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邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
第一章 マイカ共和国編
6/83

重炭酸ソーダ石

―――――



 ドアを叩く音で目覚める。 そういえば昨日から何も食べていない。

 硬いベッドの上で軋む体を起こしながら首を撫でつつ痛みを誤魔化す、疲れが取れた気もしない。

 そういえば今何時だ? 時計……。

 あぁ……ここは現代じゃなかったな。


「タウ、居るんでしょ?」


「わかった……今開けるよ」


 いきなり宿まで乗り込んでくるとは予想だにしなかった俺は、適当に相槌を打ちながら閂を開ける。

 パトリシアは入ってくるなり目を見開くと、悲鳴を上げて後退った。


「ひゃっ!? な、何で上半身裸なのよあんた!」


「あぁすまない、一張羅なもので昨日洗って干しておいたんだ…すぐに着ます」


「すぐに着なさいっ!」


 風のように立ち去るパトリシアを尻目に恥の概念はあるんだな などと不遜な事を考えながら。

 乾いた服に袖を通し……もとい生乾きの服に袖を通した。

 一通り準備を終え部屋から出ると受付に一礼を交わし階段に足を掛け、そのまま食堂のある2階へと昇っていく。


「遅いわよ、タウも何か食べる?」


「給仕さん昨日教えたサンドイッチを貰えます」


「はい、ただいま!!」


 聞き慣れない言葉に目を白黒させるパトリシアの前に俺が以前食べたメニューが、俺も前にはパンに具を挟んだサンドイッチが積み上がった。

 俺もパトリシアもそれを見て閉口していると、奥から料理人の女将さんが調理場から顔を出した。


「おもしろい料理教えて貰った礼だよ! 色々具を考えて挟んでみたんだ!」


「そりゃすごい……」


(異世界の創作料理……嫌な予感しかしない)


 とりあえず肉だ。サンドイッチの中から鶉肉を挟んだ物を探し出すと思い切りよく齧り付く。

 塩だけではない……オリーブの味とタイムの香りが口内に広がる。

 下手をすると現代の物よりも旨いかも知れない。

 噛む度に肉汁が溢れ出てパンに染み込む、何より手が汚れないのが最高だ。


(お次はこいつだ)


 鶏卵をボイルして潰した何の変哲もないタマゴサンド。

 タマゴは完全栄養食なので今のような環境では定期的に食べておきたい物の1つだ。

 マヨネーズがないのでややぼそぼそしているが、後々改善していこう。


「あっ、エールを一杯お願いします」


「はーい!」


 口の中がパサついてしまった、水分…水分…次はシンプルなトマトサンドを手に取る。

 馬鹿でかい輪切りのトマトに塩を塗し挟んだだけのシンプルなものだ。

 品種改良されていない所為か雑味も多いが、それが余計に体に良い様に感じる。


(良薬は口に苦しというしな)


「ちょっとタウ、あたしにもその……サンド何とか」


「どうぞ」


「エールお待たせしました」


 給仕の持ってきたエールを勢いよく呷る。

 朝っぱらからアルコールを飲むのもどうかと思うが、この世界では普通の事なのだ。

 と自分自身に納得して聞かせる。


 横目で見ると鶉肉の脂で指がべとべとになったパトリシアが、恐る恐るとサンドイッチを口に運んでいく。

 よりによって女将さんの作った創作料理だ。


「あっまぁーい!?」


(……?)


 残り半分の創作サンドに俺が手を伸ばすとパトリシアの手にピシャリと叩き落とされる。

 存外意地汚いなこいつ、本当にカルマ0か?


「ははは、そいつは近隣の村で評判のアケビのジャムを挟んだんだよ」


「へぇー! アケビってこんなにおいしいんだぁ、果肉を噛む度に甘さが広がって……」


(リマに教えたジャムか)


 これならば残りの創作サンドにも期待が持てるかもしれない。

 皿から手に取ると残りの正体もすぐにわかった。チーズサンドだ。

 しかし口に含むとただのチーズサンドではないことがすぐにわかった。


(塩っ辛いなこれ、でも舌に痛みが走るような辛さじゃない)


 口の中で咀嚼したチーズサンドをエールで流し込み、再びチーズサンドに齧り付く。

 癖になる辛さだ……これはエールが欲しくなる、つまみ用らしいな。


「腹八分目にしておきますか」


「腹? えっ?」


「あんまり食いすぎると動く時に辛いですからね……すみません。これ昼食用に持っていっても構いませんか?」


「なるほどねぇ、手が汚れないだけでなく弁当にもなるのかい? これはいい料理になるかもね! いいよいいよ持ってきな!」


 料金を払うと足早に宿屋の外へと歩き出すパトリシアはまだ食い足りないのか、サンドイッチの入ったナップサックをちらちらと開いては何度も確認している。


「それでどこへ向かうんです? 急ぎの様じゃないのなら市場に顔を出したいんですが?」


「へっ? あぁ、別に構わないわよ、私の用事はすぐに済むから」


 俺達はそのまま市場に進むと、ルースの区画へと足を運ぶ。

 ルースがこちらの姿を捉えると鋭い眼光で返し、パトリシアが俺の背後へと隠れる。


(とことん客商売に向いてないな、この人)


「いらっしゃいませ! こちらが先日お話した!」


「凄いですね、興味深い」


 アナライズを駆使してルースの持ち寄った石の中から目当ての鉱石を探す。

 確か色は乳白色だった筈。

 しばらく観察すると目当ての石はすぐに見つかった……重炭酸ソーダ石、これだ。

 石灰石もあるな、あいにく加工する手段がないが、とりあえず買っておくか。


「タウ……そんな石を買ってどうするの?」


「ん、個人的な趣味で、おっと…これは?」


「これはクローブといって強い香りのする実なんですよ! ね? 良い香りでしょう!」


「良い香りって、臭いだけなんだけど」


 俺の背後から観察していたパトリシアが辛辣な言葉を投げかけると、ルースは言葉に詰まりながら狼狽する。

 上下関係を把握したパトリシアはこれ幸い攻め寄せる。


「そもそも装飾用の石っていうけど、濁ってるものや道端に落ちてるようなものばっかりじゃない! 価値のある宝石って言うのは金銀、ダイヤ、真珠みたいな宝石の事を言うのよ!」


「えっ…あっ…そ、そうですね、はい」


(丸め込まれてるな)


 確かに使い道がわからないとゴミにしか見えないかもしれない。売っている商品に所謂貴金属は一つもない。

しかし物を見る目がある……この品揃えは俺にとって宝の山だ。


「だけど、パトリシア……君が今朝食べていた鶉肉にもここで買ったオリーブやタイムを使ったんですよ」


「えっ?……」 「えっ!? 化粧用の香油を料理に使ったんですか!?」


 庇ったつもりが思わぬところから撃たれる。というか料理用で売ってたんじゃないのか?

 そういえば商品のほとんどは宝石や香水に近いものばかりだな。


(うーむ、助け舟を出したつもりが仇になったな)


「け、化粧用って……ちょっとっ! 食べても大丈夫なんでしょうね!」


「元は植物なので、大丈夫です」


「タウ……あんたまさかそんな石ころまで私に食べさせるつもりだったんじゃ!?」


 口で説明するのも面倒だ。

 実際食ってみなければわかるまい、幸い納得させる材料は手元にある。


「えぇ、その通り」



―――――

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