私の婚約者~アルベルト殿下~
昨日のお父さまから聞いた内容を整理し、今日もこの世界の情報を整理する。
この世界のことはまだ分からない事だらけだ。
「お嬢様、紅茶をお持ちいたしました。また言われていた本についてもこちらに置いておきます。他に必要なものはございますか?」
「ええ。十分だわ。ありがとう」
お礼を言った瞬間、侍女がギョっとしたような顔を向ける。
今までの私は、この家の使用人に嫌われているようなので、お礼を言っただけで驚かれてしまうらしい……ヤバすぎる。
このままだとゲーム通りに断罪エンドにどんどん近づいている気がするので、使用人たちへの好感度アップ作戦もそのうち考えなければならない……。
「リディアお嬢様、アルベルト殿下がいらっしゃいました。応接室でお待ちです」
「でんか?」
別の侍女が私を呼びに来る。
でんか? 殿下って王家の人⁉ なんで私に⁇
それにアルベルトってどこかで聞いたような?
頭の中がハテナでいっぱいになりながらも、侍女に言われるまま部屋を出て、殿下が居るであろう扉を開けてもらうと、ソファにちょこんと座るなんともちんまい幼児が。
「おい! 第三おうじのこの僕を待たせるとはいい度胸だな!」
「…………」
そこには可愛らしいお人形さんのような幼児がいた。いや私も幼女なんだけど。
応接間の豪華なソファに寝っ転がるように腰掛け、ほっぺを可愛らしくふくらましプンプン怒っているようだけど、美少年ショタすぎて全然怖くないし、むしろ可愛い。
この顔どこかで……って、攻略対象のアルベルト様だ……!
そして私を大勢の前で断罪した人じゃん!
ゲームの中ではこの人は『完璧王子』ポジションだった気がするので、今のこのふくふくほっぺの傲慢ショタからどんな風に完璧王子に育つのだろう……と不思議に思い過去の記憶を頑張って掘り起こす。
……そうだ思い出した!
ゲームの十六歳の姿では完璧な王子様のアルベルト様は、そういえば『幼少期はワガママ放題』だったという設定があった気がする……!
たしかワガママのアルベルト様はリディアと婚約して自分よりワガママなリディアを見て、ドン引きして自分の性格を改めたという回想シーンがあった気がする……。
そこからは、改心というかワガママを辞めたアルベルト様は剣術や帝王学、王族のあれやこれを学んで絵本の中の王子様のように立派に成長する。
しかし、さらに成長しゲームの舞台である魔法学園に入学する頃には、
「僕は努力しても兄を超えられない……それどころか、第三王子だから生まれた時から期待もされていない……はじめから努力するだけ無駄だったんだ……」
という完璧王子を装いながらもその中身は劣等感と無気力で構成されたなかなかヤバいキャラクターだった。
ユーザーの間でもあだ名は『メンヘラ王子』で、彼のカウンセリング……もとい攻略はなかなか大変だったような気がする……。
「おい、このボクをむしとはいい度胸だな!」
王子というより王様のような彼も五年後くらいには立派な紳士になっているのだからゲームってすごい。
きっと幼い彼なりにプレッシャーや王族の厳しい教育の中、色々思うところがあるのだろうな……。
心はアラサーの私的には子供が辛い目にあう作品はもう見ていられないから、今は優しくしてげよう……と思う反面、コイツ普通にゲームの中では悪役令嬢を率先して吊るし上げていたし、何なら私という幼い頃からの婚約者が居るのに普通にヒロインと恋仲になるとかよく考えたら浮気では?
それによくよく考えたら、ヒロインをいじめてたみたいな理由で処刑するのはやりすぎでしょ!
なんかそう思うと今のこの王様のような態度も腹立ってきたな……?
そもそも一国の王子とかいう実家極太な生まれで人生イージーモードのくせに「努力しても誰も見てくれない」って甘えすぎでは?
そもそもその努力すらできないお金や親のバックアップがないとできない貴族社会の頂点に立つ癖によく言えたもんだな!
「まったく! こんなのがこんやくしゃなんて先がおもいやられるな!」
「……この人とけっこん……?」
そこで私はふと名案を思い付いた。
この人と結婚するのはご免こうむりたいが、嫌われて処刑エンドは避けたい。
それにゲームのシナリオ通りにヒロインに奪われるのもなんか癪だ。ゲームのように聴衆の前で「君との婚約を破棄する!」とドヤ顔で言われたら張っ倒したくなるだろうし。
じゃあ、私がこの人にピッタリの結婚相手を探してあげればいいのでは?
そうすれば、王子に関しては「嫁を紹介してくれた恩人」として悪いようにはならないだろうし、世間からも「王子のためを思って相応しい女性を紹介し、自ら身を引いた健気なご令嬢」となるのでは?
前世の私は結婚相談所に入会し、散々お見合いしてきたし、その相談所のカウンセラーさんがどんな仕事をやっているかなんとなくだけど分かる。
ここは私がなんちゃって結婚相談所みたいなことをして王子に合うお相手を探してあげよう! というかこれってワンチャン商売にできないかな?
そして、もしゲームの強制力かなんかで私が処刑されそうになったら、その商売で得たお金で逃亡でもしよう!
それにそうすれば学園に行かずして、王家の縁結びに関われることができて、妖精王ルーファス様に会えるのでは⁉
そうと決まればこの横暴幼児との面会だって無駄にできないよね!
前世の私は王子が推しだった訳ではないので、この人とこれから何十年も付き合っていなかいといけないのかと思うと気が滅入ってしまうが、この機会を無駄にしないように私の将来の結婚相談所経営のために数年かけて練習台になってもらおうじゃないか!
これは仕事でいう一大プロジェクトだ! めざせ仲人!
「おい! さっきからなにをぶつぶついっている!」
「……もうしわけございませんわ」
「……おい、このあいだのごうまんなたいどはどうした? ぐあいでもわるいのか?」
そんなに小さいのに「傲慢」なんて言葉知ってるの偉いねぇ~と、褒めたくなるところをグッと堪える。
傲慢な態度に関しては王子の方が傲慢では? と思ったけど、そういえば私ってついこの間まで我儘お嬢様だったことを思い出す。
「ぐあいがわるいときはおへやからでちゃダメなんだぞ?」
ぐぬぬ! 可愛い!
偉そうだけどにじみ出る育ちの良さ! そして上に立つ者としての心使い!
この可愛い幼児のやり取りに後ろに控えている王子の従者と私の使用人の方々も思わずニヨニヨしてしまっている。
「……たいちょうはもんだいございませんわ。しんぱいしていただきありがとうございます」
「そうか、なにかあったらいうのだぞ!」
「おこころずかい、いたみいいります……それよりアルベルトさまのこのみのタイプをしりたいですわ」
「このみのたいぷぅ?」
この幼児なのにやけに丁寧な言葉使いで会話しているせいなのか、王子の従者がブッと吹き出すのを感じる。
私も普通に喋っているつもりだけど、口が回らずなんともあざとい喋り方になっていしまう。
「このみのタイプとはなんだ?」
「えっと、」
「なんでそんなこと知りたいんだ? しってどうする?」
「アルベルトさまにふさわしいじょせいになりたくて……」
「なぜだ?」
なぜとは? そりゃ婚約者だからでは?
と、お互いがキョトンとする中、私はうっすらとゲームのシナリオを思い出す。
あぁそうか、たしか王子ルートでは
「王族たるもの親が決めた婚約者と結婚するのは当たり前。そこに自分の意志や感情は無い」
というセリフがあった気がする……。
ということは、お互い『相手に好かれたい』という感情を持つもとすら疑問なのかな?
「……先日、お父さまに王家の縁結びについてお聞きしました。だからアルベルトさまのことも知りたいのです。わたしはせけん知らずです。だからたくさん学ぶのです」
「学びはいいことだ! わたしもべんきょうはたくさんしているぞ! そうだな、わたしはかしこい人がすきだ! わたしの兄上にように!」
「おにいさま?」
「そうだ! わたしには兄上が二人いるのだ! いちばん上の兄上はいずれ国王になるのだ! その下のロベルト兄さまもすごいのぞ! でもまだこんやくしゃが居ないんだ……なのにわたしの方がさきにこんやくしゃを……」
「こんやくしゃがいない?」
「ロベルト兄さまは楽しいことがすきだ。だからそれにみあう『そうめいで楽しい』人がいいと、こんやくしゃをつくらないのだ。だからわたしにこんやくしゃができて、いろいろたいへんなのだ」
「なるほど?」
なるほど……などと言ってみたがよく分からん。
ゲームだと第二王子のロベルト様なんて出てきてたかな?
まぁ幼児の言うことだからわからないのは仕方ないとして、幼児なりに『色々大変』と言うくらいだから大人からの重圧とか色々あるんだろうな……。
「きょうはもうかえる……お兄さまの話をしなたらあいたくなった」
そう言って来て早々嵐のように帰っていく、ちんまい婚約者様を「何しに来たんだ」と思いながらも笑顔で見送り、私はまた情報を整理し、王子の好みのタイプを聞き出す作戦を考えるのであった。




