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10 唯一無二の神様に、ビンタを張りたい乙女です。


 朝。

 またしても夜明け前に目が覚めた。早寝早起き過ぎるぞわたし。

 だって以前は、日付変わる前に寝ること無かったもの。平均したら睡眠、五、六時間ってところだったし。


 舞踏会も、ずいぶん長く感じたのは、己の心のなせる技、実際には七時頃始まって十時にはお開き。広間のシャンデリアの蝋燭が、一つ一つ消えていくのが、合図になるらしい。

 そのあと高位貴族たちは王宮内の部屋でお休み。夜中に様々なドラマがありそうだけど、そんなの関係ないです御勝手にどうぞ。



 もう一眠りも良いけれど、侍女たちが突入するまでが自由時間なので、ごそごそ起き出す。



 ソファーに掛けられたままの着物は、侍女さんたちにお手入れ方法を伝授しながら、片付けるとして。




 トランクを開けて、今まで触らなかった物をベッドに並べた。



 ノートパソコン、蔵書のデータ入りのiPad、iPod、翻訳機能付き電子辞書。デジカメ。



 扱いに困るよな、コレ。


 こんな物を出して実演したら、大騒ぎだろ絶対。最悪、神の道具なんてことで、争いの火種になりそう。


 もうしばらく隠しとけ。


 でも、わたしにとっては、既に生活必需品なんですが。ネットや通信は無理でも、本も読みたい音楽だって聴きたい。



…………夜中にこっそり使おうっと♪



 電気無いのが痛いなあ。

 初日に部屋の暗さに驚いたもの。そして今も、LEDライトに頼って、荷物あさらなきゃだし。


 でもあるんだな秘密兵器。ふふふのふ。


 持ってて良かったソーラーバッテリー。米軍仕様の迷彩色で机くらいのシート状。畳めばコンパクトサイズの賢い子。フル充電でPCもばっちり、単三、単四電池も別売部品でチャージ可能。ってテレビショッピングかよ。

 こんな餞別もらった時には、は?って思ったけどさ。理系の友達は持っておくものだ。




 そのあと、デジカメや携帯に入っていた画像をうっかり開けてしまい、泣けて来たので見るのを止めた。


 気分を変えよう。


 忘れないうちに、貴族のデータでも作るかなと思い立つ。 デジタルで残すと故障したら全てパァなので、ノートにかりかり書くことにした。ドット罫線入りは海外に無いのでまとめ買いしておいたんだ。


 さてさて、今度はコレ。ICレコーダー。ヒアリング苦手なわたしのお勉強用なのだが。無駄に長時間録音可能なスパイグッズだぜ。

 声だけでも録っておいて正解。聴けば顔が何となく浮かぶ。



 シリル公爵はちょっとカッコ良かった。ゴーウェン伯爵は一見優しげだけど腹黒そう。ボリシュ男爵は顎が胸に埋まるほどメタボ。なんて思い出しながら、名前と特徴、ついでに似顔絵書いていく。



 漫画家目指していた訳でもなく、子どもの遊びの延長で、面白くない授業中、ノートの隅にシャーペンで書いていた程度。

 同級生に『特徴の出し方がえぐすぎる』と、なぜか評判だったな。


 あ、いかんいかん。また。


 思い出したら目が熱くなって、振り切るように窓の外を見た。



 あれ?



 いつもこの時間、外を歩く姿を見かけた金茶の鬣。こちらを無視していたはずが、今日に限ってなぜ。

 微動だにせず、こちらを見ていた。



 朝日が顔を出す直前、既に薄明るい外から中は見えないはずなのに。


 窓に出て手を振ろうかなと思ったけど、そうしたらいけない気がして、カーテンの陰に隠れて、鐘が鳴るまで佇んでいた金茶を、ただ眺めた。









「今日はまず、神殿に御一緒して頂きたく」

 わたしが昨日の疲れを残してないと判断したシュヴァイツさんは、そう提案した。

「神官どのには、最初にお会いした切りでしたものね」


 ここに連れてきた、いやはっきり言って拉致しやがった神様は、わたしも見てみたいから望むところだ。


「シュヴァイツさん、その前にちょっと」





 神殿は王宮の東側に、別棟で位置する。わたしが現れた白の間は、その最奥。普段は誰も入れない、開かずの間となっている。


「わたしも入っちゃいけませんか」

 口を尖らせると、シュヴァイツさんに苦笑された。

「陣を描く前に人が入ると、悪しきものを招くと言われていましてな。次に開くのは十年後ですよ」



 因みに、神事にあたって描かれた陣は、その日のうちに綺麗さっぱり消されたそうです。ちぇっと心の中で舌打ちした。



 わたしを招き寄せた神官が、神殿前で出迎えてくれた。



「またお会いすることができ、これに勝る喜びはありませんサクラ様」

 アウロさんと名乗るこの神官。三十路あたりかな?真っ白な衣に身を包んで満面の笑み。

 ああ、獅子顔の次に見た見た、この金髪碧眼。

 外見のインパクトが桁違いすぎて、思い出すこともなかったけど。

 あらためて見ると整ったお顔立ちのイケメンなのに、こちらに向ける情熱が暑苦しくて、引く。



「これはこれはサクラ様」


 神殿の扉が開いたので目を遣ると、アウロさんと同じ長衣を身に付けた神官が歩み寄ってきた。

 アウロさんが、一瞬顔をしかめる。



「サクラ様、こちらは私と同じ、神官のイスリでございます」


 うやうやしく頭を下げるイスリさんに、挨拶のあと言ってみた。

「もしかして、十年前の神事を行った方?」



 神官二人の顔色が変わる。アウロさんはパッと明るく、イスリさんはスッと固く。

「なぜそれを?」

 唸るように吐き出すイスリさんに、余裕ありげに微笑んでみせた。

「なんとなく、そうかなと思いまして」


 イスリさんは、僅かだけど、怯えを目元に出し、すぐにそれを笑みで隠す。

「神から力を授かっていらした?」

 押し殺した低い声が、微妙に震えてるぞ。

「いいえ、なにも」


 イスルさん、着てるモノ同じなのに明らかにアウロさんより十前後年長さんっぽい?そしてこの険悪なオーラ。ちょっと推理すればわかるでしょうが。

 いやカッコつけました。ホントは当てずっぽうですすみません、と心の中で舌を出す。



 あ、もうひとつわかっちゃった。

 わたしの存在って、イスリさんには、とんでもなく都合が悪いのか。

 十年前の神事は微妙すぎる結果ではあるけど、奇蹟は起こしたってことで、神官としての力は評価されていたのかも。


 でも今回は、何も無いところから生身の人間が現れた。成果としては数段上。 周りはアウロさんを讃えるだろう。さらに神官としての能力も、アウロさんが称賛されればされるほど、イスリさんの地位は危うくなる。

 うん、きっとそうだ。



 このひとにとっては、わたしは疫病神。ボロを出せば喜ぶだろうな。わたしが駄目になれば、アウロさんも大きな顔は出来ないだろうから。


 ここはひとつ、足元掬われないように注意注意。




 二人の神官は、わたしとシュヴァイツさんを祭壇のある部屋へ案内した。



 え?日本人。なんでここに。


 なんちゃってカトリック大聖堂な室内の荘厳な祭壇中央。恭しくまつられている神様の像が、どうしてのっぺりな極東アジア顔なんだ。

 なにこの悪い冗談と思いつつ、じっと見つめた。


 お前か諸悪の根源は、と、ビンタのひとつでもお見舞いしたいところだが、背後に控える三人の目があるので我慢した。




 やりたくないが、胸元で腕をクロスさせるように重ね、片膝を立てて、もう片膝を床に着けて頭を下げる。これが正式な祈りの姿勢だそうだ。ついさっき、シュヴァイツさんに訊いた付け焼き刃。


 しかしなんなんだよこのポーズ、首傾げたら白鳥の湖みたい。年寄りと病人にはハードル高すぎ。ふざけてるとしか思えません。


 祈ってるふりして、頭の中で思い付くかぎり神様を罵ってやった。ばーかばーかばーか。


 なんだかなコイツ。拉致しておいてこんな国に放置かよ。自己紹介と理由の説明もなしか。なしなのか。なんとか言ってみろ。もうコイツ嫌い。全力で逆らいたい。



 コイツと呼ぶのは、名前がないから。この世界で唯一の神だから、『神』と言えば全自動でコイツ。和顔の癖に。周りがバチカンって。


「サクラ様?」


 長すぎる祈りに、背後から声がかかるまで罵倒し尽くしました。

 また来て罵ってやるんだもん、祈るふりして。



 何をお祈りで、というイスリさんの問いかけには、ふふふふ、ひみつですと答えておいた。




「白の間でも驚いたのですが、まことにサクラ様は神に良く似ていらっしゃる」 わたしのファン一号、と言ったら肯定されそうで怖いアウロさんが、ウットリと神の像を眺めている。やめて一緒にされたくない。


「そうですか。わたしの国の民は、皆がこのような顔なので、似てると思えませんが」



 身体はギリシャ系の癖に顔だけ見慣れた感じの変な神。罵倒が嫌ならすぐ帰せ。

 もしかしたら、たった一人でこんな顔なのが寂しくなって、人の顔ケモノにしたり、似たような顔呼び寄せて遊んでるんじゃないでしょうね。



 シュヴァイツさんに続いて神殿を去るとき、隙を見て、まぬけな神様像を思いきり睨み付けてやった。

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