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5 とりあえず問題は先送り。日本人の悪いクセ。



 今回わりとあっさりめですが、末期がんと、死についての描写があります。苦手な方はスルーしてください。


 うん、とりあえず息と心を整えて。頭にのぼりそうな血を鎮めよう。



 ねこねこねこねこ猫の皮、きっちり着込んで猫の皮。呪文か。




 ゆっくりと辺りを見回すと、獅子顔以外の面々に注視されていた。侍従や騎士の皆様まで、固唾を飲んでいる。


「あの、それって、すぐに決めなくてはならないのですか?」

「は?」

 王妃が口をぽかんと開けた。わたしの発言は想定外だったらしい。美人の間抜け面に、ちょっとだけ溜飲が下がる。


「この国にとって、わたしの存在が大事な問題なのは、よく分かりました。だからこそ、簡単には我が身の行く末を決めることなぞ出来ません」

「ふむ」

 国王が頷いた。これは好感触。


「わたくしがどなたと添うことが、神のご意志なのか、よく考えて見定めたいと思うのです」

「それはもっとも」

「そのためには、まずこのシャトルリューズの事を知りたいのです。今しばらく、見守ってはいただけないでしょうか」

「サクラ殿の思いは、わかった。明日の御前会議で臣下にも伝えよう。そして我が息子たちを、とくと見定めるがいい」

 リオネル、エドモンド、フィリップもよいな、と、陛下はいちいち王子たちの名を呼び、頷かせる。

 きっと周囲に聞かせているのだ、わたしの夫候補を。


 なんとか、決断を引き延ばすことが出来ました。所謂『先送り』ってヤツ。


…………あれ?でもこれって。



 三択で旦那決めて、王妃になること確定じゃないか。

 しまったー!肉を切って骨絶たれた!



 がっくり項垂れている間に晩餐は終わりました。

 明日は民への御披露目にバルコニーお出ましと、貴族の皆様が一堂に会する、舞踏会の参加が決まっているそうです。うげげ。



 別れ際、エドモンド殿下とフィリップ殿下からは、ご丁寧な挨拶と麗しい微笑み、手の甲へのキスを頂きました。なんかキラキラしくて映画のワンシーンみたい。どうも実感が湧きません。そしてリオネル殿下は、さっくり無視です。ただ品良く晩餐を召し上がり、無言で帰られました。 今回の件、自分は無関係だと言わんばかりのその態度。清々しいほどです。



 それにしても。

 異世界トリップ&王妃になること確定&軽く逆ハー。王道ですね。


 惜しいのはハーレム構成員が、誰一人として恋愛感情を欠片も持ち合わせていないこと。


 無理もない、突然現れた珍獣に一目惚れするだなんて、わたしだってあり得ないもの。


 しかもわたし、友人がネタにするほど恋愛偏差値が低い。


 唯一、大学で告白してきた猛者がいて、ここらでひとつ男女交際なるものを経験してみようかと、付き合い始めてすぐ、おばば様が倒れて病院と大学の往復でいっぱいいっぱいな間に、別の子に乗り換えられてゲームオーバー。

 軽い男性不信になったなあの時は。


 それ以前は、自分が女子だと意識もしていなかった。大和撫子志向の強い祖母への軽い反発で、共学の都立高校。男女問わず仲良しのクラスでは、三年間通して、がらっぱちの咲良ちゃん。

「頼むからしゃべるな。夢も希望もなくなるから」と、よく男子に言われました。

 門限が早くても、お嬢様コースな私生活でも、ネットサーフィンでお下劣ネタには事欠きません。どんな話にも食いつく高橋咲良、見た目はお嬢、中身はオヤジです。


 そんなわたしが王妃とは、高校の同級生たちが笑い死にしそう。


 まあいいか。どうせ妄想だもの。軽く考えとけ。


 おそらく今回の妄想のベースに なったであろう、ネット小説に嵌まったのは、おばば様の入院がきっかけだ。意識不明の祖母のベッドサイドにぼんやり佇むわたしに、同室のミナちゃんが教えてくれた。 抗がん剤で禿げちゃったと、ニット帽を被って笑いながら「現実から一番遠い話」とささやく。


 確かに、足元が崩れそうな気持ちから、ほんの一時救われた。ミナちゃんは、この世界との別れが近いから、次はどこに行こうかと考えながら読むんだと笑ってた。


 おばば様が亡くなったあと、やり取りしていたメールがある日途切れた。しばらくして、命日と、お世話になりましたとの言葉が、一斉メールで送られてきて、ミナちゃんとは、それきり。



 ねえ、ミナちゃん、その現実から一番遠いところに、今わたしは居るよ。へんなの。

 ミナちゃんは今どんな世界?姫になるより、薬師や魔女が良いって言ってたよね。



 本当のわたし、今どこにいるか、ミナちゃんなら知ってる?


 起きたら、おばば様やミナちゃんみたいに、白いベッドの中なのかな?それともまだ、この、なんちゃってベルサイユなお城の中?

 どちらでもいいや、僕もう疲れた。なんだかとっても眠いんだ。





 昨日と同じ、限り無く闇に近い寝室で、電源オフのライトと携帯を握りしめ、わたしは眠りについた。



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