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幼馴染の男の子というものは

 「ジアンさん、男女の幼馴染設定って、とっても魅力的だと思いませんか?」

「へ?」

ハイネとジアンは、図書館の長机に座って本を読んでいた。ハイネの突然の問いかけに、一瞬思考が追い付かないジアンだったが、照れた様子で真面目に答える。

「……幼馴染?ですか……。小説とか漫画とかでよくある設定ですよね。確かに、昔、少しだけ憧れましたね。ハイネさんもそう関係に憧れたりするんですか?」

「憧れといいますか、こう……切実に推せるといいますか……。」

「推せる……?」

「はい、それが恋愛でも友情でも、昔ながらの特別な存在をお互い理解し、何でも言い合える関係はとても尊いものですよね。」

「な、なるほど……。」

「フィクションとしては、ただの幼馴染だと思っていた異性との関係が徐々に恋愛に発展していく過程も楽しいものですが、一方の片想い、例えば少年が幼馴染の少女のことがずっと好きだったが、少女の方は別の男の子に恋に落ちて、少年はその気持ちを隠しつつ少女の恋を応援するというパターンもとても切なく、幼馴染の少年にも幸せになってほしいと願わずにはいられない気持ちにさせられます。あなたの優しさは私に届きましたよと、少年にファンレターを送ってあげたいくらいに。」

ハイネは口を動かすのを止めない。

「幼ない頃からお互い想い合い、困難に見舞われながら、最後には結ばれるというパターンも読者を感慨深い気持ちにさせますよね。」

ハイネは両手を組んで胸の前に持ってくる。

「ああ、ようやく……二人の幸せな姿が見られた……頑張ったね……という感じに。」

ジアンはハイネの話す様子が可笑しかったのか、口に手を当てて、笑いながら、そうですねと言う。

「それにしても、一体何の本を読んで、幼馴染設定のことを……」

ジアンはそう言いながら、ハイネが読んでいる本の表紙に視線を移した。ハイネが読んでいたのは、シャーロックホームズの四つの署名だった。

「それ読んで幼馴染連想します?まぁ言いたいことは分かりますけど。」

「あの彼が好きな作品なので……彼らのことは永遠に推し続けたい……。」

ハイネは明後日の方向を見つめてそう呟く。ジアンは呆気に取られながらも、優しく言葉を返す。

「確かに、幼馴染の男の子が女の子のために必死に行動する姿は同じ男から見てもかっこいいと思います。女の子を大切にしている気持ちが伝わってきて。」

「はい。幼馴染の男の子というものは、女の子のことをとても一途に思っているものなのです。女の子の記憶の羽が異世界に散らばっても命懸けで探しに行くものなのです。」

「記憶の羽が散らばることはなかなか無いと思いますが。」

「甲子園にも連れてってくれるものでしょう?」

「……ハイネさん、あれでしょう?読書が趣味とかいって、漫画を読書に含めてた人でしょう?」

ハイネは顔を赤くして少し大きくなった声で言う。

「そ、そんなことありませんよ‼ちゃんと小説の知識もあります‼」

「例えば?」

「主人公の女子高生が十二個の国からなる異世界に連れていかれて、その国では子供は木から産まれる……」

「それライトなノベルですから。」

「あ、あの壮大なファンタジーがライトですって⁉」

ハイネは目玉が落ちそうになるほど、目を見開いて、ジアンに迫る。ジアンはハイネの顔が怖くて目を逸らして、ごめんなさいと言う。

「ライトノベルと呼ばれる作品だったとしても、ノベルはノベル、ライトノベルを軽視しないでください。」

ハイネはふんっと鼻を鳴らし、怒った表情でジアンから顔を逸らす。ジアンはそんなハイネの態度すら微笑ましく思った。

「ハイネさんは覚えてないだけで、もしかしたら仲の良い幼馴染とか居たのかもしれませんね。」

ハイネはそんなこと考えもしなかった。特別な幼馴染でも居たのだろうか。しかし、初期設定でその記憶がプログラムされていないということは、例え幼馴染が居たとしても、この物語には影響しないものなのだろう。

「さぁ、どうでしょうか。ジアンさんには居ないのですか?幼馴染。」

ジアンは一瞬、とても悲しそうな顔になって俯いたが、すぐ顔を上げて笑って言った。

「僕には幼馴染は居ません……僕は故郷を捨てましたから。」

「え?」

「違う国に行きたかったんです。誰も僕のことを知らない遠いところに。」

ハイネは何も聞けなかった。理由を聞いていいものか分からなかった。

「異世界に連れていかれたり、異世界に転生したり、今いる場所から全く別の場所に行く話って、とても多いし人気ですよね。それって、みんなも僕と同じように現実から逃げ出したいと思ってるからなのかな……。」

「ジ、ジアンさん……」

ハイネが話し出そうとするのを遮るように、ジアンが言った。

「前にハイネさんが言ってくれたことはちゃんと覚えてますよ。作品に感動するのは現実に生きる僕。とても素敵な考え方だと思います。」

「はい!それに、幼馴染の女の子を守る男の子も、異世界に転生された主人公も私たちに困難に立ち向かう勇気をくれます。だから、ジアンさんも……」

「そうですね。だけど、今更勇気なんて僕には必要ないんですよ。」

ハイネはジアンに困惑の表情を向ける。

「僕は、逃げ出しましたから。」

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