婚活戦士のアラサー、気が付くと幼女になっていました
「ついにお嬢様もご婚約ですか。これからはより一層完璧な淑女として精進せねばなりませんね。いずれは王家の方とご結婚するのですから」
「けっこん?」
結婚。
その一言で私は前世を思いだした。
白いモヤがかかった思い出の中の私は当時三五歳のOLで当時婚活を頑張っていた。
会社終わりの婚活パーティーや、高いお金を出して結婚相談所に入ったりとそれはもう頑張った。
三十歳手前から周りの同級生や同僚はほとんど結婚し始め、当初はおひとり様を満喫して生きる! と趣味の乙女ゲームや推し活をしながら呑気に思っていた。
しかし、三十五歳を過ぎた頃には周りに子供が生まれはじめ、周りが子育てに一生懸命な姿を見たり、好きな2.5次元俳優さんが結婚したりしているのを見て、流石に一人で生きるのが寂しくなったのだ。
婚活では若い方が圧倒的に有利なので、なぜもっと早く婚活をやらなかったのかと後悔しつつ、その日も結婚相談所経由のお見合いで、
「三五歳なんだから共働きで、生活費折半でいいよね? もちろん家事は俺が帰ってくる前に終わらせてご飯作ってくれるよね? 君とは対等な関係で居たいからパートなんて認めないし、君は正社員を続けられるよね? 結婚式とか婚約指輪とかもいい歳して欲しいとか言わないよね? 三五歳の君は選んで貰う側なんだよ?」
と暴言を吐かれ、うるせぇ! 誰でもいい訳じゃない! お前となんか絶対結婚しねぇよ! と泣きながら帰っていたのが最後の記憶だ。
私はよくある転生のトリガーである事故にあったのか、はたまた死んだことすら分からないが、何故かいま自分はこの異世界めいたメルヘンな空間に居る。
ここはまるでお城の中のようで、目に入って来る部屋の家具は白やピンクで彩られまるで物語のお姫様の部屋のようだ……。
前世を思い出した途端に、今までの記憶が一気に曖昧になった……ここはどこだろう?
「お嬢様? 顔色が優れないようですがどうされましたか? お嬢様に言われた通り今日のために新しいドレスや装飾品を多数ご用意したのですがお気に召しませんか?」
お嬢様……?
お嬢様が居るの? どこに? と辺りをキョロキョロ見渡したところ、部屋にはメイドさんがたくさん居るのみで『お嬢様』の姿は見えず……。
あ、これ、お嬢様ってもしかして私の事?
いきなり色んな記憶が脳に飛び込んできたせいで酷く頭が痛い。
思わず頭を抱えると、可愛いクラシカルなメイド服を着た人が心配そうに……いや、怯えたように私の顔を覗き込んでくる。
そんなに酷い顔をしているのだろうか……?
「か、鏡……」
「お嬢様、鏡は目の前にございます。全く、お嬢様が我儘を言うから仕方なく大きな鏡台をご用意したとというのに……またそうやって椅子に横に座って……きちんとお座り直しください」
何やら先ほどから他のメイドさんとは違い、この妙齢の女性は私にずっと小言を言ってくる。は? なんで? 会社のお局か?
お局さんに言われて自分の足元を見てみると、たしかに自分は今一人掛けの椅子に横に座っていて、背もたれがすぐ横にある状態だった。
そこで私はあることに気が付く。
あれ? 私、床に足ついてない?
椅子に座っていても普通、足は床に着くはずでは?
しかし下を向いて目に映る自分の履いている靴はえらく小さい。
ということは……いやいやそんな訳ない……。
ギギギといいう壊れたブリキの人形のように私は、首を横に向ける。
目の前には鏡台というにはあまりに巨大な鏡があり、そこに映るは沢山の美しいメイドさん達。
そしてその中心にちょこんと腰掛ける可憐な幼女。
え? 幼女⁉
「えっ⁉」
思わず自分の顔をペタペタと触ってしまう。
鏡の中の幼女も自分の顔をペタペタと触っており、どうやらこの幼女が私のようだ……嘘でしょ……。
しかもこの幼女、なんだかとっても見覚えがある。
はてどこで見たのだろう……たしかつい最近やったゲームの中で見たような……。
え? ゲーム?
「リディア様、聞いておいでですか? 全くこれでは社交会デビューで恥をかきますわよ。お嬢様の恥はラクロワ家の恥。伝統あるラクロワ家の顔に泥を塗るおつまりですか?」
リディア? ラクロワ……?
知っている……私はその名を知っている……。
その名は私が好きだった乙女ゲームに出てくるキャラクターの名前だ……という事はもしかして……。
改めて目の前の鏡を凝視すると、鏡に映る幼女の顔もたしかに見覚えがある……。
「噓……でしょ……?」
この顔ってまさか……?
ゲームの悪役令嬢のリディア・ラクロワ⁉
その瞬間、私はバターン! と大きな音を立てて椅子ごと後ろに倒れた。
メルヘンな空間に前世の記憶、そして目の前のどこか見た事のある幼女……。
もうキャパオーバーだったのだ。
私にチクチク言ってきた妙齢の女性と沢山のメイドさんが慌てているのを薄れる意識の中でボーッと見つめ、私は意識を手放したのだった。




