思わない……


 あぁ、人間ではないなら食えるか? 俺の口から自嘲するような笑いが零れた。



―――――

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