表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

23 悪役って話には必要不可欠だよね

ちょっと短め。





 猿ぐつわってかなり辛い。ヨダレは飲み込めないし顎は疲れるし。

 後ろ手に縛られるのもなあ。動かせないと関節って痛くなるんだな。足まで縛られてるから全身ギシギシいってるわ。


 そんなわたしは只今絶賛拉致られ中。デカイ木箱に放り込まれて移動しております。ガタガタゴトゴト、たまにガッツリ大きく揺れるのは、道が悪い証拠。土とか、良いとこ砂利道か。アスファルトって偉大だったのね。

 レンガ敷きでも無さげだから、王都からは出たのかな。


 あああーっせっかく王子兄弟の仲が良くなって、居心地改善されるかなと思ったのにー。

 なんて言ってる場合じゃないし。命の危機ってやつだ。

 誰だろうわたしを拐って得するひと。


 王子の誰か、はないない。貴族の不満分子……いや、わたしが消えたら国内かなり荒れるだろ。なんせ神の遣いだから、祟りを恐れちゃうでしょ。


…………やっぱ他国かー。やだな、予想外れてくれないかな。



 ぐへっ!痛いなあもう。木箱に身体を打ち付けられると、息も出来ない。どっかに着く前にぼろぼろだよきっと。

…………殺されるなら、なるべくあっさりお願いしたい。痛いのも苦しいのもイヤ。



 なんて考えてるうちに寝ていたようです、わたし。かなり図太いぜ、自慢できるなコレは。



「起きてください、サクラ様」

 肩を揺すられて、目が覚めた。

「ああ、申しわけありません。すぐに外します」

 手と足の縄が解かれ、猿ぐつわが外される。

「神の御遣いたるサクラ様にこのような仕打ちを致しましたこと、伏してお詫び致します。しかしこれは、卑しき輩よりサクラ様をお救いする為とご理解頂きたく」

 あーそうか。要は悪い国から神の遣わした娘を救い出したってわけ。

 迷惑な。


「どうしてそんな」

「当然でございます。あのような獣が王家でふんぞり返っている国など、ろくなものではございません」

 なーんか、説得力無しだ。



 ああ、痛かったあ。柔らかい布で縛っていたようだけど、しっかり痣にはなっている。やれやれ。

 改めて目の前の拉致犯人を観察、総員四名。

 口調は丁寧だけど悪党の香りぷんぷんの小柄な(とはいえ、わたしよりはデカい)男。コイツがボスかな。

 隣にいるのはガタイの良い軍人タイプ、実行犯だ絶対。

 女も一人。けっこう年配、ひっつめ髪で鼻眼鏡。姿勢の良さまで……女官長ごめんなさい、リアルロッテンマイヤーの称号はこのひとに譲ってください。

 最後のひとりは背が高い猫背の男。顔を横切る大きな刀傷が凄すぎます。このひとだけが金じゃなくて焦げ茶の髪。前髪が厚く下げられていて、表情が分かりにくい。



「我が(ぬし)がサクラ様の身を案じまして、我々を遣わしたのです。取り合えずはこちらで衣服を改めて頂きたく存じますが」

 リアルロッテンマイヤーさんと別室に籠り、湯浴みしてから着替えました、あれ?

「サクラ様のご容貌は目立ちますので、こちらも被って頂きます。粗末な衣服で申し訳ないのですが」

 修道女?

「いえ、修道女の見習いが着るものでございます。あなた様は成人前の少女のように見えますので、こちらの方が無理がないかと思いまして」

 灰色の首の詰まったワンピースに、例の布を被って出来上がり。なるほど、黒髪対策な訳ですね。

 キラキラなドレスからみたら、地味で質素なのは間違いない。でもコレかなり好き。何と言っても動きやすい。そしてコスプレ気分だな。ええと、ばあ様が好きだったあのミュージカル映画。

…………気分をドーピングしても効果なし。どこに連れてくんだーどうやって逃げたら良いんだよ。とほほ。

「我が主が早くサクラ様にお会いしたいと。あのような国にいてはいけない、早く我が腕の中へと一日千秋の思いで、その身を案じていらっしゃいます」


 うげっキモい。誰が誰の腕の中なんだよ。


 暫定ボスの話は続く。コイツ揉み手がむちゃくちゃ良く似合う。ボスというより、腰巾着キャラだ。ドラえもんで言うならジャイアンじゃなくてスネ夫。

「その我が主さんは、どの国のひと?」

「まだ明かせませぬが、いずれ分かります」

 言ってることもやってることも、ちょい丁寧なだけで拉致犯そのものだろっ!命の危険が取り合えず無いだけで。

「…………疲れた」

 喉が渇いた、猿ぐつわの後遺症で顎だるいしさ。

「あああ、これは失礼いたしました。すぐに用意を」


 出されたお茶が極上品なのは、王城で飲んでいた味と同じだから解った。

 帰りたい。どんなに丁重に扱われても帰りたい。


 叫び出したいくらい思っていても、逃げ出せる隙は見つからない。ひとりふたりは体術で倒せても、残りに捕縛されるだろうし、もし逃げ出せても、すぐ捕まることは目に見えている。

 運良く村人に助けられたとしても、コイツらはわたしを匿うひとを躊躇なく殺すだろう。


「ここはまだ王都から離れていないので危険です。何日か馬車で移動しますから、そのおつもりで」



 目立たない黒塗りの、商人が使うような馬車に押し込められ、旅が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ