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邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
第八章 アナン開拓村編
51/83

しまっちゃう邪神

―――――



 長い間動いていなかった為なのか空調の臭いが鼻腔に入る度に不快な気分になる。

 先程から同乗者達もくしゃみを繰り返している。


 やがてエレベーターが停止するとドアが音もなく開き情報管理本部内へ入る。

 ここは先程の統合司令部よりも広いようだな。


 コンピューターは起動したまま何かを衛星や無人機を使って監視しているようだ。

 ……何を監視しているのかは言うまでもないが。


「これって共和国の地図よね……海洋国家・帝国・商業都市まで全部書いてある」


「本当に地図なのかしら。だってほら、さっきの空白地の村が書いてあるけど書いてある絵が動いてるみたい……」


「これは絵ではなく実際に監視しているんです。おそらくはこの地域に住んでいる人間であれば一人残らず」


 手元のキーボードにALW-011と入力するとフィルム状のモニターに何者かの視界と音声が再生され、番号を変える度に視界が切り替わる。

 これはゴブリンかどうやら監視ボットとしての役割もあったようだな。

 適当にALW-004と入力すると飛んでいる何かの視界が表示された。

 おそらく昆虫型か何かだろう、道理で見かけない訳だ。


「ちょっと待って! じゃあ何!? 魔物が私達の生活を毎日監視しててここで全部見られてたってこと!?」


「まぁそうなりますかね。しかし……」


「こ、壊しなさい! ここにある物は全部破壊するのよ!!」


「いえいえ、誰も入った様子はないですから大丈夫ですって」


 パティが突然剣を抜き乱心するとミュレーとリマが羽交い絞め止めに掛かる。

 おっとダリアはどこへ行った。


 部屋を見渡すとPCのゲームを起動してソリティアをやっているダリアがいた……未開人と文明人の差を見せ付けられた所で次に向かおう。


(特別管理区域ねぇ……)


「絶対に何時かブッ壊す!」


「まぁまぁ、暴れるのは次のフロアでお願いします」


「はぁ? まだこれ以上の何かがあるの!?」


 FLOOR-6の特別管理区域で停止。

 エレベーターのドアが開いた途端、背後からリマの小さい悲鳴が聞こえる。


 部屋の中はかなり奥行きが広いようで天井も高く取られていた。

 そしてその奥にあるものは竜の体躯をも超える巨大な魔物。

 ALW-000 0が3個か……ヘブライ語でエフェスとでも名付けようか。


「何よこいつ……こんな魔物見たことも聞いたこともない」


「タウ、まさかとは思うけど、この魔物は生きてるのかしら?」


「ん? 残念ながらまだ生きているようです」


 手元にあるコンソールを操作してdeleteを押すと部屋にあった他のポッドに入っていた魔物達を消去される。

 ポッドの内側から暴れドアを叩きつけるような音が部屋中に響き渡る。

 やがて削除が終わったのか室内には静寂が広がった。


 しかしエフェスの削除コードだけは俺の権限では通らないようだ。

 どうやらこれは俺のスペアボディらしいな。

 要するに嫌がらせです。


(生命維持装置を破壊すればいける筈……)


「パティ、こいつであの箱を撃ち抜いて下さい。おそらくそれで死にます」


「え……いいの!? やった!」


 俺がイジェクションスピアをパティに渡すと彼女は嬉々としてそれを受け取り、維持装置目掛けて槍を発射。

 生命維持装置に槍の先端が深々と突き刺さると当たり所が良かったのか、無事維持機能が停止した。

 ポッド内の培養液が濁り始め呼吸も停止したのを見届けるとコンソールを破壊してエレベーターに乗り込み、最後のフロアへと向かった。


「結局何なのここ? 人のこと監視したり、とんでもない魔物を作ったり、碌なもんじゃないってのは分かるけど……」


「ディストピアの中枢部といった所かな」


「でぃすとぴあっ? お菓子の名前ですか?」


「美味しそうな名前」


 緊迫感皆無だなこの人達、最後は本日の大トリFLOOR-2にある武器弾薬庫だ。

 部屋に入ると自動の照明が灯り部屋を照らしだす。


 古巣に戻ってきた感覚が懐かしい。

 目の前には手付かずの銃器がずらりと並べられている。


 例の銃のバッテリーを発見……おっアサルトライフルもあるみたいだ。

 形式はMH-1 液体装薬を推進剤にした10x24mmケースレス弾。

 生体認証ロックも掛けられる様だ貰っていこう。


「タウが何時も遊んでる玩具が一杯あるわね。ひょっとしてこの部屋はこれでおしまい? つまんないの」


「タウ様、この鎧は何ですか?」


「こいつはエグゾスケルトンという特殊な鎧です」


 俺の返答に小首を傾げるリマを置いて機体を確認する。

 超高分子量ポリエチレンのボディにセラミックプレート。

 10㎜チェーンガン2門にバックウェポンが着けられるようだ。


 無反動砲・12連装小型ミサイルランチャー・対戦車ロケット・飛行ユニットまである。

 正直処分したい所だがあんな物騒な魔物が居るとなると話は別だ。


(おっチョコバー発見……施設全体が真空保存状態だったなら、まだ食える!)


「あら、何食べてるの?」


「チョコバーです。多分食べられませんよ」


「タウは食べてるじゃない。ケチケチしないで一本寄越しなさい」


 次々と手が伸びチョコバーを奪い取られる。

 畜生、1人で全部食おうと思ってたのに……まぁいい まだ大量にある。

 部屋の散策も粗方終わり部屋の隅にあるラックを開ける。

 中身は空か……あの頃を思い出す……左から3番目、上から2番目、これは?


(手紙……まさか?)


 ラックの中には一通の手紙とドックタグが入っていた。

 恐る恐るタグに手を伸ばしタグの名前を確認する。


 確かに俺の名前だ――


「何それペンダント?」


「えぇ、そのような物です」


「男のタウには不要でしょー? 頂戴! 頂戴!」


「残念ですが、これだけは渡せません」


 ドックタグを首に掛け十字を切る。

 今更未練がある訳ではないがちょっとした習慣のようなものだ。

 パティが何時もの様子と違うことに気付いたのか心配そうな顔でこちらを覗きこんでくる。

 心配するほど顔に出てるのかね?


 俺は彼女の頭に軽く手を添えるとウェポンケースを3つほど抱えエレベーターに乗り込み、その場を後にした。


 ……開拓村に到着する頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。

 俺は食事も取らずに部屋の椅子に座ると手紙をどうするかで思い悩んでいる。

 誰が遺したのだろうか? この世界では俺の知らない技術で作られた物が幾つかあったが、あの基地にあったのは見知った物ばかりだった。


(俺が与えられた役割はこの世界を管理する“システム”としての働きだったのだろう、だが今更……)


「タウー、起きてる?」


「はいはい、今開けます」


 全くしんみりしてる暇もない。

 扉を開けると寝巻き姿のパティが枕を持って佇んでいた。

 彼女はドスドスと部屋に入りベッドに腰掛けると俺の瞳を見つめた。

 俺が彼女の横に腰掛け太股に手を這わせるとパティは金色の目を閉じて、顔を突き出してきた。


(なんというか……キス魔だな)


「タウ……お願い」


 俺が彼女の顎に手を添えてゆっくりと唇を近付けると再び外からノック音が聞こえてくる。

 パティは総毛立ちで飛び上がるとあたふたとした様子で、枕を抱えて右往左往し始めた。


 何これ面白いんですけど。


「パティ、とりあえず箪笥の中へ」


「わ、わかった」


「はい、今出ます!」


 大急ぎでパティを箪笥の中へ隠蔽すると俺は着衣を正し扉を開ける。

 そこにはネグリジェを着たミュレーが体にしなを作りながら待っていた。

 彼女は俺の返答も待たずに部屋に入り込みベッドの上に腰を降ろすと上目遣いで俺を見上げる。


(ミュレー様……貴女って御人は)


「その……今日あんなことがあったから、眠れなくって」


「え、えぇ、そうですね」


 すると、続けてドアのノック音が鳴り。

 ミュレーはピッと鳴き声をあげ飛び上がり彼女が慌てて窓から逃亡を図る。

 天丼はやめて!


 俺は彼女をベッドの下に隠れるよう促すとミュレーは床を這いながら、ベッドの下へと潜り込んだ。


「ミュレー、とりあえずベッドの下へ」


「は、はい」


(なんだか俄然楽しくなってきた)


 俺が大急ぎで扉に向かうとそこには案の定、寝巻き姿のリマが佇んでいた。 

 このサイズだと棚の中でもいけるかな?


 俺は入ってきたリマの両脇に手を入れ抱え上げるとそのまま棚の前へと運んでいく。


「あれっ!? タウ様何を……」


「はっはっは、直に分かりますよ。リマ」


 続けて扉のノック音が聞こえるとリマが大慌てで足を振り回す。

 よしきた、はいはいしまっちゃうからね。


 俺は抵抗するリマを棚の中にしっかりとしまうと返す足で扉を開ける。

 そこにはダリアがお澄まし顔で佇んでいた。

 もう隠す場所がないな。


「チョコバーをください」


「えぇ、どうぞ遠慮せず上がって上がって」


 箪笥と棚と寝台がガタガタと音を立てるとダリアはびくっと飛び上がり、周囲を警戒しながらも恐る恐るベッドに腰掛けた。

 俺はチョコバーを2本机から取り出すとダリアに手渡す。

 ダリアは頬を桜色に染め両手にチョコバーを持ち、かなりご機嫌のようだ。


(……これでよし)


「私は少し外の空気を吸ってきます。それと食べ終わったら歯磨きを忘れないように」


「はい、わかりました」


 チョコバーをもくもくと頬張るダリアをその場に残し俺は部屋を出た。

 いやぁ中々楽しいレクリエーションでしたね。


 翌朝からメンバー間でぎこちない空気が流れたのは言うまでもない。



―――――

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