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Next 鹿

作者: 積銀

 先日、電車に乗り込んだところで中学生の一団に出くわした。

 私の立つ場所からさほど離れていない所で楽しそうに笑い合っている。元来、中学生高校生の少年達の会話を盗み聴くのが好きな私は、悪趣味だとわかりつつもヘッドホン越しに彼らの話に耳を傾けた。イントネーションの違いと、そのどこか初々しく慣れない様子から、彼らが修学旅行生だと容易に推測できた。

 どうやら彼らは、奈良を見物して京都へ戻る途中らしい。その証拠に二、三人の少年が鹿の角のカチューシャをしていた。まだ幼い顔をしているせいか、妙に似合っていて可笑しかった。

「俺ん中で、お前は十四番くらいだなぁ」

 リーダーと思しき少年がそう言うと、もう一人が笑いながら、

「リアルな順位だぁ。嬉しいんだか悲しいんだかわかんねぇし」

と返した。どうやら友人の価値に順位をつけて遊んでいるらしかった。以前読んだギャグ漫画にそんなような会話があった事を思い出して、思わず吹き出しそうになるのをこらえながら、私はますます耳を澄ませた。

「俺は、俺は?」

 違う少年がそう尋ねると、先程のリーダー的な少年がさらりと、

「お前は鹿の次」

「あははは、鹿!」

「鹿の次!」

「Next 鹿!」

 周りの少年達は大爆笑だが、言われた本人は不服そうに、

「ひでーし!」と喚いた。常にいじられる性格の子なのだろうなと思うと、何とも言えない親近感とほんの少しの同情が湧き上がってきたのであった。

「Next 鹿!」

「Next 鹿!」

 周りの少年達は非常に楽しそうに、口々にそう言ってはしゃいでいる。きっと奈良公園で鹿の群に鹿煎餅をあげてきたところだったのだろう。私もかつて、奈良公園で鹿煎餅を持っていたために鹿の軍団に取り囲まれ、あの角で散々追突された記憶を呼び覚ましていた。鹿の次と言われた少年は恥ずかしそうにニタニタ笑っていた。

 少年達の会話を聞きながら、私は遠い中学時代に思いを馳せた。私も中学生の頃は覚えたての英語を使う事に酷く夢中になっていて、よく日本語の動詞にingをつけて遊んだり、形容詞に無理やりerを付けて比較級を作り出していた事が記憶の底からふと思い起こされたのである。くだらない会話だなぁと思って内心大笑いをしながらも、私にもあんな初々しい時代があった事が鮮やかに蘇っては、純粋に笑い合っていた少年時代の思い出が懐かしく思えるのだった。それは、古い日記を見つけた時の妙に気恥ずかしい、しかし酷く嬉しいあの感覚に似ている。少年達の姿に私の知る人らの面影を重ねて、私は何だかとても故郷が愛おしく思えた。

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