23 悪役って話には必要不可欠だよね
ちょっと短め。
猿ぐつわってかなり辛い。ヨダレは飲み込めないし顎は疲れるし。
後ろ手に縛られるのもなあ。動かせないと関節って痛くなるんだな。足まで縛られてるから全身ギシギシいってるわ。
そんなわたしは只今絶賛拉致られ中。デカイ木箱に放り込まれて移動しております。ガタガタゴトゴト、たまにガッツリ大きく揺れるのは、道が悪い証拠。土とか、良いとこ砂利道か。アスファルトって偉大だったのね。
レンガ敷きでも無さげだから、王都からは出たのかな。
あああーっせっかく王子兄弟の仲が良くなって、居心地改善されるかなと思ったのにー。
なんて言ってる場合じゃないし。命の危機ってやつだ。
誰だろうわたしを拐って得するひと。
王子の誰か、はないない。貴族の不満分子……いや、わたしが消えたら国内かなり荒れるだろ。なんせ神の遣いだから、祟りを恐れちゃうでしょ。
…………やっぱ他国かー。やだな、予想外れてくれないかな。
ぐへっ!痛いなあもう。木箱に身体を打ち付けられると、息も出来ない。どっかに着く前にぼろぼろだよきっと。
…………殺されるなら、なるべくあっさりお願いしたい。痛いのも苦しいのもイヤ。
なんて考えてるうちに寝ていたようです、わたし。かなり図太いぜ、自慢できるなコレは。
「起きてください、サクラ様」
肩を揺すられて、目が覚めた。
「ああ、申しわけありません。すぐに外します」
手と足の縄が解かれ、猿ぐつわが外される。
「神の御遣いたるサクラ様にこのような仕打ちを致しましたこと、伏してお詫び致します。しかしこれは、卑しき輩よりサクラ様をお救いする為とご理解頂きたく」
あーそうか。要は悪い国から神の遣わした娘を救い出したってわけ。
迷惑な。
「どうしてそんな」
「当然でございます。あのような獣が王家でふんぞり返っている国など、ろくなものではございません」
なーんか、説得力無しだ。
ああ、痛かったあ。柔らかい布で縛っていたようだけど、しっかり痣にはなっている。やれやれ。
改めて目の前の拉致犯人を観察、総員四名。
口調は丁寧だけど悪党の香りぷんぷんの小柄な(とはいえ、わたしよりはデカい)男。コイツがボスかな。
隣にいるのはガタイの良い軍人タイプ、実行犯だ絶対。
女も一人。けっこう年配、ひっつめ髪で鼻眼鏡。姿勢の良さまで……女官長ごめんなさい、リアルロッテンマイヤーの称号はこのひとに譲ってください。
最後のひとりは背が高い猫背の男。顔を横切る大きな刀傷が凄すぎます。このひとだけが金じゃなくて焦げ茶の髪。前髪が厚く下げられていて、表情が分かりにくい。
「我が主がサクラ様の身を案じまして、我々を遣わしたのです。取り合えずはこちらで衣服を改めて頂きたく存じますが」
リアルロッテンマイヤーさんと別室に籠り、湯浴みしてから着替えました、あれ?
「サクラ様のご容貌は目立ちますので、こちらも被って頂きます。粗末な衣服で申し訳ないのですが」
修道女?
「いえ、修道女の見習いが着るものでございます。あなた様は成人前の少女のように見えますので、こちらの方が無理がないかと思いまして」
灰色の首の詰まったワンピースに、例の布を被って出来上がり。なるほど、黒髪対策な訳ですね。
キラキラなドレスからみたら、地味で質素なのは間違いない。でもコレかなり好き。何と言っても動きやすい。そしてコスプレ気分だな。ええと、ばあ様が好きだったあのミュージカル映画。
…………気分をドーピングしても効果なし。どこに連れてくんだーどうやって逃げたら良いんだよ。とほほ。
「我が主が早くサクラ様にお会いしたいと。あのような国にいてはいけない、早く我が腕の中へと一日千秋の思いで、その身を案じていらっしゃいます」
うげっキモい。誰が誰の腕の中なんだよ。
暫定ボスの話は続く。コイツ揉み手がむちゃくちゃ良く似合う。ボスというより、腰巾着キャラだ。ドラえもんで言うならジャイアンじゃなくてスネ夫。
「その我が主さんは、どの国のひと?」
「まだ明かせませぬが、いずれ分かります」
言ってることもやってることも、ちょい丁寧なだけで拉致犯そのものだろっ!命の危険が取り合えず無いだけで。
「…………疲れた」
喉が渇いた、猿ぐつわの後遺症で顎だるいしさ。
「あああ、これは失礼いたしました。すぐに用意を」
出されたお茶が極上品なのは、王城で飲んでいた味と同じだから解った。
帰りたい。どんなに丁重に扱われても帰りたい。
叫び出したいくらい思っていても、逃げ出せる隙は見つからない。ひとりふたりは体術で倒せても、残りに捕縛されるだろうし、もし逃げ出せても、すぐ捕まることは目に見えている。
運良く村人に助けられたとしても、コイツらはわたしを匿うひとを躊躇なく殺すだろう。
「ここはまだ王都から離れていないので危険です。何日か馬車で移動しますから、そのおつもりで」
目立たない黒塗りの、商人が使うような馬車に押し込められ、旅が始まった。




