邪神 巻き込まれる
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ずかずかと先行していく少女の後を追い、森の手前で俺はその場で立ち止まり広域アナライズを行う。
視野には ALW-011 所属不明 という表示が幾つも表示された。
(……なんだこれは?)
銃をターゲットに向けるとダットサイトが赤く染まる。
どうやら攻撃は可能なようだ。
手近にいる3つの目標に向かって銃のトリガーを引くと目標は人間と同じように無事に消滅した。
(ひょっとしてこれが魔物か? 何の略称だ)
「ちょっとあんた何してんの?」
「あ、いえ、ちょっと……」
「時間がないんだから、変な玩具で遊ぶのは後にしてよね!」
こいつ本当にカルマ0なのか? 少女は60cmほどの長さのある剣を取り出すとそのまま森の中へと分け入っていく。
周囲に敵がいないことは把握しているが俺も万一の為にナイフを抜いて後を追う。
すると少女はその場で立ち止まり振り返った。
「ここからはあんたが先導して」
(武器を持った信用できない人間に背後を歩かせるのに不安があるか、まぁカルマ0相手なら構わないか)
「わかりました、真っ直ぐでいいんですよね?」
「え、えぇ、このまま真っ直ぐでお願い」
俺が先行して歩いていくと草の自生している草原に辿りついた。
アナライズを実行すると“ダチュラ”とだけ表示される。
あいにく草花には疎いので薬効については定かではない。
(見た目は普通のアサガオだな)
「根から採っていくわよ」
「はい」
1つずつ薬草を抜いて籠の中へと放り込んでいく、籠が満杯になる頃。
奥から少女の叫び声が聞こえた。
定期的に広域アナライズを行っているので周囲に脅威はない筈なのだが……。
俺はその場から駆け出して声のした方角へと向かった。
「大丈夫ですか!?」
「あーびっくりした、何よこれ死んでる?」
(なんだこの気味の悪い生物は……これが魔物か?)
鋭い牙の生えた口に眼孔のない頭部、小さな鼻の穴のようなものも見える。
見た目は毛のないゴリラのようで血管が浮き出ていた。想像していた魔物とはまるで似ても似つかない。
これはまるで……。
「でもラッキーだったわ! とりあえず手首を剥いどこっと」
少女が剣を振るうと、魔物の手首が宙を舞い地面に転げ落ちた。
「……それ、売れるんですか?」
「はぁ? 何よあんた知らないの? 魔物を倒して体の一部を持ち帰ったら褒賞金が出るのよ
あっ、これは私が見つけたんだからね!!」
(手首の関節に綺麗に入って両断したな、貴族なら剣の心得もあるのか?)
一通り採集が終わると依頼主の店舗にダチュラを満載した籠を運ぶ。
報酬はその日に受け取った銅貨約60枚だった、配分するので日当にして3000円程度……地味にリアルだな。
続いて少女に急かされながらも、そのままギルドの方角へと歩き出す。
「これゴブリンの手首! 私が退治したのよ!」
ギルドのカウンターに草で包まれたゴブリンの手首を置く、枕元に戦利品を並べる猫のように少女は鼻の穴を膨らませた。
受付嬢は唸りながら周囲の冒険者達も感心した様子だ。
「では褒賞金、銀貨1枚ですね」
「やった!」
(盗賊討伐の相場が銀貨50枚という話だから、まともに戦えば魔物の方が弱いということか)
銀貨を持ってくるくると回る少女。
素になるとテンション高いタイプだな。
周囲の冒険者から苦笑いが漏れると少女はハッと我に返り、頬を紅潮させながら受付嬢に詰め寄る。
「それとこれ! 今度から討伐依頼も受けられるようになるのよね!?」
「はぁ、確かに討伐依頼は魔物3体以上の殺害が条件ですが……」
(素人が危険な依頼を受けない為に条件を設けてるのか)
「貴女をギルドリーダーに3名以上のメンバーがいないと討伐依頼は受けられませんよ?」
少女の表情が明らかに落胆した様子を見せ、わなわなと震えながら地団駄を踏む。
「なんでそう……面倒なっ! わかったわよ、あと一人連れてくれば良いんでしょ!?」
(ん……?)
まさかとは思うが、俺も数の内に入ってるんじゃないだろうな?
受付嬢に目配せすると、彼女は手の平を合わせて俺に向かって頭を下げる。
どうやらギルド側でもこの放蕩娘が貴族だということは周知の事実のようだ。
少女はウェーブのかかったブロンドの髪を振り上げ、金色の両眼で俺の顔を見据えて名乗った。
「あたしの名前はパトリシア、あんたは?」
「……タウ」
犬や猫は嫌いなんだがな……俺は。
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