能力:完璧模倣(パーフェクトコピー)
白光の中、青年が立っていた。
表情は落ち着いているが、どこか芯の強さを感じさせる。
年頃は十七、八くらいか。
「よかろう、汝に問う。欲しい力は何か。」
威厳ある声が響く。
神である私は、今日もひとつの魂を選び、異世界に送り出す。
「……他人の力を、自分と同じように使える力がほしいです」
青年は小さく息をついた。
その目には迷いもあったが、強い決意もあった。
「なるほど。《完璧模倣》か」
掌から淡い光が伸び、青年の胸に吸い込まれる。
瞬間、青年の視界が一瞬ゆがみ、心がざわめく。
「汝に授けるは《完璧模倣》。
他者の能力、技術、技能——何であれ、見たものを瞬時に学び、再現できる力だ。
だが注意せよ、万能ではない。心が追いつかなければ、力は破壊に変わる。」
青年は小さく頷き、拳を握る。
胸に芽生えた力の感触は、温かくも冷たい光のようだった。
「行け、新たなる世界へ。
見たものを、自らのものとせよ。そして、自らの限界も知るがよい。」
光が弾け、青年は消えた。
私は背もたれに沈み、同僚神に目を向ける。
「さて……この子はどこまで、人の力をコピーできるかな」
同僚神は肩を竦め、コーヒーを一口。
またひとつ、新しい物語が始まった。
異世界の町に足を踏み入れた瞬間、青年——リオは胸の奥で微かな震えを感じた。
通りを歩けば、剣を振る兵士や魔法を操る少女、鍛冶屋の熟練の手仕事、すべてが目に映る。
そして、思わず試してみた。
(……こうか……?)
通りの剣士の動きを見て、体を同じように動かす。
刃の重さも、抜き方も、見たまま完全に再現できた。
隣の魔法少女の手の動きも、指先の動きに合わせるだけで同じ魔法が放たれる。
「す、すごい……!」
思わず声が漏れる。
見たものは、すぐに自分のものになる。
力の可能性は無限大だ——戦士にも、魔法使いにも、どんな職業にもなれる。
町の人々に手伝いながら、リオはその力を確かめる。
鍛冶屋の技術で鎧を修理し、薬師の手法で怪我を癒す。
小さな町は、彼の力で少しずつ便利で安全になっていく。
しかし、胸の奥で微かな違和感も芽生える。
(……全部、コピーできる。でも……自分はどうなるんだろう……)
完璧に模倣できても、自分自身の力や個性は、まだ見つかっていない。
便利さと可能性に胸が躍る一方で、何か大切なものを見落としている感覚。
夜、宿屋で膝を抱え、リオは思う。
——力は強い。でも、この力をどう生かすかは、自分次第だ。
その夜、窓の外にかすかな月光が差し込む。
模倣の力を得た青年は、まだ見ぬ世界に、静かに希望を抱いた。
ある日、リオは強大な魔法を操る魔導師に出会った。
その動き、呪文の威力、細かな指の運び——
全てを一瞬でコピーしようと手を伸ばす。
しかし、力の矛盾が彼を襲った。
高度すぎる魔法の負荷が、彼の体と精神に跳ね返る。
体は痛みで震え、頭の中は情報の洪水でいっぱいになる。
「……くっ……無理……!」
思わず声が漏れる。
見ただけでは理解しきれない技術、感覚の微妙な違い——
完璧に見えるものでも、完全に自分のものにするには、心と体の準備が必要だった。
それでもリオは諦めない。
だが次第に、模倣した能力が本来の持ち主の精神的残滓まで引き込むことに気づく。
怒りや嫉妬、恐怖や後悔——
コピーした力に伴う感情まで押し寄せ、心が揺らぐ。
(……力は便利すぎる。でも、便利すぎるから、重すぎる……!)
夜、宿屋で膝を抱えたリオは深く息をつく。
模倣できる力は、無限の可能性を秘めている。
しかし、他者の能力を自分のものにすることは、喜びと同時に危険も引き受けることだった。
それでも彼は目を閉じ、心に誓う。
——力をただコピーするだけで終わらせない。
自分自身の力として、世界に生かす。
窓の外の月光が、静かに彼の肩を照らす。
模倣の力と葛藤を胸に、リオは明日も歩き出すのだった。
観測室の水鏡に、異世界の光景が映る。
町の広場で、リオが剣を振る姿。
その動きは、かつて町の剣士からコピーしたものだが、どこか自分らしいリズムが混ざっている。
「ふむ……力は完璧に模倣できても、人格まではコピーできぬか」
隣の同僚神が、興味なさげに肩を竦める。
「便利すぎる力も、結局は本人次第ってわけか」
「うむ。模倣の力は万能ではない。
誰かの技術や能力を手に入れるだけでは、真の強さにはならぬ。
自分自身の心と意志があって初めて、力は生きるのだ」
水鏡の中、リオは再び町を歩き出す。
コピーした力で人々を助け、時に危険にも挑む。
だが、彼の目には確かな自我が宿っている。
「結局、彼もまだ旅の途中だな」
同僚神が肩を竦め、またコーヒーを啜る。
私は玉座にもたれ、微笑む。
転生者の人生は、今日も私の観察下にある——。
力は与えた、しかしどう使うかは本人次第。
模倣の果てに自分自身を見つける旅は、まだ始まったばかりだ。
光がひとつ弾け、次の魂が静かに光の中に消えた。
また新しい物語が、静かに始まる。




