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邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
第六章 商業都市イザーク編
37/83

逆セクハラの嵐

―――――



 違和感を感じながらも目を醒める。

 確か昨日は椅子で寝たと思ったが、何時の間にかベッドで寝ていたのか?

 なんだか寝汗も酷い、やはりこの体でベッドの上で寝るのは駄目だな。


 上体を起こすと外から騒ぎ声が聞こえる。

 朝っぱらから元気がいいな全く。


「おはよータウ!」


「はい、お早う御座います」


 彼女達は一ヶ所に固まって、こちらの方をちらちらと見ながら、なにやらひそひそと話をしている。 

 何この空気、そういうの良くないと思います。


「あー、皆さん具合の方は如何ですか?」


「私の目は良くなったみたい、タウの顔が以前よりも良く見えるようになったし」


(ミュレー様、それだと俺の顔が悪いように聞こえます)


 ダリアの肩の裂傷を目で確認する、既に傷口はほとんど埋まっているようだ。

 相変わらずボーッとしながら俺の顔を見つめては睫毛を揺らしながら瞬きしている。


「私の怪我も良くなりました」


(あぁ、また元のダリア様に戻ってしまわれた)


 リマは……まぁ、確認するまでもないな。

 神経の癒着が完了したのか、両足でしっかりと地面に立っている。

 しかし神経の繋がり方によってはある程度リハビリが必要だろう。


「タウ様……」


(リマ様が、めっちゃこっち見てる)


「タウしゃまぁぁぁっ!」


「あっ!? ちょっとリマがまた抜け駆けしてる!」


 リマがこちらへと疾走し抱きついてくる。

 早ッ!? 何だ今の、一瞬で間合いを詰められたぞ。

 彼女は俺の腹部に顔を押し付け鼻を鳴らす、その位置を嗅ぐのは絵面的に犯罪臭が酷いのでやめてください。


 他の娘達も俺の周りを取り囲んで抱きついてくる。

 過去の世界であれば一発アウトの光景だな。

 ダリア無表情で俺の股間をまさぐるのはやめろ、ミュレーこっそり俺の尻を揉むのをやめてください。


(なんだか今日は様子がおかしいな、妙に艶っぽいし)


「はいそこまで。 パティ、討伐を続けるなら皆にはリハビリが必要でしょう。お遊びはここまでにして修練です」


「……えーッ、ケチッ!」


「ルース君がここに到着するまで、まだ時間がありますから。それまでに動きを合わせましょう」


「は? ルースさんここに来るの? なんで?」


 そういうのやめてあげて! 俺の肩に頭を乗せてぐだっていたパティを手で押し退けると、他のメンバーにもお下がり願う。


「商業都市はルースさんの地元で便宜を図ってくださるそうですから、帝国を発つ前に書面で連絡しておいたんです」


「あら、なんだか目の調子が……」


「わ、私も激戦の疲れで足が痺れてきました……」


「お休みが欲しい」


 はいはい、仮病ね、あとダリアはもうちょっと捻ろうね。

 だが確かに自然治癒力が向上したとはいえ、病み上がりに無理をするのは良くないかもな。

 俺の場合、ほとんど疲れはないんだが血中濃度的な問題か?


「では、ルース君が来られるまではお休みにしましょうか? 自然に帰って野生に戻れば、傷が癒えるのも早そうですし」


「……何だか棘のある言い回しね」

 

 その場で解散するとパティ達は4人で群体を形成しながら、何処かへと走り去っていった。

 さて、俺は資材の整理でもするか、砦での戦いでほとんどの武器を失ってしまったからな。


(装備を揃え直すにはかなり金が掛かる)


 結局は帝国領内で得た褒賞金は雀の涙 完全な赤字だ。

 特にバリスタを丸々失ったのが痛い。

 馬車本体にもかなりガタが来ていて馬の負担になってるようだ。


 俺が馬車の中を整理しているとパティが後部から顔を出した。


「ねーねー、タウは遊ばないの?」


「山の中で山賊ごっこでもするんですか?」


「あのね、近くに川を見つけたから、水浴びしようって誘いに来たの」


(嫌な予感しかしないイベントだな)


 パティはきょろきょろと目を動かしてこちらに視線を合わせようとしない。

 これは何か悪巧みしてる顔ですわ。

 仕方なしに馬車の外へ降りると、広域アナライズで周囲の脅威を探索する。


 この付近に魔物の反応はほとんどない、流石は交易が中心の商業都市。

 魔物や山賊の類はほとんど排除できているようだ。


「皆、タウを連れてきたわよ!」


 山道を下り川に辿り着くと肌着姿で戯れているミュレー達の姿が見えた。

 パティも上着を脱ぎ肌着姿になると我先にと川に飛び込んでいく、ふむ、どうやら杞憂に終わったようだな。


「ダリアーッ! 勝負よぉ!」


 互いに水を掛け合ったり、川底を元気に転げまわったりしている。

 む、川魚がいるな、ガチンコ漁でもするか。


 俺が適当な石を探していると4人がこちらへと駆け寄ってくる。

 成る程な、中々策士じゃないか、

 ブラもパンツも着けずに肌着だけで泳ぐとは……


(だが、この俺のスルー力を舐めるな!)


「タウ、何やってるの?」


 ミュレーが前屈みになりながら上目遣いでこちらを見上げる。

 うん、そこで前屈みになる必然性ないよね。

 なるだけ胸元に視線が向かないよう顔をガン見しながら答える。


「折角なので川魚でも獲ろうかと……」


「タウ様ぁ! 魚なら私が獲りましたぁ!」


 眩しい笑顔のリマが肌着の両サイドを広げ、その上で捕まえた魚が跳ねている。

 それ以上裾を持ち上げるのは……

 何だこいつら、今日こそ俺を逮捕させる気なんじゃないだろうな。


(ここはダリアだけが……)


「私も獲りたい」


 ダリアがこちらにお尻を向けて川底に手を着き四つん這いになる。

 あぁその体勢はヤバイ、お前らいい加減にしろ!


 足元に横殴りの衝撃を感じ、頭から川に落ちる。

 どうやらパティが俺を引き倒したようだ。


「どこ見てるのー? このスケベー!」


(見てるんじゃないよ! 見えるんだよ!)


 パティは俺の上に馬乗りになりながらにやけると、こちらに顔を近付ける。

 パティの癖に今日は強気だな……生まれたての子鹿みたいに震えてるけど。

 俺はパティを脇から横抱きすると、その場から立ち上がる。


「にゃっ!? タウ?」


「パティ」


「あっ、いいなぁ……」


 腕の中で抱かれたパティが目を閉じて腕の中で丸くなる。

 もう本当にこの娘ったら、どっちがムッツリスケベなんだか。

 これは制裁が必要のようだな、俺はそのまま彼女から手を離すとパティは尻から落ちて川に大飛沫を上げた。


「ふぎゃっ! んもー! なにすんのよっ!」


「はいはい、これだけ元気が有り余ってるなら、午後からは修練を始めても問題なさそうですね」


 4人は気の抜けた返事をすると、とぼとぼとコテージへの道を昇っていく。

 馬車の中で着替えを済ませ装備を確認するとコテージの中庭に集合した。


 ……“インテンション”の効果はかなり効いている様だ。

 パティとダリアが木剣で打ち合っているが、ほぼ互角の戦いを見せている。

 しかしながら剣の扱いには一日の長のあるパティが優勢か、ダリアが細かいフットワークで間合いを維持するが次第に巻き返されダリアが敗れた。


「はぁ、はぁ、中々やるわね!」


「ありがとう」


 パティは肩で息をしているがダリアは悠々としている。

 見る限りではダリアの方が激しい運動量だったようだが、

 スタミナではダリアが勝っているのか? しかし両者とも余り驚いてはいないな。


(やはり個人によって伸びる能力が違うようだ)


「次はダリアとリマを交替で動きを見ましょう」


「ちょっ!? ちょっと休ませてよ」


「いきます!」


 リマが長尺の棒を旋風のように振り回す。戦い方を変えたのか?

 付け入る隙間のない攻撃と突進力に流石にパティも攻めあぐねるが、打ち下ろしたリマの棒に木剣を上手く合わせて武器を破砕させた。


「ふー、ふー、もうダメェ……」


「わふぅ、やっぱりパティは強いです」


「おまじないの効果、効いてるみたいね、タウ」


 横でコンパウンドボウの練習をしていたミュレーが、こちらへと語りかける。

 ゆっくりと目を閉じ静かに口笛を吹くと目を見開き矢を放つ、放たれた矢は舞い落ちる枯葉の一枚を捕らえ、立ち木に命中した。


(……流石に気付くか)


「確かに止まって見える」


「ミュレー、その事は」


「大丈夫よタウ、もうパティも皆も気付いてる。昨日の夜目を覚ました時、大変だったんだから……」


 パティがこちらへと微笑みながら歩み寄ると、真っ直ぐと俺の目を見据え話しだした。


「私にはこの力が何なのかはわからないけどタウが私の為に……いえ、皆の為にくれた力だって事はわかってるつもり」


「そんな大仰なものではないです」


「私は貴方に誓う。貴方の良心を裏切り。決して失望させるような真似はしないとここに誓う。タウ、私を信じてくれる?」


「それではあべこべですね、君の良心を信じているから懸けたんです」


 俺がパティに笑いかけると、パティも俺に対して微笑み返す。

 するとパティは身を捩り、地面につま先を立て両手の指を重ねると顔を紅潮させながら言葉を繋ぐ、正直嫌な予感しかしない。


「そっそれでね! 昨日タウが言ってたじゃない? 4人とも全員好きって……」


(ここでカット!)


「はい、パティ達は私にとっては……」


 俺の詐術が繰り出されようとした瞬間、背後からネックチョークを綺麗に決められる。

 おのれミュレー! ここでコンビネーション技だと!?


「……!!」


「それで昨日皆で話し合ったんだけど、皆全員同じくらいタウのこと“愛してる”よねって話になったの……だからね……」


(表現が誇張されている上に、愛してる男の首を絞める人物が約1名混じってます!)


 だが残念だったなミュレー。

 この俺のCQCテクニックを駆使すれば、この程度の拘束振り解く事は容易い。

 こうやって両手を絞められた首の隙間に差し込み……あれっ両手も動かない。


「ギルドメンバー同士で不和が起こるのなら、全員と付き合えばいいんです!」


(うん、確かにそんなことも言ったね)


「毎日カレーライスが食べたい」


(カレーライスと付き合ってください)


 リマとダリアに腕を拘束され全てを諦めていたその時、俺は最後の手段に打って出た。

 メニュー画面を出し肉体を仮死状態に再起動を1時間に設定……これぞ絶技“死んだふり”


「私達をタウの恋人にしてください!」


 俺はそのまま心地よいまどろみに身を委ねた。



―――――

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