表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神転生外伝~地獄の食いだおれ街道~  作者: 01
第三章 マイカ共和国 休息編
19/83

人生を諦める

―――――



 リマの話を聞く所によると俺が村を出た後、盗賊が消滅した事がすぐに知れ渡ることになった。

 しかし、その場に俺の死体がなかった為に両親の忠告にも拘わらず。

 リマは俺の事を諦めていなかったようだ。


 その後も俺の後を追う為に村の自警団に槍の手解きを受けると、旅立つ為の資金を稼ぐ為に

言い残していた砂糖の知識から唐黍を発見。

 上白糖の精製にも成功。


 甘味製作所として軌道に乗るも両親の反対を押し切って、単身この街へとやってきたとのことだ。


(無駄に行動力ありすぎでしょ)


「あれ? タウさんこれってどういう状況なんです?」


「ルースさん! お陰様でタウ様を見つけることが出来ました!」


 そしてルース、僕は君の事をもう少し思慮深い人間だと思っていたよ。

 実に残念だ。


「……実に残念だよ」


「えぇっ!? よくわからないけど、すいません! リマさんがタウさんのお知り合いだと仰るので、つい!」


「謝らなくてもいいのよ、ルースさん。今回の件はぜーんぶ、タウの責任なんだから!」


「はいはい、パティも突っかからない、ルースさん? リマちゃんの採寸お願いします」


 女でも三人寄らば姦しいとは誰の言った言葉だったか。

 リマの採寸が終わったのち、ウィンドウショッピングという名の戦争が始まる。

 下手に品揃えが豊富な為か、彼女達の向かう先々で火の手が上がる。


「リマ? これ使ってる、海綿」


「いえ、なんだかほわほわしてますね、何に使うんですか?」


「これは色々使い道があってね……あら、ムッツリスケベが聞き耳立ててるわ。詳しい使い方は後で教えるね」


(あれ? もしかしてイジメ?)


 ふん、ルース君と遊ぶから別にいいもんね。

 手持ち無沙汰な俺はルース君と活版印刷についての話で暇を潰す。

 印刷そのものは順調なのだが問題は商品としての需要だ、識字率が低すぎる故に買い手が付かない事が予想される。


「えぇ!? バスタブがあるんですか?」


「そうよ、ルースさんに発注して奮発して買ったのよ」


「今度3人一緒に入りましょう!」


 考えられる方法は挿絵の比率を多くして市井の人々にも判り易く楽しめる形にするか、教書という形で出版するかということだが、後者はいかんせん正確なバスタブを持ち得る書き手に乏しい。


「ふわぁぁ……このハンカチすべすべです」


「リマちゃん、3人お揃いで買おっか?」


「そうだ! お詫びの意味も込めて、タウに奢らせましょ!」


 現存する写本からハンカチを纏めても、あぁっ、思考が定まらん。


「あの……タウさん。集中できないみたいですし今回は諦めましょう」


「そうですね。この件に関してはまた後日という事で」


「ねーねータウ! これ買って!」


「それとルースさん、小切手をお願いします」


 商品の包装を済ませている間、商品を確認する。

 これは絹のハンカチ? 蚕の養殖は上手くいったのか、値段は銀貨1枚!?


 1ゴブリン単位か。


 女の金銭感覚は本当に良く分からん。

 俺達が店を出る頃には夕暮れに差し掛かっていた。

 何とか今日も生き延びた。


 さぁ飯の時間だ。


「……でね、そこのレストランが凄く美味しいの!」


「あっ? それは知ってます! おしゃれなお店だって私の村でも凄い評判で……」


「それもタウに奢らせちゃお!」


(なんだと? 飯の時間にまで邪魔が入ったら堪らんぞ!)


 悪い予感がした俺はこっそりシフトチェンジし早歩きで彼女達を引き離そうとする。

 振り切ったか? ちらりと後方を確認すると往来で横一列に並びきゃいきゃいはしゃぎながらも、俺の後ろをぴったり着いてくる。

 怖いよ! 俺はレストランのドアに飛び込むと即座にエリィさんの元へと歩み寄った。


「いらっしゃいませ、今日もお一人ですか」


「えぇ……」


「エリィちゃん今日は4人だから団体席にお願い!」


「わ! 新しいギルドメンバーの方ですか!? 綺麗な髪ー、触ってもいいですか?」


 なんてこった敵性反応が4人に増えたぞ。

 会話の音声が数オクターブ上昇する。

 俺がさっさと席に着くとなにやら3人で話し込み。

 俺の隣がリマ、対面がパティ、その隣がミュレーと言う形になった。

 席を決めるだけでこれだ。


(今日はさっさと軽食で済ますか)


「ピザとエールを1杯お願いします」


「きのこのオムレツとデザートにケーキも頼んじゃおっか?」


「リマちゃんもそれでいい?」


 女子は何故皆で同じものを食べたがるのか、各々好きな物食えばいいのに。

 まず最初に運ばれてきたのは俺のピザとエールだ。

 うんうん、このスピード感がジャンクフードたる所以だよな。


 具材はパッと見たところはトマトとバジルのシンプルなマルガリータ。

 バジルは乾燥したものを水で戻したものだが、トマトは抑制栽培によってこの時期でもトマトが食べられる。


(自己主張の強いこの香り……)


 一片をさっそく持ち上げてみる。

 チーズはさほど伸びないな。

 まぁそもそも伸びる意味がわからんが。

 口元へと運ぶ、まだ口にも入れていないのにバジルの芳香が薫ってくる。

 ピザが口に飛び込むとトマトの味が口内で広がった。

 荒めに潰してあるのでゴロゴロした果肉の触感も堪らない。


「これおいしいわね!」


「匂いでも楽しませる料理なんですね、勉強になります」


「でも、にんにくが入ってるから……食後が気になるかも」


(……何時の間にか食われてる)


 残り2枚は死守しなくては、ピザを折り曲げ二つ折りにすると食べるペースを上げていく。

 このピザ生地ももっちりとしていて新鮮だ。

 ピザなんてデリバリーぐらいでしか食べなかったしなぁ。

 無論このピザと比較すると味は雲泥の差だが……。


(にんにく噛んだ)


 取り置きのにんにくだから流石に辛いな、俺は慌ててエールを口に含む。

 彼女達の料理も来たようなのでもう安全か? 食べるペースを落とし食事を進める。

 横ではリマがフォークを使ってせっせとスプーンにオムレツを載せている。

 何かデジャブが……


「タウ様、あ……」


「すみませんミュレー、そこの布巾を取ってくれますか?」


「え? はいどうぞ」


 リマはがっかりした様子で俯くと、スプーンを自分の口に運んだ。

 危うく爆弾が誘爆する所だっだな。

 華麗なスルー能力を発揮した所で最後の一枚に齧り付く。

 ちょっと冷えてきてるな。

 1人前としては量が多いし、食べて貰って正解だったかもしれない。


(よし、腹も貯まった事だし、さっさと御代を払って帰るか)


「それでね、ミュレーったらまた寝坊して」


「もう、その話はいいじゃない!」


「私も朝弱いからわかります」


 そういえば俺の左側が窓で右側にリマが座っている。

 これはつまり……出られない……。

 俺は彼女達の横に座り、ただの頷きマシーンと化す。

 早く帰って寝たいです。


「何だあの野郎、3人も女を侍らせやがって」


(俺の与り知らないところで、ヘイトが貯まっていく)


「おいおいよく見ろよ、あいつタウだぜ?」


「……タウなら仕方がないな」


 ちょっと待てどういう意味だ? ご近所様の評判が物凄く気になるんだが。

 パティやミュレーのギルドメンバーとは適切な距離感を保っていた筈だが? 精々パティやミュレーが毎朝起こしに来るくらいで……


 ……って、それだよ。毎日俺と彼女達と宿から出てきてるのを見られてるって事じゃないか、道理でギルドの受付嬢も妙な反応する訳だ。

 これは……早急に対応せねばなるまい。


「ところでリマ? 今日の宿はどうするの?」


「タウ様とご一緒の部屋で……」


「それはダメッ! ダメダメ! こいつはこう見えて、すんごいスケベなんだから!」


(やめて!!)


 先程、俺が聞き耳を立てていた男達の間から、スケベ野郎という単語がぼそぼそと聞こえてくる。

 家屋が全焼するどころか隣まで延焼してるじゃないか、俺の脳裏に諦念という単語が浮かんでは消えた。



―――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ