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第50話 ヒーローじゃない俺

「プハッ!」


 な? なんで俺がここにいるんだ? なんで博士の研究室のプールに?


 博士は俺を起こしてくれていた。


「な、なんで?」


 なんで自分で再生するのにこのプールに入れられてたんだ?


「樹君いったいなにがあったんだい? 君の不死身になった体が元に戻っているから、傷を治すのにどれだけの時間がかかったか。君は樹君なんだよね?」

「ああ。俺は樹だよ。博士に連れて来られた、不死身の体にされた樹だ……不死身じゃなくなってるのか?」

「そうだよ。君が消えてからずいぶん時間がかかったが戻ってきたんだ。だが、気を失っていた。てっきり奴らの仲間にされて戻ってきたのかと思ったら、君は傷だらけだったし、体は人間ふじみじゃないだった。そして、傷口は再生しなかったんだ。とりあえずこのプールに連れて来たんだが、深い傷を負ったみたいで時間がかかったんだけど……その間に異変は何一つ起こっていない。何があったんだい?」

「ボス……死体を兵隊へと変えた奴を倒したよ。兵隊となった人たちも場所も機械もなにもかも、全て倒して、壊して来たよ。詳しい話は後でいいか? シャワーを……」

「ああ。そうだね。ゆっくりシャワー……? 樹君?」

「俺は翔子を連れて来なかったか? この手に抱いていたのに!」


 翔子の話は出なかった。目は閉じさせていたのでわからないけれど、腕は俺の血がついた右手も左手も銀色に変化したあとだった。そのまま放置しているとは思えない。


「樹君、この装置は一人だけの移動用にワザと作っているんだ。じゃないと何に利用されるかわからないからね。向こうで翔子君に会ったんだね」

「あ、ああ。……あああああ! なんでなんだ!」


 せっかく一緒に帰れると思ったのに翔子を置いて来てしまった。


「樹君! 樹! 」


 俺の絶望の声を押さえつけるように博士が声をあげる。今までに聞いたことがないほどに声を荒げている。


「樹君! 一度行った場所はちゃんとこれに記憶させているから。新しく作り変えた時に前の襲撃を考えて新しい機能をつけたんだ」

「……じゃあ、戻れるのか? 翔子は戻ってこれるのか?」

「ああ、僕がちゃんとこちらに移すよ。死体となった人たちもできる限り家族の元に帰れるようにするから」

「……ああ、うん。そう……そうだな」


 その前に……博士があちらに行く前にすべてを話しておかなければいけないんだ。気が重い仕事がまだ残っていた。


「ほら、じゃあ。シャワーを浴びてご飯も用意しておくから!」


 博士の優しさが今は痛い。これから話すことを博士はどう受け止めるんだろうか。


 ……そして、俺は向こう《うまれた》の世界に帰れるんだろうか。




 久しぶりにシャワーを浴びた。あのプールの液体を流す。傷はうっすらと見える程度にあった。再生していた時とは大違いだった。どれくらいあの場所にいて、戻ってきてプールにいたんだろうか。時間の感覚が全くない。ただひどく空腹なことには気づいた。博士のご飯という言葉を聞いて急に空腹に襲われた。

 シャワーを浴びて出てみるとそこには、前に注文していた俺の服が用意されていた。なんだかずっと前な気がする。

 着替えてシャワー室を出てみると博士はいなかった。きっとリビングだろう。俺のことや食事の用意をすることをヒナタ達に伝えたんだろう。

 俺が戻ってきて博士も慌てたみたいだ、他の二人は……特にヒナタにはひどいことをしてしまった。まさか不死身じゃなくなっているなんて思いもしなかった。だから、相当無茶なことをしてしまったんだ。あそこで死んでも仕方ないとさえ思っていたんだから。


 博士の研究室を出る。そこには血だまりがあった。点々とこちらに向かっている。出血も続いていたんだ。それさえも気づいていなかった。


 ドアを開けてまっすぐに進む。三人がいるリビング目指して。

 久しぶりにスーツではない普通の服を着ている感覚はなんだか変な感じだった。メガネももちろんない。メガネはさっき博士と話をしている間には博士の手の中にあった。

 ヒーローじゃない俺にようやく戻れたってことなんだよな……。


 リビングにも明かりはもちろんついている。いい匂いが廊下にも漏れてきている。その匂いは俺の空腹をさらに刺激する。俺はリビングのドアを開ける。


 ガチャ

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