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18 世界を越えるのはやっぱコレかと。





 今日もエドモントの熱意に負け、侍女さんがごはんコールに来るまでみっちり指導しましたよ算数。

 演算の時、右手の動きを指摘されて、うっかりソロバンのこと話したらまた食い付きの良いこと。

 実はソロバンがトランクに入ってます。特技あったら披露しろという留学先の要請のため。だってアレ、トランクの収まりが良いから、つい。でも小二でやめたから4級止まりで自慢にもならないんだな。特技に和モノが幾つあるかが、交換留学の選考基準って噂あったから持って行かなきゃヤバイかしらと悩んだ小心者です。


 教えるのも疲れたからまた明日ってことにして、自室に帰ります。でもきっとエドモントは、寝る間も惜しんで数字と戯れてる、確信。



 ごはんの後は、お昼寝。

 と言っておいて、寝室でストレッチとか柔軟体操しています。

 だってあんな窮屈な服着て、猫かぶり続けるの肩凝るし身体が鈍る鈍る。かと言って走ったり体操したりなんて発想が、この国の女性には全く無いみたい。

 身体鍛えるのは軍人さんオンリー。一度庭園の中走って良い?と女官長に聞いたら、青筋立てて怒られました。


 でも軽く動いたあと、ベッドでごろごろしちゃうんだけどね結局は。あージムとかプール行きたい。身体動かしてスッキリしたい。 カラオケでも良い。あるわけ無いけど。



 お茶の時間あたりで、侍女さんがお散歩を熱心に勧めて来ます。たぶん何処からか指令が出てると思うんだよね。この方々貴族令嬢らしいし。 

 お庭の何とかという花が見頃ですよとか、今日はお天気が良いので東屋でお茶にしませんかとか。

 押しきられて庭園に行くと、絶対会うひとが一人いるわけだ。



「ご機嫌ようサクラ殿。今日はまたサナリの花の如く愛らしい。しばしご一緒させていただいても?」

 陽光に金髪きらめくフィリップ殿下が、挨拶の口上も滑らかにお出ましです。サナリってどんな花か知らんから、応えようもありませんがな。

 相変わらずの麗しさなんですが、やっぱり現実感に乏しすぎて対応に困る。フィリップ殿下が来たとたん、近衛さんたち距離開けてデートっぽく周りから固めに来てる感じもなんかヤダ。


 そしてはっきり言って、フィリップ殿下のお話は修飾語が多すぎて聞いてるのがツラい。

 たぶんわたしの年頃の娘さん、もしくは妹のキャロリーヌ王女殿下には、マッチした話題を選んでると思うけど価値観違うし。

 可愛らしい綺麗って言われても、こんな美形に言われたら、皮肉か貴様って思っちゃう。そしてそんな自分の小ささが嫌になる。


 ドレス褒められても、「軽量化と御不浄の利便性を第一に」なんて、さすがのサクラちゃんにも言えませんよ。だってマジ綺麗なんだもんこのひと。排泄行為全般が信じられないくらい。


 一緒に歩いてる時に花を手折って下さったり、手の甲に口付け落とされたりしたら、貴族令嬢たちイチコロなんだろうなあ。でも完璧すぎて、かえって萌えない。


 対応が淡白なわたしにフィリップ殿下も困惑気味。なんか申し訳無くて仕方がない。

 はあ、とため息が出てしまう。

「どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもありません」


 この王子様も国王になりたいのかなあ。エドモントみたいに直球で訊くほど、まだ打ち解けられないや。


「サクラ様は歴代の王家の肖像画などはご覧になりましたか?」

 あ、戦法変えてきたか。

「いえ、まだ」


「では、ご案内致しましょう。腕の良い絵師達の作品ですから、絵画としても楽しめますよ」



『うおおう、壮観』

 歴代王族の絵姿は、一つの部屋に集まっているのですね。いわば、部屋が丸ごとアルバムって事か。

 絵ははっきりと写実的。初代からずっとそう。細い筆で丹念に描かれているなあと感心する。見たことない人は良くわからないので、戴冠当時の現国王を探す。


『おお!そっくり』


 今より若い分、溌剌とした印象の国王陛下、王子たちよりワイルド系で、私はこっちの方がタイプだなあ。フィリップ殿下もエドモントも美しいんだけど、繊細すぎてちょっと。


「あれ?この方は」

 別の絵に、陛下の隣に寄り添っている小柄な貴婦人がいらっしゃる。現王妃じゃなくて。

 赤毛にくすんだ緑の瞳、パッと眼を引く美貌ではないですが、可愛らしいなあと思います。国王陛下に腕を預け、柔らかく微笑んでる姿は幸せそうで、こっちまで嬉しくなっちゃう。


「クラリス……さま?」

「そうだと聞いています。」

 ああそうか、フィリップ殿下は知らないもんな。

「母がよく、クラリス様のお話をしていました。陛下が是非にと望んだ方で、とても仲睦まじかったと」


 こちらにもありますよ、と別の絵を示すフィリップ殿下の指を追うと、クラリス様の膝の上、陛下に良く似た愛らしい幼児が、弾けるように笑っていた。

「リオネル殿下ですよ」 

 まあ、そうだろうとは思ったけど。

「あの方が一番、陛下の面差しを受け継いでいます」

 こちらをとフィリップ殿下は、壁に不自然に取り付けられた布を捲る。

 陛下、いや、金茶の髪と明るい緑がかった瞳の、凛々しい若者が、剣を手に立つ姿があった。


「立太子を控えて描かれたものです」

 王族は成人前後に、絵姿をこの部屋に納める習わしがあるそうです。なのでエドモントもフィリップ殿下も王女様の絵姿も並んでいます。


 でも、隠すように布が掛けられていたのは、リオネル殿下のだけ。

「外せと兄上は言ったそうですが、陛下が頑として譲らず、このようにしています」

 なんて答えていいのか、言葉が見つからずにただ絵を眺めた。若いんだけど、カリスマ性ありそうな頼れる感じ。


「顔が変わる前のリオネル殿下って、どんなひとだったのですか?」


 フィリップ殿下は、少しの間考えて、ゆっくり口を開いた。

「国王に相応しい器の方と評判でした……実を言うと、あまりわたしとは接点がないので、よくわからないのですが」

「え?」

「三年前まで、わたくしと妹は、母と離宮住まいで、公式行事に呼ばれた時くらいしか。こちらに移ってからは、兄上が北の砦に行ったきりでしたし」

「ふうん」

「昔は遊んで頂いたこともあると、母はよく話してくれましたが、幼すぎて覚えていないのです」

 腹違いだから、憎みあってるのかなと思ったけど、そうでもないんだな。どちらかと言うと、周りが気を使って離していたのか。



「そうだ、フィリップ殿下の母君は?」

 壁を見回すわたしに、フィリップ殿下は微笑みを崩さず言った。

「側室でしたから、ここには置けない決まりなのですよ」

「あ……ご免なさい、知らなくて」

「いえ、お気になさらず」

 貴族に押せ押せ言われてる、微妙な立場なんだ。エドモントと比べて、小器用に立ち回ってるイメージあるけど、裏を返せば辛い立場なのかも。


「フィリップ殿下とキャロリーヌ殿下の母君なら、美しい方なのでしょうね。絵姿があれば拝見したいです」

 わたしの言葉にフィリップ殿下は一瞬笑みを止め、でもすぐにフワリと微笑む。

「わたしが描いたものでよろしければ」

「殿下が絵を描かれるのですか?」

「王宮付きの絵師に比べたら、拙いものですが」

「わあ、見たいです」


 明日にでもわたしの部屋に、と言われ、返事に困る。それを見てフィリップ殿下は、軽く苦笑して言った。

「初めてあなたが隔たりの無い笑顔を見せて下さったので、少々浮かれてしまいました。ではサロンがよろしいかと、王宮の誰もが出入り出来るところですから」

 すぐに代替案が出されるあたりは、さすがだと思う。

「では明日の昼下がりに。あ、そうだ」

 小首を傾げる様も麗しいフィリップ殿下に提案。

「王女殿下も御一緒に」


 貴族が行き交うサロンで二人きりは、既成事実になりそうだからパス。三人なら、あからさまに口説きモードにならんという計算なのだ。貴族たちに、和やかなシーンでも見せとけば、面目も立つだろうしね。


 おそらく、わたしの意図を読んでるだろうが、フィリップ殿下は了承した。

「妹も喜びます。お会いしだがっていたので」







 翌日の昼下がり、王宮内のサロンの片隅で、絶世の美兄妹に挟まれて笑い語らうわたしを、貴族の皆様が遠巻きにしておりました。

 お二人の母君、フローラ様は、やっぱり二人に似て、文句なしに美しかった。

 ふわふわの金髪、ちょっと目尻の下がった、色っぽいエメラルドの瞳、夢見るような優しげな笑顔。

「すっごく綺麗な方ですねえ、お二人にそっくり。しかもフィリップ殿下絵がお上手なんですね」

 うん、これなら昨日見た絵と見劣りしない。才能あるじゃん。


「兄は楽器も凄いんですよ。詩も書いて歌曲を作ったりします」

 いやいや、遊び半分なのでそんなことは、なんて謙遜するフィリップ殿下。おお美形のマジ照れ。マニアには堪らないでしょうに。

「政務に関わる事など無いと小さい頃から言われていたので、正直そちらの方に熱が入ってしまって」

「そんなことないです。剣だって学問だって、先生方は褒めてくださるじゃないですか」

 ふうん、ホントに小器用タイプなんだなー。

「でも、あの方には及ばないから」

 ああ、こっちもリオネル殿下には敵わないって言うんだ。じゃあ何で国王になりたいの?って、そりゃ周りに言われたら断れない立場だからか。


 跡継ぎ問題ってそんなものかも知れないな。本人たちより周りが熱くなってるの。


「あ、そうだ」

 二人が同時に首を傾げた。

「わたしの絵も見てもらうかな」

 はい、エドモントの腹筋を壊した例のブツ。コッソリ二人にご開帳。



…………あ、震えてる。


「どどどどうして、今ここでこれを」

 うん、苦しそうな美形を見てみたかったから。

 王女様もひくひくしています。侍医が飛んできそうだよその顔色。元が白いから耳まで赤いのは目立つなあ。


「本人そこにいるのに笑えないでしょうが!」

 小声でしかられました。ふふふ。


 エドモントの時と同じ手だけど、ヒットしたなこれ。リオネル殿下は……切っ掛けすら掴めんから止めとこ。



 しかしわたしのアマチュア下の下レベルでもこの威力。マンガは国境だけじゃなく世界も超えるね♪







サクラの特技が書いてくにつれ増えていく。あれ?チート仕様じゃない予定なのですが。



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