邪神転生
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それは突然訪れた凶兆だった。
今となってはおぼろげな記憶があるだけで、それが現実だったかもはっきりしない。
ただ確かな事は……俺の意識が目覚め目を開けた時、そこには何も変らない暗闇が広がっていたことだけだった。
(……臭うな)
周囲の状況を把握する為に四肢を動かす、眼球も動いている、自らの吐息も聞こえる。
腕を前方に伸ばすと何かの壁に触れる、触覚もある。
(閉じ込められている?)
埋葬された男が埋められた後に棺桶の中で生き返る映画を思い出し背筋が寒くなる。
(何かないか……何か?)
すると突然眼前にワイヤーフレームで構成されたインターフェースが表示される。
唐突な出来事に唖然とするが、落ち着いた心で表示を観察する。
「英語表記…reboot?…再起動か、メニューはないのか? そもそもどうやって動かすんだ?」
意識を集中して念じると容易にメニューが展開する。
一通り目を通すと外部接続と書かれた箇所にOPEN/OFFと表記されている。
(開放! ON! OPEN/ONか? とにかくここから出せ!!)
次の瞬間、ガコンという音を立て観音開きとなっている眼前の扉が開いていく。
隙間から溢れ出す眩い光に思わず目を細める。
「・・・・・! ・・・・・!」
視界が開け扉が完全に開放されると生臭い臭いが鼻腔に飛び込んでくる。
岩を積み上げた祭壇の上に積み上げられた、首のない死骸の山……意味がわからない。
周囲を見渡すと剥ぎとった皮で作られた覆面を被った連中が、こちらを見て叫び声?
いや……歓喜の声を上げている。
(言語が通じないようだが、翻訳とか出来ないのかな?)
「・・・・・! 邪神よ! 我らに永遠の命を授け給え!」
翻訳は出来るようだが、余計に混乱する事態になった。
誰が邪神だって? 俺か? というか表示されたメニューが視界に被って邪魔だな。
(メニュー非表示……識別、アナライズ…でいいのかな?)
取り囲んでいる連中の頭上に情報がインポーズされる。
ヤパン人 貴族 3160 人種と階級が出るのか、名前や年齢も出ているがどういう理屈なんだ?
何より数字の意味がわからない……ぐるりと周囲を見渡すと軒並み数値は高かった。
まさか戦闘力じゃないよな?
(ひょっとしなくても不味い事態だな……俺には人食い蛮族の知り合いなんて居ないぞ)
距離を取る為に後退りすると、足に何かが触れる。
棺から落ちたのだろうか? 金属質のそれを拾い上げる。
それは銃の様な形でありながら銃身がない奇天烈な機械で引き金とシリンダーだけがついている。
「生贄は捧げました! どうか我々に神の恵みを!」
やかましい連中だ。
俺は相手に警戒されないように緩慢とした動きでそれを拾うと、視界にダットサイトが表示された。
(ま……なるようになるだろう)
けたたましい声を上げる祭司に銃を向けると、男は人皮を剥いで作られた覆面の下で笑顔を浮かべている。
カシンという音と共にシリンダーが空転。背筋に冷や汗が流れる。
「……」
すると祭司は突然糸の切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。
周囲から起こるどよめき俺は次の標的へ素早く銃を向ける。
ダットサイトが赤く染まる。引き金を引く。男達が倒れる。
それは我ながら奇妙な光景だった。
「まるでコントだな」
祭壇内の連中に一通り引き金を引くと全員ピクリとも動かなくなった。
近くにいた祭司の喉に足を押し付け呼吸を確認する。 呼吸も止まっている。
「なるほど死んでるな、便利なもんだ」
銃を懐に差し込むとダットサイトが視界から消える。
その場で一息つくと落ち着いて周囲を見渡すと、視覚の端に震えている物体が目に入り慌てて銃に再度手を延ばす。
「ひぃっ!? ひっ! ひっ!」
(アナライズ)
表示されたステータスは リマ 14歳 ベラハー人 村民 0
数字は驚異度か何かか? 他の子供も一番下が8歳かそこらの子供ばかりのようだ。
祭壇に積まれた死体の山を横目で見遣る。
(余り物か、捧げる前に俺が出て来たからかな?)
「あ……あの、貴方は神様ですか?」
子供達の中から年長者と見られる少女が震えながらこちらに話しかけている。
相当怯えてるようだ。 この場合どう返すべきか? 今一番重要なのは情報だ。
「いや、違うな」
「で、では……私達は?」
「心配しなくてもいい、君の名前はリマだろ?」
「えっ!? 御存知なんですか」
子供達の緊張が次第に解ける。俺は祭壇から降りると出口に向かって歩き出し彼らを先導した。
「あぁ……ここいらで怪しげな連中が人攫いをしていると聞いてね。仲間と一緒に調べに来たんだが、仲間は全員奴らにやられてしまった……俺は気絶させられて、あの石棺に生贄として閉じ込められていたんだ」
(いけるか?)
「そうだったんですか……助けてくださって有り難う御座いました」
存外上手くいったな。あとはいるであろう見張りを何とかするだけだが。
(アナライズ)
範囲を拡大して周辺を索敵すると、数値が500程度の盗賊が3人居るだけの様だ。
(盗賊って職業になるのか?)
俺は銃を手に取ると、何もない空中に向かって引き金を三度引く。
子供達は頭上に?マークを浮かべたような顔で怪訝そうにしている。
人前でこれをやるのはかなり恥ずかしいな。
(確認したが一応聞いておくか)
「他に捕まっていた人達は居ないのかな?」
「はい、あの……大人の人達は全員……」
(……まさかとは思うが)
俺は頭に浮かんだ疑念を振り払うように先を急ぐ。
日の当たる場所を目指して岩肌を刳り貫いた洞窟を抜け、目の前に広がる光景に茫然自失で立ち尽くす。
崖の上から目に飛び込んできた世界は豊かな森の緑。大森林だった。
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