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第4話 異世界といえばお姫様!

突きつけられた鋭い切っ先。

射抜くような鋭い視線。


再び命の危機だが、こんな美人になら殺されても・・・。

いや、良くないな。


俺が一言声を出そうとしたその時、これまた鋭い叱責が空気を震わせた。


「アリィやめなさい!」


声だけで高貴だとわかる、そんな気品のある声。

それは先程俺の命を救ってくれた声に間違いなかった。


視線だけを声のした方に向ける。

本当はきちんとそちらを向きたかったが、下手に動くとデュラハンみたいに首を落とされそうだからそれは我慢した。


視線の先に、女の子が居た。

亜麻色の髪をふわふわと揺らしながらこちらに歩いてくる絶世の美少女。

ブラウンの大きな瞳はまるで宝石のようで、日本ではまず見かけないドレス姿が物凄く似合っていた。


「しかし、お嬢様」


「二度は言いませんよ」


「し、失礼しました」


最後にひと睨みして、女騎士さまは突きつけていた剣を引っ込めた。

全然納得していないのがよくわかる。


そんな女騎士さまに代わってふわふわ雰囲気のお嬢様が俺に近付きそしてぺこりと頭を下げた。


「先程は危ないところを助けていただきありがとうございました」


「え? いえいえこちらこそ」


助けたっけ?

むしろ危ないところを助けてもらったのは俺の方では?

さっき叫んでくれてなかったらスイカ割のスイカになってたし、女騎士さまに首ちょんパされていたかもしれない。

既に2回も助けてもらっている。


「しかし突然現れたかのように見えましたが、魔法か何かなのですか?」


「いや、えーと」


大きな瞳で覗き込んでくる美少女さんに胸の鼓動が大きく跳ねる。

テレビに出てくるアイドルを生で見るとこんな感じなのだろうか。

オーラというか雰囲気がもう神々しい。


しかしどう言おう?

女神さまに導かれて異世界から来ました、気が付いたらここに居たんです。


信じるか?

俺なら信じない。


「実は女神さまに導かれて異世界からここに来たんですよ。あっはっは! なんちゃっーー」


「ほ、本当ですか!?」


言葉を言い終わる前に柔らかな感触が両手を包み込んでいた。

そして目の前には美少女のドアップ。

両手を握られて息のかかるような近距離に女の子が居る。


正直16歳の思春期にはこれは刺激が強すぎますよ!


「お嬢様に近付きすぎだ! この野獣め!」


「近付いたの俺じゃないですよね!」


俺の頬に切っ先を突きつけながら凄んでくるアリィと呼ばれた女騎士さまについ反論してしまう。

だって理不尽すぎるじゃん。

・・・ラッキーとは思ったけども。

良い匂いだったし。


「貴様、なんと下劣な顔を・・・」


「顔を悪くいうのは良くないと思うな!」


「いい加減にしなさい! この方は運命の人かもしれないのよ!」


怒られ、情けない表情で引き下がるアリィさん。

強気な彼女のそういう表情も中々良いなぁ。


と思ったところで物凄い殺気を飛ばしてきたので慌てて目をそらす。

あの人エスパーか何かか?


それよりもだ。


「運命の人っていうのは何? えっと・・・」


「あぁ申し訳ありません! 私としたことが」


俺が言い淀んでいると美少女お嬢様は手をぱっと離して一歩後退し、柔らかな手の感触を惜しむ俺の前でドレス裾をつまみ片足を下げて華麗に会釈をした。


「私はルメーカ・フォン・ナンタ。コタッカ国の第三王女です。ルメとお呼び下さい」


「ええ!? お姫様なの? ど、どうりで美人で気品のある子だなぁと」


「や、やだそんな」


そんな言葉言われ慣れているだろうに恥ずかしげに身悶えをするルメーカ姫。

その後ろで満足そうに頷くアリィさんの視線が少しだけ和らいだ気がする。


「俺の名前は幸大。寿幸大ことぶきゆきひろ。ユキヒロでいいよ。でも俺が異世界から来たってよく信じたよね」


いくらなんでも突拍子がなさすぎる。

まぁでも異世界に来ていきなりお姫様と会うってのも十分に突拍子がない気もするが。


「はい、見たことがない服をお召しになられていますし、何より・・・占いに出ていましたから」


なるほど、半分は納得。

異世界の人からしたら学校の制服、しかも詰め襟なんて見たことがないだろう。

そこはわかったけど。


「占いって?」


「えぇそれは・・・」


「私から説明しよう」


姫さまに変わり女騎士さまのアリィさんが進み出てきた。

先程とは違い、敵対心のようなものはもう見えなかった。


お姫様をちょっと褒めただけでコレとは、この人チョロすぎんか?


「実はコタッカは現在、未曾有の危機に陥っていてな。コタッカがどういう国かは・・・知らぬようだな」


ふるふると首を振る俺を見てアリィさんは軽くため息をついた。

いや、仕方ないじゃんかよ。


「コタッカは他国と比べると確かに領土は小さい。しかし他国では考えられぬくらいに自然が豊かであり平和な所だ。そして何より一番の特徴が・・・」


一度言葉を切るとアリィさんはルメーカ姫の方に視線を移す。

つられて俺もそちらを見ると、姫様は照れたような表情ではにかんだ。


ヤバ、反則でしょその仕草。


「王族であるナンタ一族、お嬢様や父君であらせられる陛下は神様からの寵愛を受けておられるのだ!」


高らかに言い切ると、いっそ気持ちの良いドヤ顔で豊かな胸を張るアリィさん。


詳しく聞くとこういうことらしい。


二人の祖国であるコタッカ。

そこは田舎の小さな国ではあるが、人々は静かに、しかし豊かに暮らしているらしい。

希少な鉱石が取れる鉱山、質の良い材木。

資源に恵まれた土地だが他国からの侵略というものに縁がない平和な国。


その理由というのが、ルメーカ姫をはじめとする王族達である。

彼女たちは神々から愛され、神託を受けることが出来ると言われている。

過去様々な苦境をその都度、神託によって乗り越え発展してきた。

そんなコタッカを侵略して神の怒りに触れるより、友好的な関係を築く方を他国が選択したのも頷ける話だ。


しかし、一ヶ月ほど前に異変が起こった。


コタッカの聖地である「イガムゥ」

神殿があるこの地でルメーカ姫を含む王族は祈りを捧げ神託を賜っていた大事な場所。

そのコタッカ国の生命線とも言える神殿が魔物に占拠された。


あっという間の出来事で、突如押し寄せた魔物の集団に神殿の神官達は逃げ出すことで精一杯だったらしい。

その報告はすぐに王城へと伝えられ、討伐隊を現在結成している。


と、いうことをアリィさんは苦悶の表情で語ってくれた。

拳は出血してしまうのではないかというくらいキツく握りしめられていた。


でもここで疑問が生じた。


「じゃあなんで二人はここに居るの?」


討伐隊を結成しているのであれば、城でそれを見守るだけでいいのではないのか。

何もお姫様がこんな危ない所に出てくる必要もない。

それと、運命の人というのも気になる。


「実は、私どうしても不安で・・・。占ってみたんです。そうしたら神殿でないところで初めて神託が降りたのです」


ー討伐隊は全滅する。それを防ぐには異界からの迷い人を探せー


と。


「しかし、神託が神殿以外で降りることはないと言って父は信じてくれませんでした。不安に思う気持ちはわかる、だが討伐隊に全て任せておけ、と。だから・・・」


「アリィさんと異世界の迷い人を探しに出た、と」


はい、と小さく頷くお姫様。

確かに国の一大事に不確かなことに手を出している時間も余裕もないだろう。

そこでたった二人で宛もない旅に出るこの二人の豪胆さも中々目を見張るものがあるが。


しかし。


「王様も酷いなぁ。俺ならお姫様の言うことなら信じちゃうけど」


だってこんな可愛い子が嘘言うわけないじゃん。


「そう、そうなのだ! いや、いやいや! 貴様も中々見込みがあるじゃないか!」


バッシバッシと俺の背中を叩くアリィさん。

もしかしたらこの人は脳筋なのかもしれない。

ルメーカ姫とはまた違った高貴な雰囲気なのに全く残念な美人だ。


「では信じて、頂けるのですか?」


不安そうにしながらも期待を隠せないそんな上目遣いで俺を見上げるルメーカ姫。

反則級、いやチート級に可愛い。

こんなの抗えるわけ無いじゃん!


「信じる! もう超信じちゃうよ!」


「あ、ありがとうございます! では私の国を、コタッカをお救い下さい!」


「うん、いいよ! ・・・え?」


「やった! アリィやったわよ!」


「流石お嬢様です!」


ちょ、ちょっと待った!

お姫様の国を救うということは、だ。

もしかして、いやもしかしなくても。


「これでコタッカは救われるわ!」


満面の笑みでぴょんぴょん跳ねて喜ぶルメーカ姫を前にして否定的な言葉を発することが出来るだろうか?


出来ないよね、出来ない。


こうしてほんのちょっと前までただの高校生だった俺の大冒険が始まったのだった。



お願いだから初めてはスライムとかそういう可愛い魔物にして下さい!


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