一話 発見と発覚
森の中を駆け回る事、早一時間(感覚)。
短い様で長い時間の中で、三つばかし発見があった。
1、この体パネェ。
幾ら走っても疲れないし、脚力も凄まじい。
大体測ってみた所、50m5秒だ。
あのウサ○ン・ボ○トと並んでしまった。パネェ。
2、この世界&森パネェ。
予想的中といった結果になってしまうが、やはりこの世界は異世界だった。
見た事のない果物から見た事のない動物、そして、モンスターと呼ぶべき怪物の存在を何匹か視認した。
赤い毛の大熊、それをいとも容易く微塵切りにしてしまった大剣持ちのデュラハンの様な存在だ。マジパネェ。
3つ目は、この世界の存在についてになる。
早くてもこの森の外に出てからの話になると思っていたが、2つ目の発見の時点で俺は8割方確信してしまった。
そして今、俺はその2割の確証を得る為にある物を探している。
胸の辺りまで伸びた草を掻き分け、進むに連れて暗くなって行く森の奥へと俺は足を進める(全裸で)。
すると、歪な形の木々が見えて来た。
俺は、自然と足早になる。
草を掻き分け、歪な木の前、その根元を覗けば、目的の物を見つけた。
「……これだ。これがあれば、確かめられる」
俺はそれを——ぐにゃぐにゃの枝を拾った。
勿論、ただの枝じゃない。
先端の鋭い、それでいてとてつもなく硬いぐにゃぐにゃの枝だ。
使い道は特にない。何にも使えない。
だけど、今の俺にはおあつらえ向きの武器だった。
俺は来た道を引き返し、既に目星の付けてあるその場所へと向かった。
というのも、初期位置だ。
この世界の俺のスタート地点であり、つい30分程前に生け捕りにした動物を吊るしてある、少し開けた場所だ。
「キィッ! キィィッ!」
「はぁはぁはぁ。ほれ、大人しくしなぁ。はぁはぁはぁ。痛くしないからぁ」
木に登り、蔦でぐるぐる巻きにしてあった角ありの兎を回収する。
めっちゃ暴れた。
鼻蹴られて痛い。
兎を地面に下ろしてから、俺は良心が痛むのを感じながらも枝の先端を目一杯兎の喉に振り下ろした。
血が、草と地面を汚した。
俺は直ぐに木の上に登り、枝葉の奥に身を潜めた。
それから、どれだけ時間が経っただろうか。
「……っ。来た……」
風に流れて、凄まじい獣臭が漂って来た。
方向は正面、草や枝を踏みながら何かが近づいて来ている。
俺は息を殺した。
そして、ついに茂みから奴が姿を見せた。
赤い毛に覆われた熊。俺が知る熊とは一線を画す、脊髄が棘の様に飛び出た特大サイズの大熊だ。
奴は鼻を鳴らしながら茂みを超えて、やがて、獲物をその獰猛な目に映す。
のしのしのしと、息絶えた兎の元へゆっくりと歩みを進めて、赤毛の熊は獲物の前、俺の真下にやって来た。
「うぉおおおお!!」
俺は、(全裸で)木の上から飛び降りた。
赤毛の熊が気づく。だが、遅い。
ぐにゃぐにゃの枝の先端を下に、俺は(全裸で)赤毛の熊の頭に思いっ切り振り下ろした。
赤毛の熊が地面に倒れる。
びくびくと、痙攣していた。
俺は地面にどっかりと座り込み、溜息一つ。
顔を上げて、目の前のそれを見て、俺は確信した。
「やっぱり、『《災神》クエスト』の中じゃん……」
俺の目の前には、文字の書かれたウィンドウの様な物が浮かんでいた。
そこには、こう書かれていた。
《-賢者- 3 Level UP︎》
と。