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邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
第一章 マイカ共和国編
3/83

異世界の食卓

―――――



「そろそろ街に到着しますぜ? 荷卸の準備してくだせ」


「わかった」


 馬車の手綱を繰る御者の男がそう伝えると、馬車の後部から前方を確認する。

 周囲をところどころ欠損した岩の城壁で囲まれた街が見えた。


(建材のレベルは低いのか、それにあの欠損……戦争があるのかもしれないな)


 街の門付近で馬車を検問している男達に取り囲まれると馬車から降り、面通しを行う。

 軽装の鎧に身を包んだ兵士が人相書きと思しき紙と俺の顔を見比べながらうんうんと唸っている。


「うん、よし行っていいぞ……しかしあんたどこかの貴族かい?」


「いえ、ただの平民ですが?」


「見たことのない服だ、何の生地なんだ?」


 兵士が俺の服に指を指すとようやく気付く。

 そういえば村で服は貰ったが、棺桶の中で着ていた服を下に着ていたままだった。

 手触りは現代ではよくある合成繊維だが、麻布が主流のこの世界では悪目立ちする。


「確かにこれでは鴨が葱をしょっているようなものですね」


「は? 鴨? 葱?」


「よろしければ差し上げましょうか? 寸法を直せば誰でも着られるかと」


「えっ! いいのか!?」


 検問所の奥に通され、着ている服を警備隊の予備の衣服と交換する。

 デザインは彼等と同じものだそれが俺にとって都合がいい。

 兵士は俺から衣服を受け取ると口を開く。


「断っておくが、俺から要求した訳じゃないからな」


「えぇ、わかっています」


「しかし、この手触り……うーん」


 どうやらこの世界は中世よりも以前、時代的には古代文明に近いようだ。

 とはいってもローマ帝国時代の文明水準は、中世よりも遥かに高かったのだが。

 検問から出て街道を歩きながら真っ直ぐギルドを目指す。


 店内に入ると頬杖をついた如何にも手持ち無沙汰の女が、呆けた顔でこちらを見ている。


「すみませんギルド受付はこちらですか?」


「はい? あぁ、えぇそうですけど……でもこの時間から来ても依頼は」


「これは村長からの紹介状です、盗賊の討伐に人手が欲しいので募集をかけて頂けますか?」


「あぁ、あの村の……でも以前も言いましたが報酬は銀貨10枚ですよね、それだと」


 この世界の通貨はリマからある程度聞いている銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。

 村ではパンが一斤で銅貨3枚程度だった。 

 ビッグマック指数的に言えば銅貨1枚が、現代の価値にして100円ぐらいだろう。

 つまり銀貨10枚で10万円ぐらいだ、確かに命を賭けるには安すぎる仕事だ。尤も既に終わってるが。


「構いません、念の為募集をかけて頂けると助かります」


「は、はい……それではこちらに記帳をお願いします。この報酬額ですと手数料は1割です、受ける方がいない場合でも、9割の返金はされますので」


(意外に良心的だな……)


 メニュー画面を呼び出し、筆記サポートアプリケーションを起動する。

 視界に翻訳された語句が表示されるので、後はそれを上からなぞるだけだ。

 いずれこの世界の言葉の読み書き程度はできるようにならないとな、英語に近い言語なので習得は容易そうだ。


「この付近で長期間宿泊できる宿はありますか?」


「この街で仕事を探すんですか!?」


「え、まぁしばらく御厄介になろうかと……」


(嫌に食いつきいいな)


 受付嬢から丁寧に宿の位置を教えて貰うと俺は礼を言いつつ足早にギルドを立ち去る。

 既に日没近く、影の色は濃くなっていた。


(ここか……)


「いらっしゃい、食事なら2階だぜ、それとも部屋を借りたいのかい?」


「とりあえず宿をお借りしたい」


「おう、銅貨30枚な、食事の料金は別だから余り派手に飲み食いするなよ」


 階段の手前には、いかつい男が立っている。

 おそらく2階が食堂になっているのは食い逃げ防止だろう。

 余り客は居ないようだ、テーブルに座るとパンと肉を注文する。

 しばらくすると見た目はチキンのような肉の塊と村でも食べた固いパン。

 そして岩塩を溶かしたスープが運ばれてくる。


(またこのパンか……)


「お嬢ちゃん! こっちにエール追加な!?」


「はーい!!」


(エール? やはりこの世界にも砂糖はあるのか……ということは)


 パンを手で掴み毟ってみる、抵抗力は強いが意外に楽に千切る事が出来た。

 スープに浸さなくてもここままいけそうだ。

 村で食べたパンは砕くのにハンマーが必要だったからな。


(という事は、酵母はあってあれだけ入っていないのか、まぁ重炭酸ソーダは石だしな)


「すみません、こっちにもエール一杯」


「はいはい!」


「こっちもだ!」


(汲み置きの真水を飲むのは危険だからかエールが飛ぶように売れるな)


 パンを岩塩のスープにつけひょいひょいと口に放り込む、うむ、味は良い。

 喉に詰まりそうになるとエールで流し込み、再びパンを放り込む。


(アルコールが弱い分幾らでも飲めてしまう、これは危険だ)


「……さて」


 原料不明の肉の塊を眼前にして周囲を見渡す、皆手掴みで食べているようだ。

 ナイフやフォークなんて出したら盗まれてしまうのだから当然か……。

 しかしこれはかなり抵抗があるぞ。

 肉を手で掴み齧りつくと味を確かめるようにゆっくりと咀嚼する、これも塩味だ。


(これは鳥肉だな……しかし鶏にしては骨が小さい、ウズラか?)


「ラム酒!」


(さっきから皆酒ばかり頼むな)


 パン、エール、肉、エール、パンのローテーションで食事を進めると、あれだけあったエールが空になった。


(まいったな、鶉肉が塩辛い所為でエールが先に尽きたぞ……)


「エールどうします?」


「もう一杯お願いします」


(上手くのせられた気がする……)


 皿の上を平らげる頃には腹の中はジョッキ2杯のエールでタプタプになっていた。

 手洗い桶で手を拭うと借りた部屋のドアを開く、薄汚れたベットが1つと固定された収納棚が1つ……他には何もない。

 ベッドに腰をかけるとぎしぎしと音を立ててたわむ、単に板が貼ってあるだけか。


 俺は一旦立ち上がり部屋のドアに閂をかけると、そのまま寝床に潜り込みゆっくりと眠りについた。



―――――

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