上下関係について問う
元ホームレスとヘタレな死神のしょうもない話です。
一応ラブラブ?かな。
性別はお好きなように。
ちょっと怖いのでR-15にしときます。
⇒
指先に触れる君の体は小さくて
僕の手の中に簡単に溶け込むほど柔らかくて
嫌がる君の素振りすらいとおしくて
僕は、口内に溜まる涎を溢さないように飲み込むのを十回くらい分単位で繰り返していた。
君を手に入れたのは僕が名前を無くして数年経った頃。
路上に項垂れるように座り込み
死と生の狭間を往き来しているような
死にどっぷりと飲み込まれているような感覚に支配されていた。
食べ物を漁ることすら億劫で
生きることすらもう面倒で
僕はこのまま隣に横たわる動かない仲間みたいに
死にたい死にたい死にたい死にたい
と脳内を同じ単語で埋め尽くす時間潰しをしていた。
しかし、舌を噛み千切ることも首を吊ることもナイフで心臓を貫くことも
死を自分で迎えることができなくて
弱虫な屑の人間だなあと実感しては溜め息を吐いて
名前を無くして数年経ったのにこうしてのうのうと生きている僕はきっと
簡単には死ねないのだろう。
と思ってたらホームレス狩りに遭い、僕は呆気なく殺されてしまった。
人生とは読めないものだな。
それから意識は消えて、気づいたらこの場所に囚われていた。
いや、捕らえていたと言えば良いのだろうか?
未だに僕にもどちらが捕まっていて、どちらが捕まえているのかわからない。
僕の手には初めから鎖が手首に貫通していて
その先は腕に絡まるように縛られていて
この鎖によって拘束されているらしい。
彼が言うからあまり実感は無いけど。
だって、ねえ。
「こら、余所見するな!アホ!」
「お腹空いたんだよ。食べて良い?」
「喰うな!お前は俺が肥らせて食べんだよ!アホ!」
「僕は君を先に食べたいな」
僕を縛る鎖の先は彼の首輪。
猛犬のリードを想像してもらえば間違いは無いだろう。
危険性はチワワ並だけど。
だって、ねえ。
食べると言っても痛くないし。
『肥らせて食べんだよ』
って言葉を何百万回聞いたっけ?
そろそろ飽きたな。
「ムムム…お前段々生意気になってきたな!アホ!」
「君には負けるよ」
「どういう意味だ!?アホアホ!!」
手の中で蠢くスライムのようなゼリー…ん?反対か。
ゼリーのようなスライムは怒ってるのか腹の上で美味しそうにプルプル震えた。
美味しそう。
もっとお腹空いた。
手の中にある彼の一部を引き千切って食べたいな。
……可哀想だからしないけど。
早くご飯の時間にならないかな。
「また別のこと考えてるだろ!アホ!」
「お腹の虫が切なく鳴いてるよ」
彼はずっと僕を見ているらしい。
また一層プルプルプルプルして涎が垂れちゃいそう。
見ているらしい、というのは視線を感じるから。
穴のような部分が多分人間だったら目の役割してるらしい。
この前この穴に指を突っ込んでも穴が別の場所に移動したから
人間のように固定性ではないっぽい。
ちょっと便利そう。
人間の目がもし動いたら気持ち悪いけど。
お腹の上でご立腹の彼がピョンピョン跳ねて怒りを露にするけど僕は相手をするのも飽きてしまい
カサついた手で撫でてみるけど不満は晴れないようだ。
面倒くさい。
「この俺の恐ろしさがわからないとは…何時か目にものを言わせてやる!アホ!」
「はいはい、頑張ってね」
「死神嘗めるなよ!アホアホ!!!」
「舐めて良いの?」
「俺のことじゃない!舌を出すな!起き上がるな!持ち上げるな!
イギャアーーー!!アホアホアホ!!!」
腹筋で上半身を起こすと危機を察知した自称死神は慌てて逃げ出そうと飛び跳ねる。
でも、残念。
人間の方がリーチが長い。
堪えていた唾液が
食欲が
目の前の食べ物が
本当は強いのにこんな姿を保つ愚かさすら全て食べて
僕の体の一部にしてしまいたい。
…でも、
「冗談だよ」
「うー…アホ…アホめ…」
君をこうして抱き締めてあげられなくなることは
空腹を満たすよりも惜しいことだと思ってしまった僕は
きっと彼のことを気に入っているのだろう。
愚かしい彼のことを。
「ね、泣き止んで?大好き」
「…アホ」
「うん。頭悪いから許して?」
「……アホなら仕方ない」
彼の口らしき部分に自分の唇をそっと重ねて自分の舌を彼に差し出す。
目を閉じて暫くすると掌に触れる湿り気のある柔らかい感触は消え
代わりに触れるのは現実味の無い硬い体。
引き寄せるように鎖を引っ張られ、オズオズと塞がれる唇のぎこちなさに吹き出すのをグッと堪える。
もう何万回体を重ねたの?
と問いたい。
いい加減慣れてほしい。
こっちまで恥ずかしくなる。
だから、僕は誤魔化す。
「終わったらご飯ちょうだい」
「…雰囲気台無しだ、アホ」
目を開けずに小首を傾げ口元を緩ませる。
初対面の時に彼の姿を見て失神した僕がトラウマになってる彼の為に
そして彼がこれ以上緊張しないように
僕はこの行為の最中は目を開けたことはない。
たまに薄目を開けることはあるけど見栄っ張りの彼には内緒だ。
そのことを言えばきっと檻の隅で暫くいじけるだろうから。
慰めるの面倒だし。
「ごめんね?でも、家畜の食費がかかるのは仕方ないことでしょ?」
「……萎えることを言うな、アホアホ」
「馬鹿だもん」
「もう黙ってろ、アホ」
「うん」
長い爪が目隠しの紐を巻いて
ベッドに投げ捨てるように押し倒す。
しかし、人より長い牙が爪が舌が
大きな体が手足が
傍らに置かれた鎌が僕を痛めることはない。
恥ずかしさを誤魔化すように呟かれた彼の口癖に笑みを浮かべるが
照れ屋な彼の早急な手に体をまさぐられ余裕が消えていく。
「ご飯ご飯」
「可愛くない奴、アホ」
「可愛いのを選ばなかった君が悪い」
「汚い魂に惹かれたんだよ、アホ」
「まだ汚い?」
「ああ、日々俺好みに汚れていく。早くぷくぷくと肥えて太れ、アホ」
「食べれないくせに」
「!?…な、アホ!俺は死神だそ!お前なんかペロンと飲み込んでやるわ!アホアホアホ!!!」
「はいはい」
カッコつけたがりの彼が真っ赤な顔になっているのが瞼の裏に浮かんだが
これ以上からかったら拗ねてしまいかねないので
伸ばした両腕に彼の頭を抱き寄せ、フサフサな髪に顔を埋めた。
全く、どちらが上かわからない。
弱者が強者を振り回すのとか、強者が弱者の為に惨めな姿になってるとか好きなのを詰め込みました。
一人称は僕と俺ですが、性別はお好きなように。
女性のホームレスの話とか見かけたことがないので、読みたいなぁとか言ってみたり(ボソッ
生前はご飯をあまり食べれなかったので食いしん坊になったとか可愛いと思うんですが。オチは僕に美味しくいただかれてしまいました。残念残念。
【オマケ】
※優位
彼は何だかんだ器用な部類の死神だ。
料理も裁縫もゲームも掃除も洗濯も片付けも難なくこなす。
もしかしたら生前は主夫だったのかもしれない
と思ってしまうほど。
囚われているこの檻の中は外から見れば窮屈だと思われるかもしれないが
便利な家政夫さんがいるので快適以上でぐうたらしてられる。
正にヒモの気分。
今日も彼はスライム姿でせっせと(何処に手があるのかわからないけれど)箒で部屋を掃除している。
ベッドから眺めるその光景はスライムの前で箒が勝手に動いてるようにしか見えないけれど。
まあ、死後の世界だしいっか。
と二度寝をしようと布団に潜り込む。
が、
ジャラ…
「こら!起きたなら布団畳め!アホ!」
手に巻き付く鎖が揺れ彼に振動を与えてしまったらしい。
畜生。
ピョンピョンと飛び跳ねて布団の上で睡眠妨害し始めたスライムにストロー刺して吸ってやろうかな。
メロンソーダっぽい色してるしイケそう。
「起きろー!起きやがれアホ!」
「もう、はいはい。起きれば良いんでしょ。ふあぁ…」
「ちゃっちゃと畳め!顔を洗って俺の相手をしろ!アホ!」
その代わりコミュニケーションは苦手らしいけど。
基本的に自分勝手だし我が儘ばっか。
すぐ拗ねていじけるし
すぐ怒るし
食べようとしたらすぐ逃げるし
無視したらすぐ飛び跳ねるし
構ってちゃんか。
面倒くさい。
渋々布団を畳んで顔を洗いに泉まで連行されテーブルに置かれた朝食をもそもそ食べる。
その間は彼は鎖が伸びる範囲で家事をこなしたまに僕を叱ってまた洗濯しに泉に向かう。
働き者なこって。
死ぬ前に働くことを止めた僕にはわからないな。
「お前は好き嫌いしないから食器を洗うだけで済むな、アホ」
「見た目グロテスクだけど美味しいから」
食べ終わった食器を洗う彼の背中を頬杖をついて眺めながら
誉めてるのか貶してるのかハッキリしてほしいな
とちょっとツッコミ入れてみる。
自称死神の彼は頭が良いらしいけど未だにその頭脳に感服した経験が
出会ってから今までのこの時まで一度たりともない。
本当に賢いのかさえ最近は疑わしい。
大卒で恋人だった相手に騙されて借金背負わされてホームレスになった僕とどっちか愚かなのか。
今度機会があれば試してみたい。
「ねえ」
「なんだ?アホ」
振り返るスライムの顔は僕より阿呆っぽいなあ
なんて思いながらシャイな彼に無理難題を突き付けてみる。
ただの退屈しのぎだ。
「アホの代わりに好きって言ってよ」
「………」
「あ、倒れた」
ボンッと沸かしてないのに湯気が上り
熱々になったスライムは泉にボチャンと倒れ落ちてしまった。
ブクブクと泡を吹きながら沈むスライムを覗き込みながら
僕はほんのちょっとだけ
「照れなくても良いのに」
幸せな気持ちになれるのだった。
まだまだ僕の方が優位かな。
ありがとうございました!