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4 夢の中でも、人間関係は複雑に縺れてる。

「陛下、突然そのようなことを言われても。サクラ様がお困りになっているではありませんか」

 冷えた美貌の王妃が、口に弧を描き目を細める。でも笑ってないんだな目が。

 日舞発表会の演目とキャスト決める前に、ライバル(相手が勝手に思ってる)が近寄ってきて褒め殺しまくるとき、こんな表情だった。油断禁物。



「ねぇサクラ様。お国ではどのように過ごしていらしたの?」

「わたくしは学生で、他国の言葉を学んでおりました」

「まあ、では学者のお家に?おなごの身で学問など」

「いえ、わたくしの国では、男女問わず学び働くのが当たり前です。ここに来る直前は、留学の道行きだったのです」

「まああ」



 値踏みされてるなあと、ひしひし感じる。丁寧な中に潜む、侮蔑の眼差しも。

 神事に参加していた王妃は、あのとき遠目にわたしを観察していたのだろう。

 この国で最上級のドレスを着る身には、わたしの格好は、さぞ珍妙に映ったことだろう。動きやすさと着心地優先の、ファストファッション。

 今着ている、急ごしらえのドレスだって、お世辞にも似合っているとは思えない。過剰な装飾が似合う顔には生まれなかった。

 癖もつかない真っ直ぐな黒髪。奥二重に縁取られた黒い瞳に、極端に低くは無いが、主張もしない小さな鼻。色白ではあるが、こちらの人種と明らかに違う黄色味がかった肌。

 凹凸はあるが、手足が長くボンキュッボンな王妃や姫からみたら、体型だってさぞみっともなく見えるだろうな。


 ああいかん、マイナス思考のスパイラルに嵌まりそうだ。留学を決めたとき、人種差別はある程度覚悟していたが、日本人はおろか、チャイニーズもコリアンもいない黄色人種完全アウェイなこの場所で、劣等感に潰されそう。

 がんばれわたし。



「お国に許嫁は、いらしたの?」

「いいえ。わたしの国では、家や身分によらず、結婚はまず本人同士の意志が最優先です。法でもそのように決められています」

 よし言った!勝手に相手決められてたまるもんか。

「ならばなおさら、このような異形の王子との婚姻など、死にたくなるほど嫌なのでしょう?」

 え?と目を見張った。王妃は視線を隣に流し、獅子顔の王子を見つめる。口を歪めて。



 リオネル殿下は無反応だ。おそらくこのような誹謗中傷は慣れっこなのだろう。たった一人、長い間こんな嘲りを受け続けてきたはずだ。





 午前中の宰相親子からの話、メインは、わたしが召喚された神事について、そしてこの王子の獅子顔について。

 国の平安と発展を祈願する神事は、十年に一度しか行えないもの。神官の選定に始まり、気が遠くなるほど長く厳しい修行、遥か遠くの聖地への巡礼、神事専用の白き広間に細密な陣を描き、万を持して開かれる。 今回のように、神が何かを遣わす例は滅多にない。 記録に残るのは、百数十年前に、ある国に持たらされた剣。それは聖剣と呼ばれ、手にした国王が向かうところ敵無しとなった結果、大陸一の大国に上り詰めた。それが今、北の山脈に国境を接するダガイル国だ。


 その栄光に触発されて、各国がこの儀式に熱心となったが、しばらくはどの国にも何も起こらなかった。



 十年前にシャトルリューズが行った神事での出来事は、解釈が分かれたままだ。

 神事の最中、立太子間近のリオネル殿下が、突然顔を覆って苦しみだし、陣の中央に倒れ込んだ。光に包まれる姿を遠巻きにしていた人々が、我にかえったときには、誰もが讃える若く美しい王子の首が、獣のそれに置き換わっていたそうだ。


 神が起こした奇跡と言い張る神殿関係者。神事を妨害して呪われたと囁く王妃とその取り巻き。静観しつつ、婚約者候補を引き揚げる高位貴族たち。


 そのうち前王妃クラリスの生国、アトリファスが

ダガイルに攻め込まれ、あっという間に滅ぼされた。 シャトルリューズも、応戦したが、アトリファス奪還には至らず、国境近くまで敵軍が押し寄せる。さらには王弟である元帥の討ち死に。 そんな危機的状況を打開したのは、初陣だったリオネル殿下。策を巡らし奇襲を掛け、大軍を山脈の向こうまで押し返した。そのまま軍のトップに立ち、現在に至る、と。




 立ち位置は確保したものの、獣の顔をした王子に我が娘を嫁がせようとする王家も貴族もいなかった。いや僅かに、家のためと言い含め、婚約直前まで進んだこともあったが、当の令嬢が本人の前で泣き出す始末。

 妃も召とれぬ王子は、次期国王に相応しくないと言われて、立太子は延び延び。下の王子が適齢期になり、リオネル殿下の処遇がまた、国を分けるほどの問題になっている、らしい。



 そんな前振りがあったので、王妃の意図は見え見えだ。神が遣わす娘が、自分の産んだエドモンドを選べば万々歳ってところなのだろう。 案の定、王妃は満面の笑みで国王に話しかける。


「サクラ様に、選択肢を差し上げなくてはいけませんわ陛下。もちろん、そのおつもりなのでしょう?幸い我が国には、まだ王子もいることですし」

 そして王妃の眼差しは、わたしの隣に座るエドモンド王子に注がれた。分かりやすい、分かり易すぎる。

「ああ、まあ、そうだな。どうかな?サクラ殿」

 国王陛下が慌てて、サクラに同意を求めた。立場上誰か一人をプッシュ出来ないのはわかる。パワーゲームの真ん中に立つ国王が、選択を誤ると国が荒れる。


 しかしこれ、返答によっては即行誰かの嫁確定ってことで。


 どうするわたし?

 お気に入り登録や評価、感想ありがとうございます。めちゃくちゃ励みになります。


 設定の説明的な章が続いていて、解りやすく書くにはどうするのか四苦八苦です。早く終えて登場人物動かしたい。

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