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22 積極的に頑張ってみたけど、お約束イベントは避けられないのですね





 国王が奨めた茶会なんだから、お招きにあたり『王命により』と明記致しました。さもなくば欠席確定な彼も呼びたかったから。



「サクラ様、お招きにあずかり光栄です。今日は手ずからお茶を?」

「はい、今日のために女官長に特訓を受けました」

「それは楽しみです」

 最近口上がシンプルになったフィリップが、一番にやって来ました。次に現れた人物を見て目をみはり、最後のひとりに至っては、身体が固まった様です。他の二人も驚いてい……いや、一人は表情読めないが。

「サクラ、これはいったい」

 怪訝なエドモントに、ニッコリ笑って告げる。

「国王陛下が茶会を開いたらとお奨め下さるので、お招き致しました」




 ご招待メンバーをその場で言ったら、予想外だったらしくて口があんぐり開いてたけどな陛下。ついでに侍女と護衛はドアの外で、王子全員絶対参加を王命していただきました。

「侍女がいなければ誰がお茶を淹れるのだ」

「もちろん私が」

「ほへ?」

……美丈夫の間抜け面はレアだけど、最近フィリップで鍛えたから噴き出しはしなかった。良かった不敬罪にならなくて。






 一番最初に自分を取り戻したのはリオネル殿下。お招きに預かり光栄ですとか、この世界にしては簡単すぎる挨拶のあと、設えてある席に腰を掛ける。おや、その道具は?



…………椅子をやけに大きく引いたなと思いきや、剣の手入れ始めましたよ獅子顔さん。


なんだよこれ見よがし過ぎる『俺参加したくないけどよ、命令だから仕方ないじゃん』ポーズ。うわあいきなり凹むわそれ。

 エドモントもフィリップも困惑している様子。それでも何も言わずに席につく。さすがに突っ込めないよな、わたしも出来ないもの。



 まあいいですよそんなんでも。最初から盛り上がるとは思っていないし。

 テーブルセッティングや初めのお茶は、女官長が仕切ってくれました。サーブを終えて退室するときの視線が厳しっ。ごめんね仕事取り上げて。でも例外は作らないのだ。

 さてさて、初めての顔触れのお茶会、三人纏めての見合いとか、一対三の合コン?とも言えよう。

 相手確定するつもりなんか全然無いけどよ。


 時候の挨拶から始まって当たり障りの無い話が少しの間続く。三人が和やかに、でもひそかに緊張感を持ちつつ語り合い、リオネル殿下は剣を棒のような石で研いでいる。


「そうだ、ねえエドモント」

「はい?」

「最近、陛下と何やってんの?」

 フィリップの笑顔が凍り付いただけじゃなくて、リオネル殿下の視線が剣から外れてこちらに来ました。 やっぱ最初から直球勝負でな。

「ああ」

 エドモントの顔が綻ぶ。クールに見える顔が、最近サクラが見慣れた大型犬っぽい表情に変わった。

「文官達にアラビア数字を教えながら、公文書の新しい形を模索しているんだ。領主から上がってくる税の一覧から始めている。実はここに原案を持ってきた、サクラにも見てもらおうと思って」

 エドモントは書類を入れる皮製の筒を開けて、何枚かの紙を取り出す。

「へえ」

 以前、計算用に使っていた反古の書類に比べ、格段に見やすくなっている。

「文官たちはなんて言ってる?」

「最初は不承不承でしたが、習い始めたら目から鱗が落ちたと騒いでいましたよ。計算しやすい文字だって」

「よかったねえ」

 興味ありげに覗き込むフィリップにも、数字の見方を簡単に教えようとしたら、獅子顔さんも身体を寄せてきた。

「これは素晴らしい」

 リオネル殿下の言葉に、エドモントの顔が硬直した。

「税の集計や予算案の処理速度が上がるな」

「は、はははい、それはもう」

「つい最近来たサクラの知識を、短期間でここまで応用出来るとは」


 あれ?

「エドモント?」

 目の縁を紅くさせて、エドモントが固まっている。「大丈夫?」

「え、あ、はい」

 やっと話せる状態まで立て直すと、エドモントは口を開いた。

「兄上に褒めていただけて光栄です。剣も人付き合いも駄目な私にも、ようやく取り柄が出来た様で」

「ああ、あれは気にするな」

 意外な言葉がリオネルから漏れ続けていて、驚きのあまり口を出せない。

「お前は幼い頃から病がちで、騎士たちほどの体力が無い。身体を鍛えずにいきなりあのような剣を使わせるザクト子爵の教え方が悪い」

 はっきり言うなあ。

「はあ、でも」

 呆気にとられるエドモントにリオネル殿下は淡々と語る。

「軍人では無いのだから、剣など持たずとも良い。ただし、王族の男子として、咄嗟の身のかわしや一撃で急所を仕留める知恵と訓練は必要だろう。やってみる気はあるか?」

「はあ……」

「私にも教えて頂けますか?」

 突然の話についていけないエドモントに対して、フィリップの方が立ち直りが速い。そこはさすがの王子様だ。

「そうだな。二人とも一度フランツと引き合わせるか」

「「あのフランツを?」」

 誰だそれ。

「剣技大会で有名人になった兵士です。小柄で華奢ですが身が軽い男で」

 ほうほう、忍者タイプなのか。王族なら暗殺対策が最優先だから、騎士の訓練は必要ないかも。良いとこ突くよなリオネル殿下。


「……なんだその顔は」


 気づけば三人揃って、リオネル殿下をガン見してました。

「いえ、兄上について、わたしは何も知らなかったのだなと」

 フィリップが顔を綻ばせる。

「……ここには曲解する者もいない様だしな」

 お、まさかのツンデレ兄さん?

「語らい合う時間など持ったこともありませんでしたね」

 エドモントも顔が穏やかになった。よしよし。


「なんだ、やっぱり仲悪いんじゃなかったのか」

 サクラの声に三人が一斉にこちらを向いた。


「まさかサクラは、私たちを引き合わせるために?」 エドモントの問い掛けにサクラは頷いた。

「だってさ、王妃確定なら、相手が誰であれ残りは義理の兄弟になるわけだし、次期国王を支える人たちな訳でしょ?」

「ああ、そのとおりですね」

「周りが自分達に都合が良い王様を担ぎたいからって引き離されてると、王様になった人大変じゃない。王弟殿下が信用出来ないなんてさ」

 三人がそれぞれ、お互いの顔を黙って見ているので、話を続けた。

「ああ、あなた方のためじゃないから。自分が暮らす国に内乱が起きる可能性を潰しときたいだけ」


 さてさて、お茶が冷めたから入れ替えましょうかねーと、席を立って部屋の外の侍女にお湯を頼む。

「……なんで貼り付いてんの」

 ドアを開けたら鈍い音と共に、手応えが。三人くらいの侍女あんど護衛の方々が鼻や額を押さえてる。あ、近衛さん、鼻血がたらっと。

「いえ、なんでもありません」

「あ、そう」


 お代わりのお茶に関しては、微妙な感想をいただきました。自分でもちょい苦かったと思います。初心者にはハードルが高かった様。ううむ、修行せねば。



 陛下から言われて、フィリップが今関わっている交渉は南の隣国との関税問題。あれ?正妃さまの生国じゃん。いきなり難しい処を……

「敢えて委ねられた感がありますね。初めてだから不調に終わると陛下が出てくるつもりでしょう。力量を試されていると思います」

 なるほど、陛下は陛下で誰が国王に相応しいか見極めてるってか。父である前に一国の王。一筋縄ではいかない。


「陛下は陛下でいろいろ考えてる訳かー」

 なんで今まで、兄弟の仲を放置していたかな、と呟いたら、フィリップが言った。

「国王陛下の発言は、重みがありすぎますからね」

 ふうん。

「無理矢理仲を取り持たれたと周囲が思って、争いがいっそう表面化する怖れもありますからね。サクラ様が我々を集めるのは、伴侶を見定めるという大義名分があるので、周りも何も言えなかったでしょう」

 フィリップが穿った考えを口にする。あんなに驚いてた陛下に、結局は利用されてるのがちょっと癪。でもそれ以前に。


「フィリップ、様付けは止めてよねって前にも言ったよね」

「そんなわけには」

「伴侶候補なら対等に話しても良いじゃん。ノー敬語なわたしが偉そうに見えるから、せめてサクラって呼び捨てで。元の世界では学友もそう呼んでたから良いんだよ。わたしだって王子様たちを呼び捨てするもん、ね?」

「それでは」

 サクラ、と呼ばれて、はいよと気軽に答える。

「リオネルもね」

 軽い口調で話を振ると、意外にも、ああ、と即答。表情は変わらないけどな。

「じゃあまた近いうちに」 是非とも、と明るい声で応える二人とは別に、リオネルが口を開く。

「次にはもう少し旨い茶が飲めると良いのだが」

 ムカッ。


 ちょっとは気安くなったかと思えばこれかよ。ちっ。

 でも後半は剣を置いて、話に参加していたから許してやるか。




 第一回は収穫が多かったので、次は何時にしよっかなと考えながら眠って翌未明。

 夜明け前に電子ブックで小説読んでいたら、小さなノックが響いて頭を上げた。慌ててスーツケースにヤバいブツを仕舞って、返事をする。

「はい、なにか」

「このような時刻に申しわけありませんサクラ様。暴漢がこの辺りに逃げ込んで来た模様で。お部屋を改めさせて頂きます」

 はいよ、とドアを開けたとたん、鳩尾に衝撃を受けて、崩れ落ちた。



…………危機管理能力が日本人のままでした。気づけば猿ぐつわをされ、なにか大きな布にくるまれて荷物の様に運ばれています。



身体痛え――――――

異世界トリップものによく見られる、誘拐イベントを導入してみました(笑)


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