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3 妄想力はやはり、今までのインプットが土台となるのだな。

 一日何度もドレスを着替えさせられるのは勘弁したいところだ。しかも晩餐前に湯浴みまで、もれなくセットで。

 浴室はあるが、水道は無くて、人力でお湯が運ばれてくる。たっぷり湯船に張られたお湯に、罪悪感を感じつつ入る。

 魔法とか、なんか動力使った給湯システム妄想しとこうよ自分。

 トイレについても詰めが甘すぎた。ウォシュレットまでは行かなくても、水洗であって欲しかった。紙が貴重らしく、柔らかい葉っぱが置かれている。これ専用に栽培されてるのかな、拭き心地は悪くない。

…………慣れるしかないか。生理のお手当て訊いておかないと。あの女官長に。



 晩餐は王家勢揃い。長いテーブルに男女交互に。上座には国王夫妻。

 ちなみに国王アルフォンス・カエサル・イル・シャトルリューズ陛下は焦げ茶色の瞳と髪と髭を持つ、威厳溢れる美丈夫だ。王妃イザベラ・シャンテ・ベルガイト・シャトルリューズはプラチナブロンドで水色の瞳。高貴な美貌のお方。元は隣国ベルガイトの第一王女さまだとか。

 そのすぐ次席がわたしって、どんだけ?身に受ける期待が怖すぎる。



 向かいの席には獅子顔さん、第一王子リオネル・ユリウス・フォン・シャトルリューズ、二十六歳。

 獅子なのは、本当に首から上だけ。手はちゃんと人間のもの。グラスやカトラリー、ナプキンを扱う仕草は、育ちの高貴さが伺える。物を食む仕草も、上品だ。

決して噛みちぎったりしない。伏し目がちに淡々とした佇まいで、こちらは丸無視。



 下座、わたしの隣には王子たちと王女第二王子エドモント以下略(午前中、宰相親子に訊いてメモったが、さすがに覚えきれなかった)

王妃ゆずりの目と髪と顔立ちで、硬質な美しさの十八歳だ。

 その向かい、獅子顔の隣は唯一の王女キャロリーヌ以下略さま十六歳。真っ白な肌に明るい金髪くるっくる、緑の瞳は好奇心でキラキラしている。そのままハリウッドでディズニープリンセス実写版ヒロイン出来ます。吸い寄せられるような美しさ。

 さらにその隣に、相似形の王子さま。王女よりやや垂れ目で、ザ・優男の第三王子フィリップ以下略二十二歳。 第二王子より年長なのは、側室腹のため。そして、リオネルとエドモントの母も違う。リオネルの母、先の王妃クラリスさまは病弱で、世継ぎを成してすぐ床につき、三年後に儚くなった。生国はその後、他国に滅ぼされている。

 侍女だったフローラさまを側室に推薦したのは、他でもないクラリスさまだったそうだ。大奥みたい。だが逝去後、子供を生んだものの、妃とするには身分が低く、隣国との同盟を機にイザベラさまがやって来た。そして王妃に王子が、側室に王女が産まれ、三年前に側室が病死。これには諸説飛び交ったようだが真相は不明。うん、愛憎絡まるドラマっぽい話だ。


 派閥だの内紛だのという話は宰相たちから聞かせてもらえなかったが、王子たちの間に流れる空気から、仲が良い兄弟でないことは解る。まあ、全員母が違うのだから、無理もない。




 晩餐中、機嫌良く話しかけてくるのは国王、わたしが返す答えを、周りが黙って聞くという、

居心地の悪い展開だ。


「サクラは神のもとから来たのだな」

「わたしにも、わからないのです。突然連れて来られたわけですし」

 異世界から来たなんて、突拍子も無い発言は控えるべきだろう。個人情報は迂闊に出さない。現代日本人の常識だね。

「それまでは、どこにいたのだ。昨日着ていた服も持ち物も、見たことが無い」「先ほど宰相殿に見せていただいた地図には、わたしの国はありませんでした」「うむ」

「わたしから質問しても?」

「許す」

「何者かわからないわたしを保護して頂けることには感謝致します。ただ今後どのようになさるのかと」

 子供の頃から被りまくった猫の皮、二重三重にかさねて、国王に尋ねた。

 「サクラは国の安定と繁栄を願う神事の最中に現れたのだから、神がこの国のために遣わした娘だ。神の御心は定かではなく、推し量るしか無いのがもどかしいのだが」

 ここで国王陛下はにっこりと笑った。嫌な予感しかなく、返す笑顔が思いきり強ばる。

「サクラには王妃になっていただきたい」

 あんたの嫁か!ムリムリやだやだ四番目の嫁なんて。三番目もまだ健在なのに!

「それはちょっと……。こんなにご立派な王妃さまがいらっしゃいますのに」

 国王は一瞬目を丸くして、愉快そうに笑った。

「それも悪くはないがな。出来れば次の国王に嫁いでもらいたい」

「へ?」

 思わず正面の獅子顔を真っ直ぐ見つめた。リオネル王子は無反応だ。伏し目がちにナイフとフォークを使い続けている。嫌か、嫌なのかわたしが嫁というのが。


 しかしなあ。異世界に来て神の御遣いやら次期王妃やら。あの頃読み耽ったネット小説の世界じゃん。自分の妄想力もたいしたものだ。意識が戻ったら書いて投稿してみようかな。


 なんてことを裏で考えつつ、表はただもうビックリ、反応も出来ませんわ、な、わたしの、膠着状態を解いたのは。

 今まで微笑みを浮かべて国王の言葉にただ頷いていた王妃さまだった。

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