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第5話 フラグって凄いよね

馬車に揺られて5日経った。

途中で厳ついおっさん達(実はあの一帯でそこそこ有名な山賊グループだった)を近くの町の騎士団に突き出した時にもらった報酬で俺の装備一式を買ってもらった。

ロングソード・・・は重かったのでショートソードを2本、それに動きやすいが頑丈に作られた冒険者用の服に靴。

そしてショートボウに道具袋。


鏡がないので確認できていないが、今の俺の姿はまさに駆け出しの冒険者といったものではないだろうか!


ルメーカ姫がしきりにもっと良い装備を買ってくれようとしたのだが、それは辞退させてもらった。

だって、俺のレベルってまだ1だよ?

装備がいくら良くても攻撃は通らないし、食らったら死ぬし。


そんなわけで余った報奨金で良い宿に泊まって良いものを食べましょうと提案した。

だって二人ともどう見ても疲れていたから。

美人が不健康そうにしてるのは見過ごせない。

そういう薄幸そうなのもありっちゃありだが、出来れば二人には笑っていてもらいたい。


そんな雰囲気のことを言うとルメーカ姫には感動され、アリィさんには笑いながら呆れられた。


というそんなこんながありながらもついにコタッカ領に着いたわけだが。



「それは本当のことなのか!?」


王城に向かう前に遠目から神殿を見ていこうという話をしていたら御者台で馬を操っていたアリィさんが驚愕の声を上げる。

何の話をしていたのかというと俺が今まで一度も魔物を倒したことがないということだ。


だってまだここに来て5日だし、馬車に乗って移動し始めてから運が良いことに一度も魔物に出会ってないし。


ちらっと御者台の方を向くと手で顔を覆って「終わった」と小さく呟いているアリィさんが目に入る。

そして恐る恐るルメーカ姫の方を向くと、意外にも彼女は変わらずにこにこと俺の方を見ていた。


「戦うだけが全てではありません。コタッカに来て頂く、それ自体が解決の糸口になるのかも知れません」


そう言ってまたペコリと頭を下げる姫。


良い子だなぁ。

どうにかして力になりたいものだ。

もしかしたら前世の知識が役に立つかも知れない。

こんな感じのアクションゲームも結構やったしね!

・・・まぁ死んで覚えるゲームだったけど・・・。


そんな感じで更にガタゴトと揺られること1時間。


「お嬢様、着きました」


御者台からアリィさんが振り返って教えてくれる。

俺と姫が荷車から降りるとそこは小高い丘の上だった。

進行方向に目を向けてみると遠くに町が見える。

町の中心あたりに大きな建物が見えるが、あれは・・・。


「あちらに見えますのがコタッカ国の都であるイターナです。中心に見えるのが王城です。他国に比べたら小さなものですけどね」


そう言って微笑むルメーカ姫。

お姫様ってもっと傍若無人な印象があったけど、本当にこの姫様は謙虚だ。

惚れそう。


「大きいのにも小さいのにもそれぞれ良さがあるよ。無理に大きくする必要なんてないんじゃないかな?」


「ユキヒロ様・・・」


若干目を潤ませこちらを見つめてくる姫様。

うんうん、今良いこと言ったもんね。

ホント、大きいのも小さいのも良いものだよ。


城の話だよ?

言ってからちょっと紛らわしいと思ったけど、本当に城の話だから!


「それで下に見えるのがイガムゥ神殿だ」


何がとは言わないが大きいサイズのエスパーアリィさんが不機嫌な顔で俺の頭をガッツリと掴んで視線を丘の下に向けさせる。


この人本当に心が読めるんじゃないかと不安になる。


「あれが神殿、か。確かに何か変な奴らがウロウロしてるな」


丘の下の神殿は三方を丘に囲まれており、一方からしか行けないようになっていた。

丁度「C」という文字の形の中にある感じ。

神殿は正方形の敷地を高い壁で囲い、前方には立派な門が設置されており、入り口から遠い場所に大きな建物、入り口側に並んで2つの建物が建っていた。

敷地面積は、ちょうど俺が通っていた学校くらいありそうだ。

その敷地の中を半分獣のようなものが二足歩行でウロウロとしているのが確認できる。


あのイノシシ? 豚? みたいなやつって。


「オーク共め・・・神聖な神殿を我が物顔で・・・!」


やっぱりオークなんだ。

上から見た感じ、数百匹は居そうに見える。

建物内にも居るだろうから実際はその倍は居るかも。


「どうですか? 何か良い策のようなものがあったりしませんか?」


「うーん、策ね・・・」


無双系のゲームなら飛び込んでワーとやってドカーンと行けそうだけど、残念ながら俺の強さ的にそれは無理だ。

というかそもそもオークの強さがわからない。


「オークってどれぐらい強いんですか? アリィさんなら苦戦します?」


「オークならいくらでも相手に出来る、と言いたいが同時にだと4,5体までだな。奴らは仲間同士で連携をする。正直あの数だと人間側も同じくらいの人数が居るだろう」


しかも、とアリィさんは悔しそうに続けた。


「神官達の報告ではこの大群を率いるオークジェネラルが居るようだ。ジェネラルとなると一対一で戦えたと仮定しても勝てるかどうか」


山賊10人を不意をついたとはいえ一瞬で片付けたアリィさんが勝てるかわからないボス。

それに加えて1000体ほどの雑魚敵。

いや、俺にとっては雑魚じゃないけど。


ふーむ。

これ、無理ゲーやん。

俺一人でどうこう出来るものじゃないよ。

大人しく討伐隊を待った方が良い気がする。


でもそれだと討伐隊が全滅しちゃうって話だし。


「例えば、この丘の上をぐるっと囲って魔法使いの人たちが爆破魔法をバンバン撃ちまくるとか?」


「そ、そんなことをしたら神殿がメチャクチャになってしまいます!」


「神殿を取り戻すために神殿を破壊し尽くしてどうするつもりだ!?」


「じ、冗談だよ」


ダメか。

この方法だと殲滅も簡単だし、討ち漏らしたオーク達も丘の切れ間に討伐隊を置いておけば逃げてきたところを一網打尽だったんだけどな。


俺達は馬車をその場に置いて丘の上を歩いて回ってみた。

しかし残念なことに何処をどう見ても敷地内にはたくさんのオーク達が居て、隙をついて突入などの奇策は思いつかなかった。


「うーん、どうしたものか」


眼前にででんと鎮座する丘の切れ目の入り口から遠い方にある重要そうな大きな建物を見下ろす。

やはりというかこの建物が大聖堂であり、女神様の像が祀られた一番大事な建物らしい。


となるとボスは大聖堂に居るだろう。

ゲームだとそうだった。


「ちなみに大聖堂の見取り図ってあったりしない?」


「見取り図はないですが、造りなら把握しています。まず大聖堂に入ってすぐ左右両側に部屋が2つずつあります。右側の2部屋が神具など色々な物が保管されていて、左側は神官の詰め所及び控室になります。それ以外は開けた大ホールになっており、一番奥に祭壇、そして女神様の像が祀られているという形です」


「それがちょうどこの真下だな」


なるほど。

イメージとしては体育館の豪華な感じといった所かな。

いや大まかなイメージだよ。


しかし、あの中にボスが居て更に雑魚がいっぱいかぁ。

何か、何か策はないかな?


俺は唸りながら身を乗り出して大聖堂を見下ろす。


窓が開いてる。

そうか、突然オーク達の襲撃があったから開けっ放しなのか。

あの窓から中の様子が見えないものか・・・。


「ユキヒロ様、そんなに乗り出したら落ちてしまいますよ?」


!?


ルメーカ姫、知っていますか?

世の中には「フラグ」というものがあって、こういう時にそんな事を言っちゃうと。


ガコッ


間抜けな音と共に俺の足元が崩れた。

そしてそのまま丘の下へ。



「ユキヒロ!」


「ユキヒロ様!!」



二人の美女からあんなに心配そうな声で名前を呼ばれるのはなんというかとても良いものだな!



そんな場違いなことを思いながら俺は大聖堂へ向かって崖を転がり落ちていった。


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