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本物が欲しい

 ハイネが本棚から大量の本を抱えて、受付のカウンターに戻ってくる。一冊一冊バーコードをスキャンしてバックアップとの差分を見てバグがないかを確認する。ハイネは深いため息をつき、机に伏して呟く。

「全く見つからないわ。こんなの終わるのかしら。」

記憶を探す作業に疲れ切っていたハイネのもとに、男の子が本を持ってやって来た。

「お姉さん、これお願いします。」

「貸出ね。はい、ちょっと待ってね。」

ハイネがディスプレイを操作すると、差分が見つかる。

「ごめんね、この本ちょっと不具合があるみたいなの。また今度の貸し出しでもいい?」

「えー、少し変でも大丈夫だよ?」

「うーん、でもちゃんとありのままの物語を読んでほしいから。ね?お願い。」

ハイネは両手を合わせて、男の子にお願いする。

「わかったよ。他に面白い本ある?」

「これとかどうかな?魔法の学校の話よ。魔法と無縁の生活をしていた男の子が十一歳の誕生日に魔法学校から招待状を受け取るの。私も十一歳の誕生日に招待状届かないかなー、なんて、思っていたわ。」

「面白そう!これ借りる!」

ハイネは貸し出しの手続きをする。

「はい。これで完了。」

「ありがとう!お姉さん!またね!」

男の子は走って図書館を出て行った。ハイネはふぅっと息を吐いて、椅子の背もたれにもたれかかる。

「なーんて。この記憶もただのプログラムだもの。」

ハイネはもう一度ディスプレイを見て、物語のタイトルを確認する。

「オズの魔法使いか。」

ハイネは本の表紙に手を添える。


『竜巻に巻き込まれ、知らない国に飛ばされてしまった少女ドロシー。もといた国に帰りたいという願いを叶えてもらうため、オズの魔法使いがいる都を目指す。その道すがら、カカシ、ブリキのきこり、ライオンに出会い、彼らも自分たちの願いを叶えてもらうため、ドロシーと一緒にオズに会いに行く。オズは願いを叶える代わりに、西の魔女を退治することを提示する。ドロシーたちは西の魔女を倒すことができたが、オズは魔法使いではなかった。結局、オズには願いを叶えてもらえなかったが、彼らは困難を乗り越えることで、欲しかった知恵や心や勇気は培われていた。ドロシーも最終的に無事に家に帰ることができ、めでたし、めでたし。』


ハイネは目を閉じて、物語の内容を思い出していた

「カカシは脳、ブリキのきこりは心臓、ライオンは勇気がほしかった。彼らは本物を求めていたのに。もみ殻の脳みそ、絹の心臓、勇気の出る液体……こんなの全く違う。だって本物が欲しいんだもの。」

ハイネはゆっくり目を開ける。

「さて、探しにいきましょうか。彼女の記憶を。」



ドロシーは西の魔女の罠にかかり、銀の靴を片方取られてしまう。ドロシーは北の魔女の魔法によって守られており、西の魔女はこれ以上、手出しができない。しかし、ドロシーの額に光っていた魔法の丸い印がみるみるうちにひし形の模様に変わった。すると、ドロシーの身体が動かなくなってしまった。ドロシーの異変に気付いた魔女が、もう片方の靴を奪い取ろうとしたとき、ドロシーと魔女の間にハイネが現れ、人差し指を立てて呟いた。

「フリーズ。」

すると、物語の世界が凍りつき、西の魔女の動きも止まった。ハイネは固まったドロシーの額を見た。

「これは、オリジナルのハイネのマーク。彼女の記憶が北の魔女の魔法を乗っ取ったのね。」

ハイネは、ひし形の模様に左手の指輪を添えた。すると、ひし形の模様が浮かび上がり、砕け、欠片が指輪に吸い込まれた。すると、オリジナルのハイネの記憶がデリゲートのハイネに流れ込んできた。


*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*


 「僕はあんまり好きじゃなかったです。オズの魔法使い。」

「どうしてですか?」

「せっかく頑張って西の魔女を倒したのに、何ももらえないなんて。カカシは脳、ブリキは心、ライオンは勇気。それなのに、全部偽物なんて、オズに騙されたようなものじゃないですか。」

「確かにそうですね。だけど、カカシもブリキもライオンも冒険の末、求めていたものを既に手にしていたことに気付くことができました。それは己の努力や、仲間たちがいたからです。こんなに素敵なご褒美はないと思いませんか?」

「ハイネさんは、僕みたいに捻くれてないんですね。とても聡明で、素敵です。」

照れながら微笑むジアン。


*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*-*+++*


ハイネは我に返った。

「メルト。」

ハイネがそう呟くと凍りついた世界が一瞬で解けた。身体の自由を取り戻したドロシーは、西の魔女に水をかけた。すると、魔女の身体はドロドロに溶けて、消えてなくなってしまった。ハイネはすぐに姿を消した。



ハイネは目を開けた。差分を修正した本を本棚に戻していると、図書館の扉が開いた。ジアンだった。

「ハイネさん!お久しぶりです!仕事忙しくて、なかなか来れなくて……体調はその後どうですか?」

「……はい、とても元気です。」

「それなら良かったです。あれ?それオズの魔法使いですよね?」

ハイネは偽りの笑顔をジアンに向ける。


私は


「はい……欲しいものは自分の力で手に入れる。そんな教訓を教えてくれる、とても素敵な物語です。」


本物になる。

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